2025年の秋、自民党の大物たちは総裁の座をめぐる争いを終えたばかりだった。世間の関心は、「初の女性総裁」と「最年少総裁」のどちらが先に日本政治の現実となるのか、そして「次期首相」が少数与党という逆風をどう乗り越え、内外の課題や難題を解決していくのかに集まっていた。だが、この五者が一つの椅子を争った総裁選では、候補者たちがそろって「失われた世代」と呼ばれる労働人口に焦点を当てた一方で、単一民族国家として知られてきたこの島国に前例のない速度で移民労働者が流入し、地方の農地から都市部の介護まで、労働力の空白を埋めている。
表面的には並行して見えるものの、実際には深く絡み合うこの二つの潮流は、日本の将来のアイデンティティをめぐる静かな革命を同時に形づくっている。一方では政治が中産階級に対する覚醒と迎合を示し、他方では経済が「新日本人」への不可逆的な依存を強め、そこに伴う社会的痛みと融合の課題が横たわる。
シルバー民主主義の黄昏?自民党の「中年の覚醒」
「労働世代が本当に『努力が報われる』と実感できる日本をつくる!」――前経済安全保障担当相の小林鷹之は9月22日の合同会見でこう力強く訴え、2025年の日本政界における核心的変化を的確に言い表した。
長らく日本政治は、いわゆる「シルバー民主主義(シルバーデモクラシー)」に支配されてきた――政治家は投票率の高い高齢層を優先し、政策もその方向に傾く。しかし、2025年7月の参議院選挙は、自民党に痛烈な一撃を与えた。結果は、労働年齢層の有権者が大規模に自民党を離れ、消費税減税を掲げた野党に票を投じたことを示した。自民党の現金給付策は、彼らの目には非現実的で、どこか侮蔑的にさえ映った。
『日本経済新聞』が引用した選後の検討報告は、「共働き世帯への対応が皆無」「自民党は高齢者を優先し、若い世代を見捨てた」との声を伝える。さらに同報告は、この「シルバー民主主義」というレッテルこそが支持離れと他党への票流出を招いた決定的要因だと率直に認めた。
まるで長い夢から覚めたように、与党はようやく現実を直視した。この石破茂氏の後継を決める総裁選で、候補者5人――小泉進次郎氏、林芳正氏、茂木敏充氏、小林鷹之氏、高市早苗氏はいずれも政策の重心を中産階級と労働世代に移し、「中年世代へのアピール」を競う政策軍拡を繰り広げた。平均年収を100万円引き上げる(小泉進次郎氏)、毎年1%の実質賃金成長を常態化させる(林芳正氏)、3年で賃金10%増(茂木敏充氏)、具体的数値を掲げない小林鷹之氏と高市早苗氏も、可処分所得の拡大を中核公約に据え、所得税法の見直しで実現する計画を示した。
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さらに、各種の税制改革や減税案の提示、さらには野党の「消費税10%引き下げ」提案を検討・議論する可能性までが、有権者の支持獲得に向けた争点となった。しかし、減税と歳出拡大の約束は日本国債利回りを直近で史上最高水準に押し上げ、ムーディーズ・アナリティクスのエコノミスト、ステファン・アングリックは「誰が勝っても結果は大差ない。政府は財政ブレーキを緩め、家計の生活コスト圧力を和らげる方向へ向かう」と指摘する。
だが、この喧噪に満ちた政治的公約の裏側で、より深く、避けて通れない経済の現実が、日本社会の基盤を急速に組み替えつつある。
経済学者が「仕事を奪う」論を否定 外国人こそ日本財政の救世主?
政治家たちが「いかに日本国民の懐から少しでも取らないか」を巡って論争を続けるなか、経済データはすでに残酷な現実を示している。「外国人の懐」なしでは、日本経済はさらに深刻な状況に陥る可能性があるのだ。出入国在留管理庁の最新統計によると、2025年6月末時点で日本に在留する外国人は395万6,619人に達し、過去最高を更新。わずか半年で18万7,000人以上も増加した。しかも、この数字には3カ月未満の短期滞在者は含まれていない。
注目すべきは、こうした「新日本人」がもはや東京や大阪といった大都市圏に集中していない点だ。『日本経済新聞』によれば、2014年から2024年の10年間で、宮崎・熊本・和歌山・青森など7県では外国人労働者の数が4倍以上に増加した。宮崎県では2014年、労働者294人に1人が外国人だったが、2024年にはその比率が1対63にまで上昇している。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの主任研究員・加藤誠氏はこう語る。「私たちはある法則を見出しています。日本人が減少している地域ほど、技能実習生や特定技能労働者が多くなっている。地方では、外国人の存在感がますます際立ってきているのです。」
現在、日本の宿泊・飲食サービス業では15人に1人が外国人。製造業では17人に1人。建設業では過去10年で9倍、医療・福祉分野(介護職を含む)では8倍、漁業でも6倍に増えている。移民労働者の姿は、いまや日本経済のサプライチェーンに欠かせない存在であり、高齢化と少子化で崩壊寸前の産業を支える屋台骨となっている。
日本社会には長年、外国人労働者に対して「仕事を奪う」「社会秩序を乱す」といった懸念が根強く存在してきた。しかし、『日経』と日本経済研究センター(JCER)が2024年に共同実施した調査によれば、こうした見方は経済的には誤りであることが明らかになった。
約50人のトップ経済学者で構成される「経済学者グループ」による調査では、実に76%が「外国人居住者の増加は日本人の生活水準を向上させる」と回答。東京大学の田中麻理・労働経済学副教授は「外国人労働者の増加は、商品やサービスの供給不足を緩和し、物価上昇を抑える効果がある」と指摘している。
理由は単純だ。彼らは若い――法務省の2024年末の統計によると、在留外国人のうち20代・30代が55.9%を占める。
カナダ・ブリティッシュコロンビア大学の笠原博幸・国際貿易学教授は次のように分析する。「より多くの外国人を受け入れることで、労働人口に占める若年層の割合が上がり、税収や社会保険料の拠出が増える。」一橋大学の佐藤基宏・公共財政学教授も補足する。「多くの外国人居住者は労働世代に属しており、税金や保険料で支払う金額のほうが、彼らが受け取る社会保障給付よりはるかに多い。」
「ようこそ、でも私の裏庭ではない」 東京が直面する共生の痛み
世界最大の都市圏・東京では、外国人がもはや単なる労働力ではなく、人口構造を動かす中心的な原動力となっている。総務省の人口調査によると、2025年1月時点で東京都の年間人口増加9万人超のうち、実に81%が外国人だった。
特に新宿区と豊島区では、その傾向がさらに顕著だ。2024年時点で、20〜24歳の若者のうち外国人の割合はそれぞれ37%と38%に達している。これらの地域を歩けば、聞こえてくる言葉、見かける顔が、すでに多文化時代の到来を告げている。
しかし、こうした急速な人口構造の変化は、深刻な社会的摩擦を生み始めている。
2025年9月、東京都庁前には連日デモの人波が押し寄せた。抗議者たちは「移民反対」と書かれたプラカードを掲げ、「東京都はエジプトとの労働協定を撤回せよ」と声を上げた。この協定は、東京都とエジプトの商業団体が8月に締結したもので、エジプト人労働者が日本で職を得られるよう支援することを目的としていた。だが、単なる労働協力の取り決めに過ぎないこの合意が、SNS上での誤情報と過剰反応によって「排外的な怒り」の火種となってしまった。
この排外的な空気は、政治の世界にも波及している。7月の参議院選挙では、「日本人ファースト」を掲げる新興保守政党・参政党が大きく議席を伸ばした。移民政策は、いまや自民党総裁選でも避けて通れない核心的テーマとなっている。さらに、日本国際協力機構(JICA)は9月25日、虚偽情報の拡散を理由に、アフリカ諸国との交流促進を目的としたある計画を中止した。東京都の担当者は、「虚偽の情報に基づく苦情が急増している。これでは外国人関連の政策推進がますます難しくなる」と危機感を示している。
この問題は、江戸川区において最も具体的に表れている。
同区では近年、ネパール人居住者が急増し、2025年7月時点でその数は5万8,185人に達した。3年前の2.2倍であり、ベトナム系を抜いて中国・韓国に次ぐ第3の外国人コミュニティとなっている。
それでも、共生に向けた取り組みは確実に進んでいる。9月17日には、区役所が同校の生徒を対象に「交通ルールとマナー講習会」を実施。学校側もすぐに対応し、学生や保護者に向けた「日本での生活マナー講座」を開講した。
さらに9月20日、校長のカル・メータ氏は生徒約30人を引率し、小岩駅周辺で清掃活動を行った。メータ校長は「もし私のネパールの故郷に突然多くの外国人が押し寄せたら、私も不安になるだろう。この活動は地域の人々との対話のためです」と語った。
江戸川区にとって、外国人の流入は初めての経験ではない。2000年代以降、区南部ではインド人居住者が急増し、今では地域社会に完全に溶け込んでいる。小規模な祭りの実行委員を務めるインド系住民もおり、地域の一員として定着している。
江戸川区の齊藤猛区長は、2100年までに「区民の5人に1人が外国人になる」と予測。そのうえで次のように語る。「介護や建設などの分野では外国人労働者は欠かせない存在です。特別な優遇はしませんが、日本人と同じ水準の行政サービスを受けられるようにすることが、行政の責務だと思います。」
二本柱の戦略:エリート誘致と現場管理の両立を目指す東京
避けられない人口変化の波を前に、東京都は「二本柱(デュアルトラック)」の戦略を進めている。一方では世界中のトップ人材を積極的に受け入れ、もう一方では膨大な数のブルーカラー労働者をより効果的に管理する。この両輪を回すことで、東京都は「世界一の都市」という長期目標の実現を目指している。
東京都の小池百合子知事は、2030年までに高度外国人専門職の数を2024年の水準から倍増させ、5万人にするという大胆な計画を掲げている。この目標達成に向けて、都政府は11月にも「国際学校支援総合プラン」を立ち上げる予定だ。
この計画では、国際学校の設立を希望する事業者に対し、校地の確保支援、土地や建物所有者とのマッチング、事業計画の策定支援、さらに金融機関や投資家の紹介までを含むワンストップサービスを提供する。教育環境を整備することで、家族を伴う外国人エリート層の定住を促す狙いだ。また、9月には英語による総合相談センターが新設される。同行通訳を含む医療サポートや、銀行口座開設の手続き支援など、外国人の生活全般を支える体制を整える。
小池知事は7月、米ワシントンのハドソン研究所での講演で次のように強調した。「私たちは言葉の壁をなくし、高度外国人材とその家族の生活を支援することで、移住と投資のハードルを取り除いていきます。」
一方で、日本政府も労働力政策の大転換に踏み出している。長年批判の的となってきた「技能実習制度」は、2027年に「育成就労制度」へと移行する予定だ。この新制度は、外国人労働者がより高度な技能を身につけ、家族帯同と無制限の在留更新が可能な「特定技能2号」への移行を目指す内容となっている。
法務省の統計によると、2025年6月時点で特定技能2号を取得した外国人は3,073人に達し、前年から270%も増加した。一方で、法務大臣の鈴木馨祐氏は今月の記者会見で、「不法滞在者ゼロプラン」に基づき、6月から8月の3カ月間で119人を強制送還したと発表した。この数字は前年同期の2倍にあたる。
「一方の手で受け入れを広げ、もう一方の手で管理を強化する」。日本政府はいま、経済成長の現実的要請と、社会安定・国家アイデンティティの維持という相反する課題のあいだで、極めて繊細なバランスを取ろうとしている。自民党による「中年層への覚醒」は、一時的な選挙戦略なのか。それとも、国家の持続的発展には労働世代の福祉を基盤に据えるべきだという構造的転換の兆しなのか。
そして、日本経済を支える「新しい日本人」たちへの依存は、この国の文化的肌理(きめ)と自己認識をどのように変えていくのか。「日本人とは誰か」——。その問いへの答えこそが、日本の経済的未来だけでなく、この国の“魂”のかたちをも決定づけることになるだろう。