山梨県富士吉田市、富士山駅から徒歩1分の場所に、着物レンタルと宿泊を組み合わせたユニークな施設「KIMONO MEGU」がある。台湾出身のオーナー・めぐさんが、和装の魅力を丁寧に伝え続けており、《風傳媒》の取材に応じ、観光地として名高い富士山のふもとで、日本文化と自身のルーツを結びつける日々を語った。

東京で30年以上生活してきためぐさんは、かつて秋葉原で民宿を運営していた。宿泊客の声の中で「富士山に行きたい」という希望が多く、より自然に近く静かな環境を求め、富士山駅近くに移住。自身が長年親しんできた日本文化の一端である着物を生かしたビジネスに取り組み始めた。

和服店を開く契機となったのは、夫の家系が着物関連事業に携わっていたことだ。高齢の親族が管理する和服が使われずに眠っていたこと、そしてそれを「文化として活かしてほしい」という想いがめぐさんの背中を押した。「観光地でありながら文化的価値のある富士山のふもとで、日本の美しさを届けたい」との意志で現在の店舗を開業した。

「KIMONO MEGU」の最大の特徴は、着物の品質へのこだわりにある。観光客向けの簡易な素材ではなく、日本人が実際に使用してきた本格的な着物を提供。「光沢のある化学繊維ではなく、落ち着いた色味と質感を大切にしている」とめぐさん。帯や草履、髪飾りなどの小物も丁寧に選び、客の希望や雰囲気に合わせたコーディネートを行う。「流れ作業にはしたくない。せっかくの文化体験だから、細部まで楽しんでほしい」と語る。
利用者は一人旅の女性から四世代の家族旅行まで幅広い。印象的なのは、20人以上の四世代家族や、草苺のブーケでプロポーズしたカップルの体験だ。「和装には、特別な日をより特別にする力がある」とめぐさんは微笑む。
顧客のニーズに応え、ヘアセットやプロの写真撮影、メイクサービスも充実。かつてはオプションだった化粧も、めぐさんが「素顔では和服に負ける」と考え、自ら手伝うようになった。「人生で2度目のメイクがここだった」という客もいる。この気配りと情熱は、文化体験への誠実さを示している。
近年では、台湾や香港のフォトグラファーと連携した和婚撮影プランも人気。白無垢や色打掛を用い、富士山の雄大な景観を背景に神社での儀式風景を撮影するプランは、人生の節目を演出する「儀式体験」として注目される。台湾の撮影チームとの連携では、神社と正式に調整し、文化的マナーに配慮した撮影を行っている。
めぐさんは、日本への最初の訪問を旅行として体験。その後、導遊(ガイド)の仕事に関心を持ち、語学留学、大学・大学院進学、東京での民宿経営へとつながった。「人生の初心を大切に。形は違っても原点に立ち返る思いで仕事を続けている」と語る。
「和服は単なる衣装ではなく、着る人の姿勢や所作を変える力がある。ゆっくり歩いたり、背筋が伸びたり、自分が少し違って見える。そうした“非日常”を体験してほしい」という想いは、KIMONO MEGUに訪れる全ての人に丁寧に届けられている。

同施設では、振袖、訪問着、小紋、浴衣、男性用袴、子ども用、白無垢まで幅広く揃え、価格は8,000円から80,000円。レンタルにはヘアセット、髪飾り、草履、和バッグ、和傘などの小物が全て含まれ、追加料金なしで本格的な装いを楽しめる。宿泊との併用で返却時間に縛られず、一日をゆったり過ごすことも可能。スマートフォン撮影からプロによる撮影まで、目的に応じたサービスも提供され、富士山の絶景を背景に思い出をかたちに残せる。
編集:田中佳奈
世界を、台湾から読む⇒風傳媒日本語版X:@stormmedia_jp (関連記事: 台湾出身、層雲峡で生きる。「北海道の自然と共に働く」台湾人ガイド、Tobyさんの物語 | 関連記事をもっと読む )