張鈞凱のコラム:「台湾有事は日本有事」という幻想と現実

2025-10-08 16:40
自民党総裁に選出された高市早苗氏は、日本初の女性首相となる可能性が高い。しかし、これは日本の政治発展に必ずしもプラスとは限らず、彼女を熱烈に支持する台湾にとっても、必ずしも喜ばしい出来事とは言えない。 (写真/AP通信)
自民党総裁に選出された高市早苗氏は、日本初の女性首相となる可能性が高い。しかし、これは日本の政治発展に必ずしもプラスとは限らず、彼女を熱烈に支持する台湾にとっても、必ずしも喜ばしい出来事とは言えない。 (写真/AP通信)
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自民党総裁選の決選投票で10月4日、高市早苗氏が小泉進次郎氏を破り、第29代自民党総裁に選出された。これにより、彼女は日本の首相となる可能性が高まった。安倍晋三氏の政治路線を忠実に継承する存在として、高市氏の勝利に台湾の民進党政権は隠しきれないほどの喜びを示した。台湾の言論界でも「造神運動」とも呼べる熱狂が広がり、高市氏が「蔡英文総統に憧れている」と発言したことが繰り返し強調され、「反中・保台の堅固な同盟者」として神格化されつつある。

「日本の鉄の女」か、それとも「女性版トランプ」か

台湾のメディアや評論家たちが高市氏に寄せる期待は、海外メディアの視点とは大きく乖離している。その熱狂ぶりは、まるで「台湾独自のフィルター」を通した感情的投影のようでもある。英国のBBCは、高市氏を「日本の鉄の女」と呼び、かつてのマーガレット・サッチャー元首相と重ね合わせた。しかし、「新自由主義」の伝道者だったサッチャーの名が、格差拡大と社会的分断に苦しむ現代の資本主義世界において、果たして肯定的に響くのかは疑問符がつく。

一方、日米メディア両方で活動するアメリカ人ジャーナリスト、ジェイク・アデルスタイン(Jake Adelstein)氏は、より辛辣な評価を下す。彼は日本の裏社会と政治の闇を長年取材してきた経験から、高市早苗氏を「日本の女トランプ」と呼び、「安倍晋三2.0」と評している。彼の見立てでは、「高市氏の台頭は、日本の民主主義にとって最悪のシナリオだ」という。

煽動と排外主義の上に築かれた「人気」

アデルスタイン氏の分析によれば、高市氏の政治的な成功は、排外主義的な感情を巧みに煽るポピュリズムと、自己正当化を伴う歴史修正主義に支えられている。彼女は過去、なんの証拠もないまま「外国人が奈良公園の鹿を蹴ったり殴ったりしている」と発言したことがある。この言説は、米国のトランプ大統領や副大統領のJ.D.ヴァンス氏が「移民は猫や犬を食べている」と主張した言葉と酷似しており、むしろそれ以上に過激であると指摘されている。

「ヒトラー式選挙戦略」を称賛した政治家の危うさ

さらに懸念を深めるのは、高市氏がかつてアドルフ・ヒトラーの選挙戦術を「学ぶべきもの」として称賛した経歴を持つ点だ。アデルスタイン氏は次のように述べている。「彼女の唱えるナショナリズムは、指導力というよりも呪術のようなものだ。過去の亡霊を呼び覚まし、生者を恐怖で縛りつける――それが彼女のやり方だ。」

そして彼は、こうも続けた。「日本初の女性首相の誕生は本来、進歩の象徴となるはずだった。だが、今の高市早苗氏の姿は、むしろ弔辞のように聞こえる。彼女が演説をするとき、その表情にはムッソリーニ(Benito Mussolini)が処刑直前に浮かべた、あの不気味な笑みが重なって見える。」 (関連記事: 「台湾有事はアメリカ有事」 新国防戦略、台湾防衛を表明―米軍が中国の台湾奪取をどう阻止するか 関連記事をもっと読む

トランプ政権「再登場」で日本にも広がる「疑米論」

高市早苗氏の個人的な政治スタイルから一歩離れて見れば、台湾側が示す過剰な熱狂と歓迎ムードは、彼女の政策路線への共感というよりも、「台湾有事は日本有事」というフレーズへの執着に近い。だが、この言葉は、まるで「呪文」のように独り歩きしている。事実として、安倍晋三元首相が現職時代に公の場でこうした表現を口にしたことは一度もない。むしろ、首相在任中の安倍氏は中国との関係改善を模索しており、対中関係が大きく冷え込むのは、米国が中国の台頭を抑制する「インド太平洋戦略」に舵を切った以降のことである。

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