自民党総裁選が終了し、日本の政界に大きな波紋を呼んでいる。高市早苗氏の勝利は、ただの政治的な変化にとどまらず、日本のジェンダーの天井を打ち破り、安倍晋三元首相時代の経済政策と外交路線が再び復活する兆しを見せている。投資家たちは、新政府が財政刺激や強硬な外交政策を採ると予想し、その影響が日本市場に与える影響に注目している。
自民党内の保守派のリーダーとして、党首の座に就いた高市早苗氏は、現首相・石破茂から政権を引き継ぎ、女性として初めて日本の首相に就任する見込みだ。「フィナンシャル・タイムズ」紙は、64歳の高市氏が、自らを「ワーカホリック」と称し、経済再生に向けた強い意志を持っていることを報じている。現在、日経平均は高水準を維持し、インフレ率は日本銀行(BOJ)の2%目標を3年以上も超えているが、株式市場は好調を維持している。しかし、アメリカとの5500億ドル(約81兆円)規模の貿易協定に関する問題が今後の重要な課題であり、高市氏はその再交渉に意欲を示している。
2025年10月4日、高市早苗氏が自民党総裁選に勝利した。(AP通信)
「高市経済学」の登場:市場は歓喜と不安 高市早苗氏が自民党総裁に選ばれた直後、最初の取引日で、円は対ドルで150円を突破し、対ユーロでも歴史的な安値を更新した。日本株市場は6日の昼に4%以上急騰し、ついに47,000ポイントを突破した。一方、30年物の日本国債(JGB)の価格は急落し、利回りは歴史的な高水準に達した。アセットマネジメントワンの首席ストラテジストである淺岡仁氏は、路透に対して「市場は日経平均が年末に48,000ポイントに達することを見込んでいたが、高市氏の党首選出でこの見通しが前倒しになる可能性がある」と述べている。
円が売られ、日本株が買いあさる中、東京株式市場は急騰し、円相場は急落という異常な相場展開が現れた。日本の大手証券会社の高位トレーダーは匿名で「基本的に『高市トレード』は株式市場には好材料だが、大量の新たな財政刺激が行われる場合、JGBや為替市場での変動が予想される」と語った。
2025年10月4日、高市早苗氏が自民党総裁選に勝利した。(AP通信) 「高市トレード」という新たな市場用語は、投資家が新政府に対する期待を抱き、政府の大規模支出が市場の好転をもたらす一方で、それによって引き起こされる債務や為替リスクへの不安を突き合わせている現状を指している。
アナリスト、トレーダー、外交官らは、高市氏の政権が不確定要素を多く含んでいると広く見なしている。市場は「アベノミクス」時代のシナリオが再現されると予想し、円安、優遇された株式市場、そして長期日本国債利回りの急騰が見込まれている。
2025年10月4日、高市早苗氏が自民党総裁選に勝利後、読売新聞が即座に東京街頭で号外を配布した。(AP通信) みずほ証券の首席ストラテジスト、大森昭氏は、「投資家の視点から見ると、もし安全網なしに大量発行の日本国債を意味する政策が実施される場合、債券市場には売り圧力がかかるだろう」と指摘している。
高市氏の日本銀行への姿勢も市場に不安を与えている要因だ。高市氏は、昨年の党首選での落選時よりも多くの政策で穏やかな姿勢を見せたが、過去には日本銀行の利上げを「愚かだ」と公開批判しており、これが一部のアナリストの10月の利上げ予想に影響を与えている。高市氏は、むしろ財政刺激計画を支えるために日本銀行に対し、緩和的な金融政策の維持を強く求める可能性が高いとされている。
安倍晋三の師を仰ぐ:「鉄の意志」の鷹派外交路線 日本の古都、奈良出身の高市早苗氏は、「フィナンシャル・タイムズ」によれば、重金属バンド「アイアン・メイデン」のファンであり、プロ野球・阪神タイガースの熱心な支持者でもある。政治的には、イギリスの故マーガレット・サッチャー元首相を崇拝し、また故安倍晋三元首相の最も忠実な支持者でもある。
安倍晋三元首相との深い関わりがあるため、高市の外交政策には慎重な見方や懸念が付きまとう。彼女の強いナショナリズムは、日本と隣国、特に中国や韓国との関係を再び緊張させる可能性がある。
2006年9月26日、当時の日本首相安倍晋三氏と新内閣が撮影した写真で、後列一番左にいる高市早苗氏は内閣府特命担当大臣で、沖縄・北方対策、科学技術政策、食品安全、イノベーション、少子化・男女共同参画などを担当。(AP通信) 安倍晋三元首相は、2013年から2020年の首相在任中、靖国神社参拝によって中国各地で大規模な反日デモを引き起こし、日韓関係を悪化させた。高市も、首相になれば靖国神社参拝を行う意向を示している。選挙キャンペーン中にはその態度を軟化させたが、彼女の歴史修正主義やナショナリズムは明確に現れている。
東京国際キリスト教大学の政治学および国際研究の教授、スティーブン・ナギー氏は、高市の政治的運命と日本の地政学的地位が、過去の戦争修正主義と中国への強硬姿勢をどこまで和らげられるかにかかっていると警告している。もし彼女が「台湾有事」などで過度に強硬な立場を取れば、日中関係は急速に悪化し、中国に多くの投資をしている日本企業に大きな影響を与える可能性がある。
2025年10月4日、高市早苗氏が自民党総裁選後に演説を行っている。(AP通信) 高市が即将就任を控え、外交力が試される2つの重要な試練が待ち受けている。まず、10月下旬にアメリカのトランプ大統領が東京を訪問予定であり、次にソウルでアジア太平洋経済協力会議(APEC)が開催される。これらの機会で、日本の最重要同盟国や中国の指導者と直接対話を行うことになる。
分裂する自民党と脆弱な政権 「自民党に初の女性総裁を迎えた今、風景は少し変わるだろう。」高市早苗氏は勝利後、自民党総裁の椅子に座りながらこのように語った。しかし、彼女が直面するのは分裂と挑戦に満ちた政治状況だ。
極端な保守派のリーダーとして、まず高市早苗氏が取り組まなければならないのは、分裂した自民党をどう団結させ、再活性化させるかということだ。今回の党首選挙では、彼女のライバルであり、44歳の魅力的なリーダー小泉進次郎氏が、より党をまとめる役割を果たすと期待されていた。高市早苗氏は勝利したが、党内の路線争いが収まったわけではない。
2025年10月4日、高市早苗氏が自民党総裁選に勝利後、農業大臣小泉進次郎氏と握手を交わしている。(AP通信) 自民党は過去70年間、長期にわたって政権を維持してきたが、金権政治や派閥政治が有権者に嫌悪され、国会の上下両院で支配権を失う事態に至った。これにより、石破茂氏が総裁と首相の座を辞する決断をした。一方、自民党保守派の基本的支持層は、新興のポピュリスト政党「参政党」や「国民民主党」などに流れつつある。高市早苗氏がこれらの政党を取り込み、また心変わりした有権者を取り戻せるかどうかが、彼女の最大の試練だ。
分析家たちは、国民民主党が成長のために積極的な財政支出を必要としている点で、高市早苗氏の信念と一致し、いくつかの減税政策では支持を得られる可能性があると指摘している。高市早苗氏は、参政党から失望した極端な保守派の支持者を取り戻すための努力も試みるかもしれない。
日本が直面する現状は本当にアベノミクスの苦果か? 一方、東京天普大学の政治学者ジェフ・キングストン氏は鋭く批判している。彼は、円安、高い移民率、物価上昇が「自民党の支持を侵食している政策」であるとし、これらはアベノミクスの結果であると主張している。「高市早苗氏はアベノミクスの有毒な遺産を背負っている」とジェフ・キングストン氏は語った。
また、「日本フォーサイト」の創設者トビアス・ハリス氏は、高市早苗氏の強硬保守主義が自民党の長期的な連立パートナーである公明党との摩擦を生むと警告している。公明党の平和主義と仏教的背景は、高市早苗氏の多くのタカ派主張とは相容れず、両党の連立関係は厳しい試練を迎えるだろう。
2025年10月4日、高市早苗氏が自民党総裁選に勝利後、オフィスで撮影された写真。(AP通信) もし連立が崩れれば、高市早苗氏率いる自民党は少数派として国会での運営を強いられ、執政が困難になるだろう。あらゆる法案や予算について反対党との予測不可能な交渉が必要となり、政権運営が一層厳しくなる。トビアス・ハリス氏は、高市早苗氏が少数政権の運営に苦しんだ場合、早期選挙を実施する可能性が高いと指摘している。
高市早苗氏は自民党がトランプ政権に対抗するための好材料か? 「防衛優先」政策を提案するシンクタンク「国防重視」の軍事分析主任であるジェニファー・カヴァナ氏は、高市早苗氏が日本の防衛力強化を公約し、国防予算を大幅に増加させるとした点が、トランプ政権にとって非常に魅力的だと述べている。この観点から、高市氏は自民党がトランプ政権に対抗するための「好材料」だと言えるだろう。
しかし、カヴァナ氏は警告もしている。高市氏の強硬な中国政策がアメリカにとって二重のリスクをもたらす可能性があるというのだ。カヴァナ氏が属する「抑制派」の外交思想は、トランプが任命した副大統領であるJD・ヴァンス氏らの考え方に近いものがあると指摘している。カヴァナ氏は、高市氏が選出された場合、アメリカの対中国戦略が一層強硬になり、地域の緊張がさらに高まるだろうと分析している。つまり、強硬な日本の姿勢がアメリカのハト派勢力に圧力をかけ、戦略的に柔軟性を失わせる可能性があるという。日中関係が悪化すれば、最終的にはアメリカもその渦中に巻き込まれ、アメリカの最善の利益を犠牲にして、介入せざるを得なくなる可能性がある。
一方、元バイデン政権の国安会議東アジア・大洋州担当上級主任のミラ・ラップ・フーパー氏は、高市早苗氏は日本とアメリカの同盟を強化するだけでなく、地域の調整者としての役割を担うべきだと強調している。特に「四方安全対話(Quad)」や「米日韓」「米日フィリピン」といった多国間の枠組みを活用し、地域の連携を強化する必要があると言っている。ラップ・フーパー氏は、「東京は地域の他の同盟国を団結させなければならない。さもなければ、中国はこれをチャンスと捉え、地域の支配を進める可能性がある」と警告している。
2025年10月4日、高市早苗氏が自民党総裁選に勝利後、党員に向けて挨拶を行っている。(AP通信) 多くの分析家も、高市早苗氏とトランプ政権の初対面が今後の二国間関係に影響を与えるだろうと予想している。アメリカ企業研究所(AEI)の上級研究員ザック・クーパー氏は、「一つの重要な問題は、貿易問題を含めてアメリカからの圧力に対して高市氏がどれだけ『戦略的自主権』を強化するかという点だ」と指摘している。彼によれば、これからの重要なポイントは、高市氏とトランプ氏との最初の対話の結果にかかっている。「もしアメリカとの緊張が高まり、同時に韓国や中国との関係も悪化すれば、日本は孤立を深めるかもしれない」と警告している。
ブルームバーグのコラムニスト、ジョン・オザーズ氏は、安倍経済学の三本の矢(超緩和的貨幣政策、大規模財政刺激、構造改革)が未完成であったことを指摘し、今後、高市早苗氏が日本経済の課題をどのように解決するかが重要だと述べている。特に、「最終的な矢」として経済改革を実行できるかどうかが、日本経済の将来において最も重要な鍵となるだろうと予測している。
また、投資銀行家のジェスパー・コール氏は、高市早苗氏が経済学者フリードリヒ・ハイエク氏を尊敬しており、その自由主義的経済観は、英国の元首相マーガレット・サッチャー氏と共通点があると指摘している。この自由主義的な本能が市場に新たな希望をもたらす可能性があると予測している。もし高市氏が規制緩和や民営化を進め、産業統合を加速する会社法改革を実現すれば、日本経済は新たな成長を遂げるかもしれない。
高市早苗氏の勝利は、日本政治における重要な転機となった。彼女は女性初の自民党総裁に就任し、新しい一歩を踏み出したが、その政策には大きなリスクも伴っている。経済改革と外交戦略のバランスを取ることが求められる中で、今後どのように日本を導いていくのか、その答えはこれからの数年間の外交や経済の動向、特にトランプ大統領や習近平中国国家主席、日本銀行、日本の野党との交渉や交鋒にかかっているだろう。