「アメリカを再び偉大に」の声がまだ耳に残る中、ワシントンの反中・対中強硬の風向きが静かに変わりつつある。ドナルド・トランプ米大統領は前任期中、数十年にわたる外交の慣例を覆し、米中関係の構図を一変させた人物である。しかし、貿易戦争を仕掛けたこの「ドラゴン退治派」の旗手は、いまや心境の変化を見せているようだ。ブルームバーグ通信が6日に報じたところによれば、トランプ氏が中国との新たな貿易協定の締結を模索する中、ワシントンの対中強硬派はかつてない冷たい空気を感じ取っているという。彼らは自らが政権内で周縁化されつつあることを懸念しており、一方でトランプ氏の「大取引」への執念とともに、テクノロジー大手の影響力が日に日に増している。
トランプ氏が今後数週間以内に中国の習近平国家主席と会談するとの報道が流れると、ワシントンの対中強硬派の懸念はいっそう強まった。これに先立ち、北京側はアメリカの数十年にわたる対中政策を覆しかねない一連の「取引条件」を提示していた。内容には、中国への投資規制の緩和と引き換えに米国市場への資金流入を拡大させる提案や、さらには台湾政策への介入とも取れる要求――トランプ氏に対し「台湾独立に反対」と明言するよう求める姿勢――も含まれている。強硬派にとって、こうした条件の受け入れは「虎と取引する」も同然であり、彼らをさらに不安にさせているのは、トランプ氏が再び警告を無視する構えを見せていることである。
「北京は今が絶好の機会」
当年、「弾が飛ぶまで待て」と強硬路線を貫いた対中タカ派の戦略家たちの間では、いま最も大きな驚きと不安を呼んでいるのは「トランプは変わってしまった」という現実である。TikTokの米国事業存続を容認する取引から、AI半導体大手NVIDIAに中国市場での営業継続を認める判断まで、トランプ氏の一連の決定は、まるでタカ派の傷口に塩を擦り込むようなものだ。さらに同氏は、国家安全保障会議(NSC)で対中強硬論を唱えていた多くの顧問を大胆に更迭し、その権限と役割をかつてないほど弱体化させた。
安全保障やテクノロジーの専門家らは深刻な懸念を示している。現在のトランプ政権の中枢には、北京との経済的な関係強化を推し進める「パンダ抱擁派」に異を唱える人物が、もはやほとんどいないという。トランプ政権の第1期で国家安全保障会議の副顧問を務め、対中政策を主導したマット・ポッティンジャー(中国名・博明)氏はブルームバーグの取材に対し、沈痛な口調で次のように述べた。「いまの北京は、まさに“理想的な甘いスポット(sweet spot)”にいる。ホワイトハウスは、TikTok政策や半導体輸出規制の緩和が、中国共産党にとってどれほど大きな譲歩であるかに気づいていない」。
ブルームバーグは、トランプ氏のこうした姿勢の変化は、ある意味では意外ではないと指摘する。彼はかねてより、国際社会で孤立する指導者――ロシアのウラジーミル・プーチン氏や北朝鮮の金正恩氏――との「取引」を誇りとしてきたからだ。しかし、米中関係のリスクはロシアや北朝鮮とは比較にならない。世界最大級の経済圏である両国の関係は密接に絡み合い、さらに人工知能(AI)や半導体、ネット技術などの分野で中国が米国の覇権に挑戦していることから、トランプ氏の一挙手一投足が世界経済に波及しかねない。
トランプ氏は第1期政権で「国家安全保障」を理由に、アルミや鉄鋼から家具に至るまで幅広い輸入品に高関税を課した。一方で、対中輸出の制限を進言した側近の提案をたびたび退け、「国家安全保障など“虚構の言葉(fake term of national security)”だ」と切り捨てた経緯もある。結果として米中貿易戦争は裏口から取引を再開する形となり、その矛盾した行動パターンが、いま再びタカ派を不安に陥れている。
「恥のバッジ」vs.「中国共産党の代理人」――半導体が火をつけたテクノロジー内戦
対中路線をめぐる論争が、ここにきて再び激しく燃え上がった。発火点となったのは、NVIDIA最高経営責任者のジェンセン・フアン(黄仁勳)氏がポッドキャスト番組で放った衝撃的な発言である。トランプ氏の非公式な助言者として、テクノロジーおよび対中政策に強い影響力を持つとされるフアン氏は、番組でワシントンの対中強硬派を痛烈に批判し、「彼らが身につけているのは“恥のバッジ(badge of shame)”であり、愛国者などではない」と言い放った。この一言は、まるでタカ派の火薬庫に火を投げ込んだような衝撃を与えた。
トランプ政権の元首席戦略官で極右タカ派の代表格でもあるスティーブ・バノン氏は即座に反撃し、フアン氏を「中国共産党の影響工作員(an agent of influence of the Chinese Communist Party)」と非難、逮捕を求めた。また、トランプ支持派でテクノロジー投資家のジョー・ロンズデール氏もSNS上で、「自分は誇り高き対中タカ派だ」と投稿し、「中国共産党は邪悪で残忍な独裁政権だ」と痛烈に批判した。これらの反応は、トランプ陣営内部の深い亀裂を浮き彫りにしている。
フアン氏や、トランプ政権で「AI・暗号通貨担当ツァーリ」と呼ばれたデイビッド・サックス氏らに代表される「ビジネス派」は、タカ派の戦略は完全に誤っていると主張する。彼らによれば、中国を米国の先端技術に「依存させる(hooked)」ことこそが、長期的に米国の利益を守る最善策であるという。そうすることで、中国企業が他の市場で勢力を拡大し、米国企業の競争力を脅かす事態を防げると考えているのだ。
「政府内でタカ派とビジネス界を対立させるような物語は、誤った二分法に基づいている。」サックス氏はインタビューでそう反論した上で、「我々は誰もがAI競争で中国に勝つべきだと考えている。問題は戦術だ。米国が勝利する道は、イノベーション、インフラ、エネルギー、輸出を強化することにある」と語った。
今年8月、トランプ政権はそれまで課していたNVIDIAとアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)製AI半導体の一部に対する販売禁止を撤回し、代わりに売上の15%を政府が徴収することで合意した。より高性能なAIチップの対中輸出は依然として禁じられているものの、この決定はタカ派にとって重大な譲歩と映っている。ワシントンと北京の交渉が続く中、今後どれほどの先端技術輸出規制が緩和されるのか、誰にも見通せない状況である。
「対中強硬」か「商業重視」か?
押し寄せる批判の声に対し、ホワイトハウスは「トランプ氏の対中姿勢は依然として強硬である」と主張し、今年中国製品に課した厳しい関税をその証拠として挙げた。ホワイトハウス報道官のアナ・ケリー氏はメールで、「大統領自身が述べているように、彼は習主席と良好な関係を築いており、その関係を活かしてアメリカ国民のためにより良い結果を引き出している。例えば、国家安全保障を損なうことなく、数百万人の国民と企業を救うTikTok合意を成立させたことがその一例である」とコメントした。ホワイトハウス関係者は、トランプ氏が経済的利益と国家安全保障の両立を十分に図れると信じているようだ。
しかし、ブルームバーグは別の動きにも注目している。ホワイトハウスは9月、説明もなく、ランドン・ハイド氏の指名を突然取り下げた。ハイド氏は商務省の国際安全保障局(Bureau of International Security)で輸出管理を担当する次官補に指名されていた人物で、かつて駐中国外交官を務め、今年2月まで下院の「米中戦略競争特別委員会」で技術政策の専門家として活動していた。この委員会は、議会内でも屈指の対中強硬派として知られている。
今年4月の指名公聴会で、ハイド氏は「中国の新興技術への野心は、米国の経済と国家安全保障に深刻な脅威をもたらしている」と警鐘を鳴らしていた。事情に詳しい関係者によれば、ハイド氏はホワイトハウス内で「過度にタカ派的」と見なされており、その指名撤回は、ホワイトハウスと下院の対中戦略特別委員会との溝の拡大を象徴しているという。ホワイトハウス側は「撤回は政策スタンスとは無関係」と説明しているが、この動きは政権の対中方針に対する外部の疑念を一層深める結果となった。
同時に、マルコ・ルビオ国務長官やJD・バンス副大統領といった、トランプ政権内の著名な対中懐疑派も、中国政策に関しては沈黙を保っている。彼らは今、明らかに別の戦線に関心を移しているように見える。
ワシントンのデジャヴ:歴史が2015年に逆戻り?
ワシントンを長年観察してきた中国専門家たちにとって、現在の空気には強い「デジャヴ(déjà vu)」の感覚があるという。まるで時間が巻き戻され、トランプ氏の初任期以前――ビジネス界の利益が対中政策を主導していた時代に戻ったかのようだ。ブルームバーグは率直に指摘する。トランプ氏は当時、ワシントンに根強く存在していた親中・宥和的な政策コンセンサスを打ち破り、超党派で「強硬な対中姿勢」を共有する新たな潮流を築いた張本人である。だが、その成果はいま、皮肉にも彼自身の手によって少しずつ崩れつつある。
保守系シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)」で対中タカ派を自認するデレク・シザーズ氏はこう喝破する。「彼らは基本的に、2015年にトランプ氏が対中政策の基調を変える前に中国政策を牛耳っていた連中と同じだ」「皮肉なのは、トランプ氏こそが中国問題に関する議論の流れを変えた人物なのに、いまや彼の政権下で、その流れが元に戻されつつあることだ」と述べた。
それでもなお、タカ派の一部には「最終的に勝つのは自分たちだ」との信念が残っている。保守系シンクタンク「ハドソン研究所」の中国問題専門家マイケル・ソボリック氏は、ワシントン内部には依然として中国およびそのロビー活動を担う企業団体に対する根強い警戒心があると指摘する。「安全を犠牲にせずに利益を最大化できるという発想はたしかに魅力的だ。しかし中国共産党は、そうした論理の誤りを暴き出す術を心得ている」と警告した。