韓国のイ・ジェミョン大統領はこのほど、防衛予算を大幅に増やす方針を正式に表明した。背景には、米国からの圧力に対応し、防衛分野で「より多くの責任」を担うよう求められている現状がある。イ氏によれば、2026年度の国防予算は前年比8.2%増の見通しで、2008年以降で最大の伸びとなる。
英紙『フィナンシャル・タイムズ』は、建軍節でのイ氏の演説を引用し、「各国が自助努力を迫られる時代に入りつつある」との認識を示したうえで、「大韓民国の平和と繁栄を確保するため、他国に依存せず自らの力を強化すべきだ」と強調したと伝えた。あわせて、ロボットや無人機を含む新たな防衛技術への投資を拡大する方針にも言及したという。
South Korea to increase defence budget by 8.2% next year, President Lee sayshttps://t.co/5j9bCsHiaPhttps://t.co/5j9bCsHiaP
— Reuters (@Reuters)October 1, 2025
こうした国防費増の圧力は、国内世論というよりも遠くワシントンからの要請に起因する。ドナルド・トランプ米大統領は政権復帰後、アジアの同盟国に対し、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が6月に示した方針に倣い、今後10年以内に防衛支出を国内総生産(GDP)の5%へ引き上げるよう強く求めている。
この考えを支持するのはトランプ氏だけではない。ピート・ヘグセス国防長官も、NATOの基準を新たな標準と位置づけ、米国の同盟国、なかでも日本や韓国に同水準を適用すべきだと議会で主張している。

もっとも、こうしたワシントンの一方的な要求は、ソウルにとって重い負担となり得る。韓国の年間国防費は現在、GDP比で約2.3%。試算ベースでは、トランプ氏が掲げる「5%」を満たすには歳出をほぼ倍増させ、約132兆ウォン(約13.8兆円)規模にまで拡大する必要があり、経済・財政の両面で相応の重圧となる。
加えて、韓国は自国軍の増強費とは別に、在韓米軍(USFK)への負担金を毎年拠出している点も看過できない。
国防費の積み増しは、米側への対応に加え、朝鮮半島の安全保障で主導権を維持する狙いもある。イ・ジェミョン政権は、戦時作戦統制権(wartime operational control)の韓国側移管を確実にするため、米国との協議を一段と進める考えで、これは従来のリベラル政権が掲げてきた主要目標の一つでもある。

アジアで第4位の経済規模を持つ韓国はいま、米国の関税方針をめぐる強い圧力に直面し、ワシントンとの通商合意も成立していない。通商と安全保障を切り分けたいソウルに対し、トランプ政権は両者を一体として交渉する姿勢を崩さず、溝は深まっている。
ソウルの峨山政策研究院のヤン・ウク氏は、「トランプ氏の影響がなければ、ここまで急な国防費の上積みは短期間では起きなかったはずだ」と指摘。そのうえで、「増額幅は過去15年で最大だが、多くは軍人の処遇改善や組織再編に充てられる公算が大きく、大統領が掲げる『スマート軍隊』に振り向けられる資源は実際には限られる」との見方を示した。
「イ・ジェミョン大統領が発表した今回の増幅では、次世代の先進装備を取得するには不十分で、米側の実質的な要請にも十分応えられない恐れがある。」
国防費を引き上げた後、イ大統領が直面する次の焦点は在韓米軍の駐留経費負担である。バイデン政権下で締結した協定の条件を維持できるのか、あるいは国防総省から一段と高い“対価”を求められるのか――難しい交渉が続く見通しだ。
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