自民党内閣の経済財政政策担当大臣兼経済再生担当相の赤澤亮正氏は10月1日、外国特派員協会(FCCJ)で会見し、今夏に署名された日米通商協定の中身と交渉の経緯を説明した。

協定では、日本政府が米国向けに総額5,500億ドル(約80兆円)の投資支援を行う枠組みを設け、産業別の関税率は米側主導で設定されたという。主要交渉責任者の赤澤氏は、自動車関税を27.5%から15%へ引き下げたほか、半導体や医薬品ではEU並みの待遇を確保したと強調。紛争が生じた場合には日米協議で解決する条項も盛り込まれたと述べた。
国内課題「ピンチをチャンスに」
赤澤氏は、石破政権から次期政権へ引き継ぎたい重点課題として、①深刻な人手不足と生産性向上(デジタル化・AI・省力化投資の加速)、②最低賃金の底上げ(全国一律1,500円の方針を「革命的な一歩」と評価)、③防災庁の創設と体制強化――の三点を挙げた。
「日本は極端な人手不足に直面している。失業率を気にせず徹底して生産性を上げる好機だ」とし、最低賃金引き上げと防災力の強化を優先課題に据える考えを示した。
米国との交渉評価
関税協議については、「日本は自国の関税は下げず、米国側の引き下げを求めた。世界でも例がない」と説明。その代わりに、日本は米国内で経済安保上重要なサプライチェーンを共同構築する「投資イニシアチブ」を提案し合意に至ったという。トランプ大統領とのやり取りは「タフだが主張に耳を傾け、最終的に双方に利益となる着地点を見いだせた」と振り返った。
また、5,500億ドルの投資枠については、実出資は一部にとどまり、大半は融資や貿易保険で賄う構成だと説明。為替への影響も「基本的に出ないよう運用する」とした。さらに、米側との共通認識を明文化した了解覚書(MOU)は「法的拘束力はないが、両国の信頼関係に基づいて円滑に運用される」と述べた。
総裁選と今後の展望
間近に迫る自民党総裁選については、石破茂首相の側近として「最低賃金引き上げ、防災庁の創設、日米関税合意の維持――この三つを継承する候補を望む」と発言。政権の行方が次期首相と日米関係の舵取りを左右するとしつつ、「日本は政権が代わっても国際合意を順守する伝統がある」と強調した。
最後に赤澤氏は、「外交交渉は国内で必ず賛否が分かれる。重要なのは、両国民にとって有益な合意であることを丁寧に説明し続けることだ」と締めくくった。
編集:田中佳奈