自民党総裁選(10月4日投開票)に立候補した5人の候補者が9月24日、日本記者クラブ主催の公開討論会に臨み、経済政策や成長戦略、社会保障制度改革、外交・安全保障など幅広い分野で約2時間にわたり論戦を繰り広げた。会場には多くの報道関係者が詰めかけ、オンラインでも中継された。党の基盤が弱体化する中、野党との連携をどう具体的に進めるかも注目され、各候補はそれぞれのビジョンを示した。
日本記者クラブで9月24日に開かれた自民党総裁選の公開討論会。小林鷹之氏、茂木敏充氏、林芳正氏、高市早苗氏、小泉進次郎氏が出席した。(写真/黃信維撮影)
冒頭の基本主張 討論会は冒頭、各候補が自らの基本方針を掲げる場面から始まった。小林鷹之元経済安保相は「頑張れば報われるという実感を持ってもらう」と強調し、「世界の真ん中に日本を立たせる」と意気込みを示した。茂木敏充前幹事長は「国民の求める結果を出す」と訴え、「ガソリンの旧暫定税率廃止を含め、効果ある政策をスピーディーに実行する」と語った。
2025年9月24日、日本記者クラブで行われた自民党総裁選候補者による公開討論会に出席した茂木敏充氏。(写真/黃信維撮影) 林芳正官房長官は「経験と実績で未来を守り抜く」と掲げ、「暗い状況を一致団結して乗り越える」と呼びかけた。高市早苗前経済安保相は「戦略的な危機管理投資で経済成長」と主張し、国内技術の市場展開を強調。小泉進次郎農相は「インフレ対応型経済運営」を掲げ、所得税の基礎控除を物価や賃金上昇に合わせて引き上げる考えを示した。
2025年9月24日、日本記者クラブで行われた自民党総裁選候補者による公開討論会に出席した林芳正氏。(写真/黃信維撮影)
財政・経済政策を巡る論戦 経済政策では物価高対策や賃上げ目標が議題となった。茂木氏は財政運営のあり方を高市氏に問い、高市氏は「将来の財源を生む投資を重視する」と述べ、名目成長率が国債金利を上回れば債務残高の安定が可能との認識を示した。茂木氏は「経済の好循環の実現で大体一致している」と応じた。
2025年9月24日、日本記者クラブで開かれた自民党総裁選候補者による公開討論会に出席した高市早苗氏。(写真/黃信維撮影 )
小泉氏が掲げる「平均賃金100万円増」については林氏と高市氏が相次いで質問。小泉氏は「日銀が掲げる前年比2%程度の物価上昇を前提に、賃上げ促進税制や中小企業の生産性向上、DX、省力化投資、公定価格で働く方の処遇改善を総動員する」と説明した。小泉氏は今回の総裁選で有力候補と目されるが、前回は論戦力不足を指摘された経緯があり、その対応力に注目が集まった。
2025年9月24日、日本記者クラブで行われた自民党総裁選候補者の公開討論会に出席した小泉進次郎氏。(写真/黃信維撮影)
防衛・外交政策の焦点 防衛政策では小林氏が「GDP比2%では到底足りない」と強調。「研究開発費を含めればさらなる引き上げが必要」と訴えた。「自分の国は自分で守る自信がなければ、他国も守ってくれない」と強調した。財源は明示しなかったが、無人機やサイバー能力強化を主張した。
2025年9月24日、日本記者クラブで行われた自民党総裁選候補者の公開討論会に出席した小林鷹之氏。(写真/黃信維撮影) 外交では中国や米国との関係が焦点となった。林氏は「中国のスパイ防止法は不透明で、外相時代に日中外相会談で法的安定性の欠如を訴えてきた」と説明。小林氏は「スパイ防止法に類似する法整備が中国への抑止になりうる」と述べた。さらに、小林氏は地方経済再生の文脈で「台湾のTSMC」を例に挙げ、半導体投資を地域発展につなげるべきだと主張。自身が台湾を訪れ、閣僚らと会談した経験にも触れ、「米国の関与が弱まる中で、日本への期待が高まっている」と訴えた。
小泉氏は「首相になればできるだけ早く日米首脳会談を実現し、日米で中国依存を脱したサプライチェーンを構築する」と意欲を示した。茂木氏は「米国にとって最大の挑戦は中国で、日本が最重要パートナーであると強調することが重要」と述べた。林氏も「トランプ氏後も同様の政権が出る可能性がある。日米関係をマネージする必要がある」と指摘した。
2025年9月24日、日本記者クラブで開催された自民党総裁選候補者の公開討論会に出席した高市早苗氏。(写真/黃信維撮影)
靖国参拝・日韓関係・消費税を巡る議論 記者からの質問で、靖国神社参拝について高市氏は「外交問題にされるべきでない」と強調。「心静かに適切に判断する」と述べた。さらに「国のために命をささげた方々に敬意を払いあえる環境づくりに尽力する」と語った。高市氏はまた、日韓関係を「深化させる」とし、日中関係については「懸念事項があるが率直に対話を重ねる」と強調した。
消費税減税については小泉氏が「高所得者に恩恵が大きく、社会保障財源にも使われているため慎重に対応すべき」と述べたのに対し、高市氏は「選択肢として排除しない」と表明。茂木氏は「物価高対策としては時間がかかる」と冷静な姿勢を示した。金融政策に関して高市氏は「経済・金融政策の方向性を決める責任は政府にある」と説明し、「現在の物価高はコストプッシュ型であり、家計支援と供給力強化で賃金主導型に移行させる」と語った。
2025年9月24日、日本記者クラブで行われた自民党総裁選候補者の公開討論会に出席した小泉進次郎氏。(写真/黃信維撮影)
選挙制度改革・社会保障 林氏は選挙制度改革について「中選挙区制は一つの選択肢」と指摘。「多党化は国民の価値観の反映だ」と述べた。政治資金規正法などによる規制強化も必要との見方を示した。高市氏は「年収の壁」引き上げに賛成と表明。小泉氏も「誠実に協議する」と応じた。
2025年9月24日、日本記者クラブで開催された自民党総裁選候補者の公開討論会に出席した高市早苗氏と小泉進次郎氏。(写真/黃信維撮影)
連立政権・国際問題への対応 パレスチナ国家承認を巡っては、石破政権が国連総会のタイミングで承認を見送ったことについて5候補はいずれも理解を示した。小林氏は「総合的な外交判断が必要」と述べ、茂木氏は「国家承認は一度しか使えないカードで慎重に扱うべき」と語った。林氏は「現状を踏まえて判断した」と説明し、高市氏は「即答は避ける」と慎重姿勢を示した。小泉氏は「総合的に判断する」と述べた。
2025年9月24日、日本記者クラブで行われた自民党総裁選候補者の公開討論会に出席した小林鷹之氏。(写真/黃信維撮影) 討論会全体を通じ、候補者5人はいずれも経済再生、物価高対策、地方創生、エネルギー・防衛政策、外交戦略の重要性に強い危機感を示した。ただし具体的な政策の進め方や優先順位では違いが際立ち、各候補の個性が浮き彫りになった。
今朝、自民党総裁選挙に立候補した5人は24日、国会内で開かれた会合に出席し、昨年の衆議院選挙で落選した元議員らと意見を交わし、党の再生に向けた取り組みを訴えた。その後、日本記者クラブ主催の公開討論会や、東京・秋葉原での初めての街頭演説にも臨んだ。
会合では、5人が相次ぐ国政選挙での敗北を受け、党の立て直しに向けて発言した。小林鷹之元経済安全保障担当大臣は「党を引っ張っていくのは若い世代だ。『世代交代』という言葉の使用はためらったが、ここまで追い込まれている以上、言わなければ立て直しはできない」と危機感を示した。茂木敏充前幹事長は「国民の信頼を失い、有為な人材を失った。老舗の大企業が倒産寸前にある状況だ。信頼を取り戻し、結果を出す」と語った。
2025年9月24日、日本記者クラブで行われた自民党総裁選候補者による公開討論会に出席した茂木敏充氏。(写真/黃信維撮影) 林芳正官房長官は「総裁選は皆さんに必ず国会に戻ってもらうため、政策を競う場だ。与党を続ける中で国民との感覚にずれが生じていないか真剣に考えている。『聞く力』や発信力を蓄えたい」と述べた。高市早苗前経済安全保障担当大臣は「『日本をもう一度世界のてっぺんへ』という思いを持っている。今国力を強めなければ間に合わない。日本には底力があり、必ず成長できる」と強調した。
小泉進次郎農林水産大臣は「皆さんともう一度仕事をする機会をつくるのが私の責任だ。前を向いて汗をかける環境を整え、専門性や思いを生かせるチャンスを必ずつくる」と述べた。会合を主催した橋本岳元厚生労働副大臣は「国民の関心は高く、候補者には日本をどうするのか、ビジョンや政策を語ってほしい。政治資金の問題も未解決であり、国民の理解を得られる行動を取ってほしい」と記者団に語った。
2025年9月24日、日本記者クラブで行われた自民党総裁選候補者による公開討論会に出席した林芳正氏。(写真/黃信維撮影) 続いて、日本記者クラブで行われた公開討論会では、5人が少数与党下での政権運営や連立拡大のあり方をめぐり意見を交わした。いずれも前向きな姿勢を示したが、実現時期や進め方では違いが見られた。 その後、5人は午後4時すぎから東京・千代田区のJR秋葉原駅前で初めての街頭演説を行った。総裁選に向けた全国演説は、26日に名古屋、10月2日に大阪で予定されている。