台湾では2年に一度の「2025台北国際航空宇宙・国防工業展」は9月20日に閉幕した。出展規模は過去最大となり、軍も多数の新装備を披露。なかでも注目を集めたのが、中科院(国家中山科学研究院)が初公開した地対空ミサイル「強弓」システムだ。巨大なミサイルとレーダーが国防館の中央に配置され、台湾の防空網に新たな層が加わったことを印象づけた。
ミサイル、M1A2T戦車、HIMARS多連装ロケットといった“花形”に目が向きがちだが、中科院は今回、各種無人プラットフォームやレーザー防御システムも提示。さらに海外6社との調達契約・覚書(MOU)を結び、防衛自立の国際連携が一段進んだことを示した。とりわけ見落とされがちなのが、中科院の「神龍計画」だ。今回の契約のうち、Andurilの長距離型水中無人機「DIVE-LD」と、MARTACの無人艇に関する2件が神龍計画に紐づく。台湾の水上・水中戦力を横断的に束ねるキーパーソンが、ここにいる。

極秘の潜水艦プロジェクトを担う「神龍」 正体不明の司令塔
中科院は今回、Anduril、Airshare、Leonardo DRS、AeroVironment、MARTAC、Northrop Grummanの6社と契約を締結。対象はM60A3戦車の近代化、各種無人プラットフォーム、統合戦闘指揮システム(IBCS)など多岐にわたり、神龍計画、電子所、材電所、航空所、軍通中心といった部門が関与した。このうち神龍計画が直接所管するのが前述の2案件である。
中科院のプロジェクトには「所級」と「院級」があり、神龍計画は後者に位置づけられる。2016年に国産潜水艦(IDS)計画の始動に合わせて発足し、国産潜水艦の各種システムやサブシステム、装備の自主開発・試験を主に担当。海外調達装備が不調となった際には、代替任務が急遽神龍計画に回ることもあった。その中核にいるのが、計画主任の孫春青氏である。
高度機密の潜水艦案件を抱える神龍計画には、長らくベールがかかってきた。“神龍、首を見せるも尾は見せず”の名の通り、実像は外からは見えにくい。そんな孫氏の名が広く知られるようになった転機が、2024年5月15日だ。蔡英文前総統が22人に授与した「五等景星勲章」の中に、国産潜水艦の成否を左右した11人のキーパーソンが含まれ、中科院から唯一、孫春青氏が選ばれた。

水上から水中戦系へ 経験ゼロから手探りで道を拓く
孫春青氏は国防大学理工学院を卒業し、1989年に中科院へ入所。当初は資通所で電子戦分野に10年以上携わり、アンテナやマイクロ波システムを専門としてきた。2010年ごろに水中分野へ本格転進したのは、水中センサーとレーダーは媒体こそ異なるものの、反射などの原理面で共通点が多いと判断されたためだという。 (関連記事: 日本は核動力潜水艦を保有すべきか 専門家が提言、中国の海洋進出に対抗策を提示 最大の壁は費用と憲法 | 関連記事をもっと読む )
転進のきっかけは、南部勤務の先輩が退役を申請し、軍職から後任を選ぶ必要が生じたことにある。指名を受けた孫氏は異分野ながら命に従い、台北出身ながら直ちに左営へ移動。先輩方に学び、文献を読み込み、各種試験に参加しながら知見を積み重ね、やがて「神龍計画」の主任へと上り詰めた。
国産潜水艦における神龍計画の役割は何か。中科院には水上艦の戦闘システム(戦系)や「光華計画」の蓄積がある一方で、水中戦系は未踏領域だった。極秘案件でもあるため、潜水艦の戦系は海外企業との協力が前提となり、米国側が戦系を提供、台船がプラットフォーム(艦体)を担当。中科院は米政府が指名した企業と組み、装備・システム・インターフェース文書の供与を受けつつ統合作業を進め、そのプロセスで技術を吸収していった。
