龍應台文化基金会は20日、「2025台北国際平和フォーラム」を開催し、前文化部長の龍應台氏が基調講演を行った。龍氏は軍事シミュレーションである「兵推(兵棋演習)」の重要性を認めながらも、「和平推(平和演習)」――危機をいかに和らげ、社会を強靭にし、善意や文化的魅力を発信するかを想定する演習――こそ台湾の生死を左右するものであり、避けては通れないと強調した。台湾社会では「平和を語る=中国に屈する」「親中=売台」と受け止められやすいため、この議論はしばしばタブー視されるが、龍氏は「和平推」はそうした偏見を超えて生存を守る戦略的議題だと位置づけた。
龍氏はまず、2023年1月に米ワシントンのシンクタンクが発表した兵推結果を紹介。台湾有事が発生すれば米国は介入し、中国側は3週間で約1万人の兵士、戦闘機155機、軍艦138隻を失い、米国も大型艦艇20隻と兵士3,000人以上を失うと予測された。台湾海軍は壊滅的被害を受け、26隻の駆逐艦・護衛艦が失われ、民間人の犠牲は軍人の5倍に達すると見込まれた。戦場となった台湾では1週間で1万人以上が手術や輸血を要し、平時の血液備蓄(3日半分)では到底賄えない。兵推は火力や死傷を数値化するものであり不可欠だが、龍氏は「和平推」こそ議論すべきだと訴えた。
和平推は幻想でも協定締結の呼びかけでもなく、兵推と同じく現実的で厳粛な演習だと氏は説明する。ただし対象は戦車や戦闘機ではなく、社会のレジリエンスやソフトパワーである。外交、文化交流、善意の発信や交渉戦略を組み込み、危機の最前線でどう危険を緩和するかを模擬する「危機緩和演習」こそが和平推の本質だという。
国際的な事例も挙げられた。米国平和研究所はトランプ政権下で一時閉鎖されたものの、長年にわたり和平推を行い、韓国でも実施した。同研究所は外交官や軍事専門家、学者らを分け、停戦交渉や人道回廊の設置、大規模災害救援をシミュレート。その成果はイラクやアフガニスタンでの交渉に実際に役立った。
日本も2022~23年に「台湾有事シミュレーション」を行った。これは事実上の和平推であり、漁船衝突や巡視船の接触といったグレーゾーン事態を想定し、政府がどう調整・発表すれば武力衝突に発展させずに済むかを検証。さらに、台湾が緊急事態に陥った場合に日本の国家安全保障会議がいかに即応し、米国と協調するかも模擬していた。龍氏は「これこそ和平推の核心だ」と指摘した。
兵推は「7日後に戦争が始まる」と仮定して軍事準備を計算するが、和平推はその要素を社会に置き換える。例えば台湾海峡で戦闘機が衝突し死傷者が出れば両岸の世論は激昂する。その際、政治指導者や外交部、陸委会、さらには大統領がどう発言し、社会を鎮めるかを即座に演習する必要がある。初動を誤れば1週間後には戦火に拡大する危険があるため、事前に備えるのが和平推の目的だ。
また、軍事専門家が「台湾にとって最も危険な時期は2027年」と警告していることにも触れ、残された18か月を和平推に充てるべきだと龍氏は訴えた。戦時封鎖を想定し、エネルギー確保や食料自給率の向上(台湾はカロリーベースで30.3%と低水準)が不可欠だとし、備蓄や国際支援体制の整備を課題に挙げた。さらに「戦時に国民心理が崩壊すれば電力網の崩壊以上の影響をもたらす」と警告し、心理防衛の演習も欠かせないと強調した。