夏珍のコラム:龍應台氏が語る「平和」の行方 兵棋演習では勝てず、台湾社会に広がる不安

2025-09-20 16:51
龍應台氏が「なぜ今日、平和について語るのか」を発表し、2025年台北国際平和フォーラムの幕を開けた。(写真/柯承惠撮影)
龍應台氏が「なぜ今日、平和について語るのか」を発表し、2025年台北国際平和フォーラムの幕を開けた。(写真/柯承惠撮影)
目次

台湾前文化部長の龍應台氏が「なぜ今日、平和について語るのか」と題した文章を公表し、自身の基金会が主催する「2025台北国際平和フォーラム」の幕を開けた。発表直後から賛否が分かれ、議論を呼んでいる。メディア学者の羅世宏氏は「両岸の安全は外部に依存すべきではない」と評価する一方、香港の評論家・馮晞乾氏は「謙虚さが平和をもたらす」とする龍氏の主張を「戯言だ」と批判。初めて「平和推進」を掲げた英学者エマ・スカイ氏が強調したのは「防衛力の強化」であり、「謙虚さ」ではなかったと指摘した。

龍氏が「平和」に関心を寄せてきたのは、最近になってからではない。彼女を「謙虚に和平を乞う」と批判するのは一面的であり、これまで中国の「民主」発展について書いた論考も、両岸の政治体制や社会生活を近づけるべきだという問題意識を示してきた。とりわけ1995年に江沢民氏が「中国人は中国人を攻撃しない」と語った以降、陳水扁政権から馬英九政権までの16年間、戦争は両岸関係を左右する選択肢ではなく、現実の危機として意識されることはなかった。

防衛型の兵棋演習 目指すのは「勝つこと」ではなく「負けないこと」

近年、状況は急変した。英誌『エコノミスト』は4年前から台湾を「世界で最も危険な場所」と呼び、米CNNの解説者ファリード・ザカリア氏も昨年「台湾はさらに危険度を増している」と論じた。台海有事が2027年か2035年かという予測はともかく、十年以内の「想定内の戦争」が「差し迫った危機」と受け止められている。こうした中、多くのシンクタンクが兵棋演習(兵推)に注目し、その結論は「勝利は困難」であり、「国防予算と防衛網の強化が必要だ」というものだ。

兵棋演習の目的は、戦場を模擬して問題を洗い出し、計画を検証し、意思決定者を訓練することにある。ただし、戦争を仕掛ける側にとっての演習は「勝利モデル」を描き、敗因を最小化するためのものであり、防衛側にとっては相手の弱点を突き勝機を探る試みとなる。台湾で行われる兵棋演習は「防衛兵推」と位置づけられ、大陸への反攻を想定するのではなく、「敗北を避ける」体制づくりに重点が置かれている。

台湾が長らく兵棋演習を公に語らなかったのは、米国が「反攻大陸」を支持せず、推進の必要がなかったからだ。かつての「国光計画」が最後の例とされる。陳水扁政権期には「決戦境外」、馬英九政権から蔡英文氏の二期目前半までは「拒敵彼岸、撃敵海上、毀敵水際、殲敵灘岸」との戦略が掲げられた(2021年国防報告)。しかしそのわずか二年後、2023年の国防報告では「城鎮戦」に重点が移った。 (関連記事: インタビュー》19年ぶりに中国共産党指導者へ再び呼びかけ 台湾元文化部長・龍應台氏「平和の最大の責任は強国にある」 関連記事をもっと読む

この変化は、台湾の独自判断ではなく米国の方針に左右された結果ともいえる。米国が明言しない限り、防衛当局は沈黙を保ってきた。そして「城鎮戦」とは、すなわち灘岸での防衛が不可能であることを意味する。敵軍が都市部に侵入すれば、焦土作戦、すなわち「血肉の長城」が築かれる事態となる。平和への声を否定する人々は、果たして敵の銃砲が台湾の都市の中心に迫ったときの光景を想像したことがあるのだろうか。

最新ニュース
Nothing、シリーズCで2億ドル調達 企業評価額13億ドルに到達
海上保安庁、過去最大規模の「第4回世界海上保安機関長官級会合」に参加
東京駅「グランスタ東京」「グランスタ丸の内」で初の“栗スイーツフェア”開催
13社が連携し「日本OOHメジャメント協会」設立
フェアモント東京、初のクリスマスシーズンを彩る
静岡市、秋の紅葉スポットとライトアップイベントを発表
タクシーサイネージ「GROWTH」台湾初進出 LINE GO・yoxi提携で3,500台に導入開始
TGS2025初出展『YAOYA THE GAME』 八百屋を舞台にした異色アクションシミュレーションが登場
Level Infinite、TGS2025出展決定 世界初公開『モンスターハンターアウトランダーズ』試遊が実現
Winking StudiosとIndieArkがTGS2025出展へ 世界的スタジオと注目インディー新作が集結
adjoe、東京ゲームショウ2025に初出展 モバイルゲーム向け最新収益化ソリューションを公開
東京ゲームショウ2025注目出展 韓国発『HellPunk: Purgatorium』試遊&Moho最新アップデート公開
東京ゲームショウ2025、開幕直前情報を発表 コラボフード・公式グッズ・コスプレエリアも公開
東京ゲームショウ2025注目出展 次世代アケコン「Rushbox Click」先行販売&『We Were Here』Switch版発表
台湾憲兵部隊の舞台裏 スパイ摘発や軍紀問題で揺れ、蔡英文元総統の近侍が参謀長に起用
日本ゲーム大賞2025、詳細発表 本郷奏多さん&ハラミちゃん登壇 授賞式は9月23日イイノホールで
インタビュー》19年ぶりに中国共産党指導者へ再び呼びかけ 台湾元文化部長・龍應台氏「平和の最大の責任は強国にある」
池袋「GiGO総本店」が開業2周年 9月20日から記念キャンペーン開催
Nvidia、かつての覇者Intelと提携、ファンCEO「50億ドル投資」を宣言 新旧王者が米半導体を強化、チップ戦争の勢力図が劇変
クナイプ、新製品発売記念イベント「ドイツのくすり湯」 9月18日から大崎・金春湯で開催
トランプ氏と習近平氏が6月以来の直接対話へ 台湾問題とTikTok規制が焦点に
インタビュー》「平和教育」欠落する唯一の中国語圏 台湾元文化部長・龍應台氏「宝島のはずが、なぜ戦艦になったのか」
インタビュー》イスラエルも苦しみの連鎖 ガザ和平は幻想か 「対話こそ唯一の解決策」と平和学校主任が訴え
世界1000万人を魅了した「DRUM TAO」、京都駅前に専用劇場を開業へ 2026年春、ナイトショーで新観光拠点に
台湾立法院で民進党新体制発表 柯建銘氏が総召を続投、幹事長・書記長も決定
トランプ政権が台湾向け4億ドル軍事援助を一時停止 米中首脳会談への譲歩の恐れ
速報》台風18号(ラガサ)最新進路予測 北部も強風・豪雨に注意、沿岸部では10級超の突風か
気象予報》西太平洋に台風3つ同時発生 台風18号(ラガサ)、23〜24日にバシー海峡通過へ 台湾東部・南部は豪雨災害に厳重警戒
NVIDIA×Intel共同開発始動 RTX搭載SoCからカスタムx86 CPUまで多世代製品を計画
OpenAI、未成年専用「ChatGPT」導入へ 米訴訟受け安全対策を強化、保護機能も拡充
《ワシントン・ポスト》独占報道:トランプ氏、習近平氏との取引で台湾軍事援助4億ドル停止か
クナイプ「グーテエアホールング バスソルト」リニューアル アルニカ新配合で一部店舗先行発売
東京ゲームショウ2025に台湾のローカライズ企業「ミエトランスレーションサービス」が出展 キャラ名クイズや最新AI翻訳ソリューションを公開
ダークファンタジー×戦術RPG『Lootbound』、東京ゲームショウ2025で試遊可能に 毎回変化する迷宮と運命を体験
東京ゲームショウ2025で世界初の「感情駆動型AI」公開 OVOMINDが新技術と100万ドル支援プログラムを発表
東京ゲームショウ2025、会場マップを公開 幕張メッセ全館でeスポーツ・VR・インディーゲームを展開
山手線環状運転100周年記念フェス開催 復刻ラッピング列車や特別観光列車が登場
ニュウマン高輪、国際交流の玄関口として開業へ 表輝幸社長が語る未来像、鈴木和馬店長が描く現場運営
インタビュー》「これは戦争ではなくジェノサイドだ」台湾在住のパレスチナ学者・安海正氏が語るガザの現状
米保守派リーダー射殺事件 カーク氏はなぜ狙われたのか──容疑者の携帯メッセージ「彼の憎しみに耐えられなかった」
「AKOMEYA TOKYO」ニュウマン高輪に新店舗開業 米文化を中心に地域と世界をつなぐ拠点へ
台湾・柯文哲氏を追い詰めた「宿敵検察官」 黄国昌氏への2度の単独取材、北検が一時「スパイ」と疑念
「日本の祭りはどう守る?」石垣悟准教授が語る持続可能な継承の形と課題
台湾・国民党主席選挙に郝龍斌氏が出馬表明 台中市長・盧秀燕との会話も明かす 趙少康氏「郝氏への一票は私への一票」
小和田恆氏、戦後80年の日本外交と課題を語る「被害だけでなく加害の視点も必要」