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夏珍コラム:台湾・蔡英文前総統が賴清徳氏に残した「政治の地雷」 蔡英文前総統(左)が職務を離れた後、賴清徳現総統(右)が住む官邸を再訪した。(写真/総統府提供)
台湾・蔡英文前総統がSNSに再び登場した。エネルギー政策を解説した「十枚の図表」に続き、今度は「年金改革」シリーズを投稿し、「改革は途中で止めてはいけない」「政府予算だけでは年金は守れない」と訴えた。しかし皮肉なことに、政権交代が起きたわけでもないのに、蔡氏の「後継者」である賴清徳氏の政権は、彼女の8年間の「遺産」を背負う立場となり、それがむしろ「地雷」と化している。蔡氏が賴氏の無力を嘆くのか、それとも賴氏が蔡氏の政策疲弊を批判するのか、責任の所在は曖昧なままだ。
エネルギー政策の歪み 太陽光汚職は氷山の一角 蔡氏は2016年、国会と大統領選で圧倒的多数を得て「完全与党」となった勢いで、「改革」を掲げて突き進んだ。2018年には当時の行政院長・賴氏、総統府秘書長・陳菊氏らとともに「挺改革拚未来(改革を支え、未来を切り拓く)」サミットに出席。名目は「市民団体による改革支持」だったが、実際は「小英(蔡英文氏 )の友」グループによる選挙集会だった。蔡氏は年金改革、党資産の清算、税制改革、新エネルギー推進を「4大改革」として誇ったが、このうち今、賴政権の重荷となっているのが「年金」と「エネルギー」である。
蔡氏は中研院の李遠哲氏が警告した脱炭素の必要性を顧みず「脱原発」を強行。再生エネルギーの拡大を自賛したが、深刻な電力不足を放置した。太陽光発電の利権構造を生み、「光電ゴキブリ」「風電ブローカー」と揶揄される汚職も横行した。それを「個別の不正」と片づけたものの、実際には構造的問題であり、民進党関係者の影も見え隠れする。台電は3年で3,000億元(約1兆4,700億円)の赤字補填を受け、電気料金を3度値上げしても穴は埋まらない。どこに誇れる実績があるのか。
現在、台電は老朽化した第二・第三原発の再稼働を検討し、安全審査の是非を審議中だ。これには賴氏の決断が不可欠で、民進党が「反原発の象徴」に固執すれば政策転換は遠のく。蔡氏が「後任」への注文をつける意図は何なのか。
年金改革、「馬維拉」から「蔡維拉」へ 蔡氏は年金改革でも強硬だった。国是会議では抗議デモが相次いだが、それを政治的手柄とした。2018年、軍公教職員の退職金削減法案が可決された際、前任の馬英九氏を引き合いに出し、「彼が果たせなかった改革を私が完遂した」と宣言。「彼(馬氏)が悩んだ理由を理解できる」と語ったが、実際は皮肉にも聞こえた。
7年後の今も、蔡氏は「馬英九氏の遺志を継いだ」と語り、「交代時に我々へ託された仕事だった」と述べている。しかし馬政権が年金改革を成し遂げられなかったのは、馬氏の「躊躇」ではなく、国民党の政治力不足による面が大きい。民進党は軍公教層への情が薄く、彼らの怒りは馬氏より国民党へ向かった。いまは民衆党の存在で国民党への圧力が緩和され、「改革停止」の可能性も高まっている。
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蔡氏の「改革は途中で止めるな」という主張には一定の理があるものの、改革自体の「歪み」は語られない。軍公教だけを削減し、労保年金を放置。司法官を優遇し、施行も遅らせた。軍公教の士気低下で志願兵や公務員志望者が激減した。7年間で節約した2,500億元(約1兆2,200億円)は、政府の特別予算1本で簡単に相殺される規模である。台電補助の3,000億元(約1兆4,000億円) や国防予算の増額と比べても、年金削減の成果はごく小さい。
蔡英文は賴清徳の現実を「想わず」投稿 SNSが刃に 蔡氏が賴氏に残した「地雷」は年金とエネルギーだけではない。2018年に掲げた「四大改革」は実際には選挙戦略で、その年の統一地方選で民進党は惨敗し、高雄市までも失った。彼女は敗北後も人事権を手放さず、北農人事介入や台大総長人事凍結など「全面支配」を続けた。落選した李進勇氏を翌年に中選会へ送り、側近の陳菊氏を監察院長に据え、監察院を「護党機関」と化した。独立機関は形骸化し、NCCは「聴話機関」、大法官は「与党の憲法解釈機関」と揶揄された。
この「全能体制」を引き継いだ賴氏は、議会で少数派に転落し、同じ手法は通用しない。大法官任命は2度否決、NCC人事は1年以上棚上げ。中選会や公放集団も任期満了のまま空席が続く。もはや「空転」というより、政治機能が分断された状態に近い。
蔡氏が「功績の棚卸し」をしたい気持ちは理解できる。しかし彼女の時代と賴政権の環境は大きく異なる。朝野勢力も国際情勢も変化する中で、蔡氏が「馬氏を称える」ように、賴氏が「蔡氏を称える」ことはできない。蔡氏の「想想」シリーズ投稿は、意図せずして賴政権を突き刺す刃となり、藍(国民党)や白(民衆党)による批判以上に痛手を与えている。
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