地球温暖化、極端気象発生リスクを数十倍に増幅 「イベント・アトリビューション」原因を定量分析――東京大学・渡部雅浩教授が会見

地球温暖化が極端気象の発生リスクを大幅に高めていると東京大学の渡部雅浩教授が会見で警鐘を鳴らした。(写真:日本記者クラブ)
地球温暖化が極端気象の発生リスクを大幅に高めていると東京大学の渡部雅浩教授が会見で警鐘を鳴らした。(写真:日本記者クラブ)

2025年10月23日、日本記者クラブ(東京)の9階会見場で、「極端な天候 どうして、どうなる」と題した記者会見が開かれ、東京大学大気海洋研究所教授であり「極端気象アトリビューションセンター(WAC)」共同代表を務める渡部雅浩氏が登壇した。渡部氏は、近年世界各地で頻発する猛暑・豪雨・竜巻などの極端気象と地球温暖化との関係、さらに温暖化の寄与を確率的に評価する「イベント・アトリビューション」の最新手法について解説した。

2024年の世界平均気温は産業革命前からの上昇幅が1.5度を初めて上回り、パリ協定の努力目標に達したとされる。日本でも6月から8月の平均気温が平年より2.36度高く、気象庁の統計開始以来「史上最も暑い夏」となった。渡部氏は、「涼しくなると人々は忘れてしまうが、ここ3年間は極端な高温が続き、日本周辺の海面水温も最大で平年比3~4度高かった」と指摘。

渡部氏はIPCC第6次評価報告書の内容を参照し、「近年の温暖化が人間活動によるものであることは『疑う余地がない』と結論づけられている」と説明。さらに将来の排出シナリオに応じた気候変動予測では、「今後20年以内に一時的に1.5度を超える可能性が高く、脱炭素が達成されなければ極端気象は増加する」と述べた。また、「温暖化レベル(地球全体の気温上昇幅)」という指標に基づけば、地域ごとの猛暑や豪雨の発生頻度や強度が体系的に予測できると示した。

特に注目を集めたのは「イベント・アトリビューション(原因特定)」と呼ばれる分析手法である。これは、温暖化された現在の地球と、温暖化が進んでいない仮想的世界を想定し、それぞれでスーパーコンピューターによる多数の気候シミュレーションを行い、極端な現象の発生確率を比較する方法である。渡部氏は「10年前までは『温暖化のせいか』と問われても科学的に答えられなかったが、現在では確率的に定量評価できる」と述べた。

北海道で2025年7月に観測された異例の高温については、WACがアトリビューション分析を実施。「温暖化の影響がなければ発生しなかったレベルであり、発生リスクは約34倍に増加していた」との結果を紹介した。渡部氏は「極端現象は発生直後に科学的分析を示すことが社会的に重要」と語り、日本でもイギリスやアメリカのアトリビューション団体のような迅速な情報発信が求められるとした。

猛暑や豪雨の長期的傾向についても言及。日本では猛暑日の年間発生地点数が増加傾向にあり、「温暖化1度あたり約1.8倍になる」と予測されている。また日降水量100ミリ以上の大雨の回数も長期的に増加しており、洪水発生頻度は温暖化2度で約2倍、4度で約4倍となるとの推定が紹介された。

一方で、「全ての極端現象が温暖化によって説明できるわけではない」として慎重な判断の必要性も強調。偏西風の蛇行と北極温暖化の関係など、大気循環変化の因果関係については「確信度は低い」と説明した。また、将来の海洋変動や自然変動要素の影響も考慮すべきと述べた。

会見では「起きてしまった災害は防げないのに分析の意味があるのか」という問いに対し、渡部氏は「なぜ起きたのかを知ることは社会の認識に影響する。極端気象が気候変動と結びついているという理解は今後の適応策の前提となる」と答えた。さらに「WACは政策提言機関ではなく、中立的な科学的評価を迅速に提供する役割に徹する」と立場を明確にした。

最後に渡部氏は「温暖化が抑制されなければ、日本の猛暑、豪雨、洪水は今後も激甚化する可能性が高い」と警鐘を鳴らし、「科学的根拠に基づく気候リスク理解が社会全体で共有されることが重要だ」と訴えて講演を締めくくった。

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