論評:頼清徳総統の「狭量リーダーシップ」と鄭麗文の「大胆な舌鋒」──台湾政治が失ったバランス

2025-11-06 11:31
国民党主席の鄭麗文氏が、国民党中央評議委員会の会議に出席した。(写真/柯承惠撮影)
国民党主席の鄭麗文氏が、国民党中央評議委員会の会議に出席した。(写真/柯承惠撮影)
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国民党主席の鄭麗文氏は、「非典型的な国民党主席」の名に恥じない存在感を見せている。党主席選挙では沈滞した空気を一変させ、当選後も「プーチンは独裁者ではない」「台湾はATMではない」といった発言で話題を振りまいてきた。世論調査での好感度より反感度が高いものの、民衆党主席の黄国昌氏の反感度の方がさらに高く、与党・民進党主席である頼清徳総統も信頼度を上回る不信任度を抱えている。要するに、台湾社会における政治や政党、政治家への民意は依然として疎遠、冷淡、さらには反感の域にあり、「権力など我と何の関係があるのか」という距離感が続いている。

「話題を生む存在」鄭麗文と民進党の過剰反応

こうした中で、話題を創り出せるほぼ唯一の政治家となった鄭麗文氏の存在は、退屈な政界に温度をもたらしている。民進党関係者でさえ無視できず、反応せずにはいられない。

鄭氏が当選時に「SNS担当」による「2つの期待と1つの注意」を発表した際、頼清徳総統は「格局を失ったのは台湾の悲哀だ」と批判した。これに対し、民進党の徐国勇幹事長は「彼女は今後も悲哀を感じ続けるだろう」と皮肉を返し、さらに「共産党を批判してからでなければ(民進党の)祝電を論じる資格はない」と述べた上で、「SNS担当の文章を祝電と見なさない方が不自然だ」と主張した。

徐氏の発言は、台湾政治における論理の混乱を示している。SNS担当者の投稿を「党主席からの正式な祝電」と同列に扱う発想そのものが異常である。

呉思瑶の質問が「閣僚の笑い話」に

鄭麗文氏への批判で民進党議員が次々に発言する中、特に目立ったのは元民進党幹事長の呉思瑶立法委員だ。かつては党を代表する立場にあったが、現在は個人発言と党の立場の境界が曖昧になっている。呉氏は立法院の質疑で行政院長の卓栄泰氏を追及し、在野党主席である鄭麗文氏の発言を国会の記録にまで残す結果となった。鄭氏にとってはむしろ「宣伝の機会」となった形だ。

呉氏が問題視したのは、鄭氏が『ドイチェ・ヴェレ』のインタビューで発した「プーチンは独裁者ではない」という発言である。政治評論出身の鄭氏は、気迫ある応答で記者にひるまないが、時に言葉が先走る。「プーチンは独裁者ではない」という発言は確かに誤りであった。しかし、彼女は間違いを恐れず、批判にも耐える。むしろ、どの批判を受け入れ、どれには反論すべきかを見極めている。また、プーチンが独裁者か否かは台湾に直接関係しない問題でもあり、仮に「習近平」という名前に置き換えれば、はるかに扱いが難しいテーマとなるだろう。 (関連記事: 論評:米中首脳会談で台湾言及なし、頼政権は安心できるのか 関連記事をもっと読む

卓栄泰の発言も外交リスク

鄭氏が誤った発言をしたとしても、それを国会に持ち込むこと自体が問題である。野党党首の発言が誤っても政治的影響は限定的だが、行政院長(首相に相当)が「プーチンは独裁者だ」と答弁することは外交上の問題を孕む。台湾とロシアは互いに代表処を設置しており、政府の最高責任者が他国元首を名指しすることは波紋を呼ぶ可能性がある。卓氏は「プーチンを独裁者でないと考えるなら、鄭氏自身が独裁的傾向を持っている」と批判したが、他者を独裁と断じる思考こそ独裁的であるという矛盾に気づいていないようだ。

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