新冷戦下の世界とアジア 白石隆・熊本県立大学特別栄誉教授が講演

白石隆教授は、米中対立が構造的な新冷戦を生み出し、信頼の揺らぐ世界で日本はインドや東南アジアと丁寧に向き合うべきだと警鐘を鳴らした。(写真 日本記者クラブ)
白石隆教授は、米中対立が構造的な新冷戦を生み出し、信頼の揺らぐ世界で日本はインドや東南アジアと丁寧に向き合うべきだと警鐘を鳴らした。(写真 日本記者クラブ)
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2025年10月30日、日本記者クラブ(東京都千代田区)で熊本県立大学特別栄誉教授の白石隆氏が「新冷戦下の世界とアジア」と題して講演した。司会は日本経済新聞社の高橋哲史氏が務め、シリーズ「中国で何が起きているのか」の番外編として行われた。

白石氏は、米中の対立が「新冷戦」と呼ばれる世界の分断を生み出していると指摘し、トランプ大統領の米国と習近平国家主席の中国がそれぞれ内政の不安定さを抱えながら、国際秩序の主導権を争っている現状を分析した。「私は25年ほどの長期スパンで世界を見ている。短期的な現象よりも、どのような構造の変化の中で現状を理解すべきかを考える」と語り、2000年から2024年までの世界経済や軍事支出のデータをもとに、長期的な視点から米中の力学を読み解いた。

世界経済の変容とミドルパワーの浮上

白石氏はまず、世界のGDPが2000年の34兆ドルから2024年に110兆ドルへと約3.2倍に拡大した点を挙げ、「先進国のシェアが79%から59%に低下し、新興国・途上国が21%から41%へと増加した。これがグローバルサウスの台頭を示している」と述べた。特に中国の経済成長について「2000年には世界シェア3.5%だったが、2024年には16.6%。米中合わせて世界経済の43%を占めるに至った」と指摘した。

一方、日本については「2000年にG7で15%弱あったシェアが、2024年には3.7%にまで低下した。日本、韓国、台湾、欧州主要国はすべてミドルパワーになっている」と述べ、アジアにおける経済的地位の変化を冷静に分析した。また、ASEAN5とベトナム、インドを合わせると「日本とほぼ同じ経済規模にまで成長しており、もはや日本はアジアの中で絶対的な存在ではない」と語った。

軍事支出と安全保障の再編

軍事支出の比較についても詳細に解説し、「1990年には日本の防衛支出は中国の1.6倍だったが、2024年には中国の18%にとどまる。日本・韓国・台湾・フィリピン・オーストラリアを合わせても中国の半分に満たない」と指摘した。さらに、「GDP比で見ても、日本は1.4%、NATO諸国平均で2%、アメリカは3.4%。トランプ政権が同盟国に『もっと負担を』と要求するのは当然の流れ」と分析した。

白石氏は「中国はGDP比1.7%とまだ余力があり、軍事支出を倍増させることも可能」と述べ、東アジアにおける軍事バランスの不均衡を懸念した。

米中対立の構造と技術競争

講演の後半では、2008年の世界金融危機以降の国際秩序の変容に焦点を当てた。「リーマンショックを契機に、アメリカでは政治の分極化が進み、中国では『韜光養晦』から『中国の夢』へと戦略転換が起きた。これが大国間競争の出発点だ」と述べた。 (関連記事: 高市早苗政権、外国人政策で初の閣僚会議を開催 不法滞在の取締り強化・土地取得制限も検討 関連記事をもっと読む

また、「トランプ政権下では『デカップリング(分断)』、バイデン政権では『デリスキング(リスク低減)』がキーワードとなり、いまは『アドバンスト・マニュファクチャリング(高度製造業)』へと移行している」と指摘。AIや量子技術、半導体、ロボティクス、バイオテクノロジーを中心とした安全保障政策の重要性を強調した。

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