トップ ニュース トランプ関税と国際通商体制の行方 川瀬剛志教授がFPCJブリーフィングで語る日本の役割
トランプ関税と国際通商体制の行方 川瀬剛志教授がFPCJブリーフィングで語る日本の役割 川瀬剛志教授、FPCJブリーフィングで発言。トランプ関税は国際通商体制を揺るがし「法の支配」を損なう恐れがあると指摘し、日本に自由貿易の旗手としての主導的役割を求めた。(写真/FPCJ提供)
公益財団法人フォーリン・プレスセンター(FPCJ)は2025年10月30日、上智大学法学部の川瀬剛志教授を招き、「トランプ関税と国際通商体制の今後」と題するオンライン記者会見を開催した。会見では、トランプ政権による関税政策の構造や影響、日米合意の実態、さらに日本が国際経済秩序の中で果たすべき役割について詳しく語られた。
川瀬教授は冒頭、「私は国際法の専門家であり、経済学者でも政治評論家でもない」と前置きしつつ、トランプ関税の全体像を三つの柱に整理した。第一は「品目別関税」で、鉄鋼やアルミ、自動車などに対し、1962年通商拡大法232条を根拠に国家安全保障を名目として課されている。第二は「国別関税」で、国際経済緊急権限法(IEPA)に基づき、ブラジル、カナダ、中国、インド、メキシコなどが対象。第三は「総合関税」で、貿易赤字是正を目的に設定され、これらを通じて米国は各国との二国間交渉を進めているという。
教授はさらに、トランプ大統領が進める「ターンベリー体制」にも言及した。これは「二国間のディールを積み重ねてネットワーク化し、WTOを軸とする多国間貿易体制を置き換えるもの」だと分析。日米間では7月末に基本合意が成立し、9月に投資合意文書が締結、数日前の首脳会談で実施文書に署名が行われたと述べた。日本は米国に対し、5500億ドル(約80兆円)規模の対米投資に加え、農産物、LNG、ボーイング機購入の拡大を約束。米国は相互関税を15%以内に抑え、自動車関税を新設しない方針を示したという。
一方で川瀬教授は、「日本側の約束には曖昧な点が多い」と指摘。投資が政府支出によるのか、政府系金融機関の支援を含むのかが不明確で、違反時の対応も「協議に委ねる」にとどまり、拘束力に欠けると懸念を示した。そのうえで「トランプ大統領が恣意的に関税を再び引き上げる余地は残っている」と警戒感を示した。
また教授は、こうした措置が「法の支配に基づく国際通商体制を損ねている」と述べ、WTOの最恵国待遇や譲許拘束の原則に反すると批判。「キッチンキャビネットの輸入まで国家安全保障を理由に制限するのは、例外規定の乱用だ」と語った。
短期的な課題として、WTO改革の推進とともに「スタンドスティル協定」を通じ、85%の国々が現行協定の遵守を再確認する必要性を提起。また、上級委員会の機能停止に対応して有志国が創設したMPIA(暫定上訴仲裁制度)へのインド、インドネシア、韓国の参加を日本が促すべきだと述べた。中期的には、オーストラリア、カナダ、英国、EUなどの中堅国と連携し、「力の支配によるターンベリー体制に対抗する自由貿易の新たな枠組み」を主導することが重要だと指摘した。
さらに、日本が持つ外交的資産としてCPTPPの活用を提案。加盟国の拡大とEUとの連携強化を進め、RCEPをグローバルサウス連携の基盤として発展させるべきと述べた。また、アフリカ諸国とのFTAが未締結である点を挙げ、地域貿易協定を広げることでWTO体制を補完する自由貿易網の構築を呼びかけた。
講演後半では経済安全保障の視点からも議論を展開。「IPEFのサプライチェーン協定や日米重要鉱物協定を軸に、半導体や蓄電池といった戦略物資で多国間連携を強化する必要がある」と強調。中国との関係については、「戦略的互恵関係を維持しながらも、安全保障上の観点から部分的デカップリングは避けられない」との見方を示した。
高市政権の通商政策にも触れ、「高市首相は安倍前首相の方針を引き継ぎ、対中強硬かつ対米重視の傾向がある」と分析。就任直後に各閣僚へ送付した指示書で「自由で開かれたアジア太平洋」「日米関係」「TPP拡大」の三課題を掲げたことを挙げ、「自由貿易を重んじながらも、トランプ関税を受け入れる姿勢には矛盾が見える」と述べた。さらに、「RCEPへの言及がなく、中国を含む枠組みに慎重な姿勢を取っている」とし、今後は「安全保障が自由貿易よりも優先される局面が増える」と分析した。
質疑応答では、デンマークの記者から「5500億ドル投資の日本経済への影響」について問われ、川瀬教授は「80兆円は日本の年間税収を上回るが、多くは民間投資であり、財政赤字への直接影響は限定的」と説明した。
最後に教授は、アメリカの通商姿勢について「安全保障上の理由で関税を正当化し、WTO審査を拒む米国は、自国法を国際規範より優先している」と批判。会見は質疑を経て終了し、「日本はアメリカとの関係を重視しつつも、世界の85%で自由貿易を守るため、主導的役割を果たすべきだ」と結んだ。
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