前米商務長ジーナ・レモンド氏は2024年に「米国が必要とする先端半導体の90%は台湾から輸入している。もし中国が台湾に侵攻しTSMCを掌握すれば、米国にとって壊滅的な事態となる」と発言した。これに関連し、台湾大学名誉教授の明居正氏は《風傳媒》の番組「下班瀚你聊」で、TSMC製半導体が米国の兵器にどの程度使われているかは公表されていないものの、先端半導体を製造できる地域は世界でも限られており、その点からTSMCの重要性は推測できると指摘した。米国の与野党はすでに、台湾が米国にとって不可欠な存在であることを明確に理解しているという。
明氏によれば、兵器システムに用いられる半導体は大きく二種類に分けられる。ひとつは10ナノから20ナノ台の成熟プロセスによる半導体で、これは主に台湾のUMCが製造している。もうひとつは精密な計算を要する兵器に用いられる先端半導体で、これを製造できるのは世界でもサムスンとTSMCに限られる。サムスンの7ナノ、5ナノの軍事用半導体は開発のタイミングこそTSMCとほぼ同じであったが、生産量や歩留まりではTSMCに及ばない。サムスンの主要顧客はQualcommやGoogleである一方、TSMCの顧客にはApple、NVIDIA、Boeing、Lockheed Martinなどが含まれており、後者二社はまさに軍需産業を代表する企業である。
明居正氏「台湾半導体の“山脈”産業チェーンは模倣困難」
明居正氏は、もし米国が「必要とする先端半導体の90%を台湾から輸入している」と公式に認めれば、それはまさに国家安全保障上の問題を意味すると指摘した。そのため米国にとって最も安全なのは、自国で半導体を完全に掌握することである。しかし現状では、TSMCが米国に保有する3つの工場と、今後増設予定の3工場を合わせても生産能力は全体の7〜10%程度にすぎず、倍増しても20%にとどまる。残りの70%以上は依然として台湾からの供給に依存せざるを得ない。さらに世界のいかなる国も、台湾のような半導体産業体系を短期間で構築することは不可能であり、特に米国では労働力や労組、環境アセスメント、賃金水準などの制約が重くのしかかる。Intelが急速に追い上げようとしても、トランプ氏の任期が終わるまでに目に見える成果を出すのは困難だと見られている。台湾の半導体産業は「神山」ではなく「群山」であり、上下流にわたる数千の企業が連携して形成した完全な産業チェーンであるため、他国が容易に模倣することはできないという。
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また、同氏はSamsungについて、確かに先端半導体を製造できるものの、生産能力に大きな制約があると述べた。数年前、Samsungの月産能力は7ナノ半導体で約2万5000枚に過ぎず、現在倍増しても5万枚程度であるのに対し、TSMCは月産15万枚を誇る。供給能力が不足する以上、発注しても生産枠には限界があり、顧客は一部を他社に振り分けざるを得ない。決定的な違いは歩留まりであり、Samsungは表向き良率3〜4割と称しているが、業界関係者によれば4割未満で量産ラインに載せるのは事実上無駄だとされる。一方、TSMCの歩留まりは9割に達している。