米国商務次官ルートニク氏は先日、米国政府が半導体支援法による補助金を出資に切り替える可能性を検討していると認めた。これにより、台湾積体電路製造(TSMC)が「米積電」と化すのではないかとの懸念が広がっている。これに対し、台湾大学名誉教授の明居正氏は《風傳媒》の番組「下班瀚你聊」で、補助金を株式に転換してもその比率は極めて低く、TSMCの規模からすれば影響は限定的であると指摘した。米政府が出資すれば、多くの株主の不満を招く可能性があるが、そもそもTSMCの株主には米国投資家が多数含まれるため、彼ら自身が株主権益を損なう政策に反対するだろうという。
明氏はさらに、TSMC内部の議論では、もし米政府が補助金を株式化することを強行すれば、TSMCは補助を放棄する方針であると説明した。TSMCにとって補助金は必須ではなく、当初米国が約束した66億ドルの補助も実現していない。仮に全額が株式化されても持ち分は1%未満にとどまり、影響力はごく小さい。10〜15%といった規模に引き上げるのは極めて困難だと述べた。
また明氏は、米国は台湾の半導体産業をどうしても掌握したいが、現状では実現できていないため、むしろ保護せざるを得ない状況だと強調した。米国の経済生産や軍事作戦はいずれも台湾の半導体に依存しており、軽視することはできない。たとえ米国内で「米積電」と呼ばれる工場群をすべて建設したとしても、依然として60〜70%の半導体は台湾のTSMCに頼らざるを得ないため、当面は米国が台湾を切り捨てることは考えにくいと述べた。
明居正氏「米国はウクライナを捨てても台湾は捨てられない」
明居正氏は、米国の戦略上の優先順位において台湾はウクライナを大きく上回ると指摘した。米国はウクライナを見捨てることはあっても、台湾を放棄することはできないとし、その理由として、台湾を失えば米国は半導体を確保できないだけでなく、国際的地位が急落し、中国にアジアから排除されかねないと述べた。さらに米国がアジアを離れれば、ドルの国際的信用が揺らぎ、ひいては国内のドル価値も下落し、財政に深刻な危機を招く恐れがあると警告した。
明氏はまた、米国が大量のドルを発行できるのは、国際社会が米国の軍事力・経済力・技術力を信頼しているからだと強調した。技術は米国にあるが、生産能力と供給量は台湾が握っており、両者の協力があって初めて製品化が可能になる。これこそが台湾にとって米国との交渉で最大のカードであり、台湾は一方的に従う立場ではなく、交渉余地を持っているとした。さらに現在、米国は関税や先端半導体、エネルギー資源である石油を武器に、日本・韓国・台湾を巻き込み、準戦時的な同盟体制を築こうとしていると分析した。 (関連記事: 中国の台湾侵攻は2027年か 米国、旧戦時基地を再稼働も備戦は遅れ気味―エコノミストが警告 | 関連記事をもっと読む )
明居正氏「米国が台湾を不信と見れば強硬手段に出る可能性」
米国前国家安全会議(NSC)首席補佐官のグレイ氏が外交専門誌『ディプロマット』に寄稿し、台湾立法院の国防予算に対する姿勢がワシントンの対台支持を弱めかねないと指摘した。これに対し、台湾大学名誉教授の明居正氏は、グレイ氏は現在政府の要職にはないものの、米国政界やシンクタンク、学界とのつながりは非常に強く、その発言は個人の意見ではなく、ワシントンの空気を反映したものだと説明した。