特集》台湾・賴清徳総統「先進的な原子力も排除せず」 第三原発再稼働の国民投票は不成立、与野党の思惑が交錯

2025-08-25 14:08
第三原発の再稼働を問う国民投票は終わったが、与野党間の原子力をめぐる議論は収束していない。 (写真/台電提供)
第三原発の再稼働を問う国民投票は終わったが、与野党間の原子力をめぐる議論は収束していない。 (写真/台電提供)
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8月23日に台湾で実施された全国の国民投票で、民衆党が提案した第三原発(核三)の再稼働の是非が問われた。結果は賛成票が反対票を上回ったものの、成立に必要な500万票には届かず、在野勢力が推進した延長案は不成立となった。総統の賴清德氏は投票後の記者会見で、原発の再稼働については2025年5月に改正された「核管法」に基づき、政府として「二つの必須条件」があると説明した。第一に、原子力安全委員会が安全審査の指針を定めること。第二に、台湾電力がその指針に沿って自主的な安全点検を行うことだと述べた。

さらに、原子力安全委員会には各界の意見を幅広く取り入れて規則を早急に整備するよう求め、台湾電力に対しても規則が公布され次第、旧原発設備の自主点検を開始し、進捗やリスクを社会に定期的に公表するよう指示した。基準を満たした場合には、委員会による正式審議に付される見通しだという。そのうえで「政府は原子力の安全確保、廃棄物の処理策、社会的合意の三原則を堅持する」と強調した。特に「今後、より安全な技術で廃棄物が減り、社会の受容度が高まれば、先進的な原子力の導入も排除しない」と述べた点が注目を集めた。

20250823-総統赖清德23日、投票結果を受けて談話を発表した。(颜麟宇撮影)
賴清德総統は第三原発再稼働の国民投票を受け、「将来、安全性が高まり、廃棄物が減り、社会の受容度が高まれば、先進的な原子力を排除しない」と述べた。(写真/顏麟宇撮影)

「反原発の旗印」と政治的信頼

今回の8月23日の国民投票は形式上は全民投票であったが、実態は高度に政治化された駆け引きでもあった。国民党と民衆党は第三原発の延長を、民進党のエネルギー政策に対抗するための梃子と位置づけ、「非核家園」政策の正当性を揺さぶろうとした。一方、民進党にとっては、党の価値観と政策の継続を守る防波堤とみなされ、単なるエネルギー政策を超えた対立構図となった。そこには、与野党による民意の読み解き、価値観、さらには選挙戦略を含む全面的な駆け引きが表れている。

民進党のある幹部は「国民投票が成立しなかったことで、政府は現行のエネルギー路線に民意の支持があると主張できる」と述べつつも、その「勝利」は決して楽観できるものではないと指摘した。行政院は再生可能エネルギーの建設をこれまで以上の速度で進めざるを得ず、とりわけ南部の電力網や洋上風力発電の整備が急務になると強調。原発の支えを失えば、大型台風や天然ガス輸入の停滞といった事態で電力供給に深刻なリスクが生じかねない。再生可能エネルギーの推進は、地域住民の反発や土地取得の難しさといった課題も抱えており、今後はより強力な政策的誘因や明確な工程表を示して社会不安を和らげる必要があると語った。

同関係者によれば、原発が段階的に退場することで天然ガスの比重は一層高まる。天然ガス発電は「移行期のエネルギー」と位置づけられているが、価格は国際市場の変動に大きく左右されるため、第3・第4受入基地の建設加速や備蓄日数の拡大が不可欠となる。ただし、この選択にも政治的リスクは伴う。燃料費が高止まりするなかで原発の緩衝がなくなれば、台湾電力の赤字は拡大し、電気料金の値上げ圧力が強まる。行政院は当面、補助金で電気料金の急騰を抑える可能性が高いが、長期的には「値上げ」を避けられない見通しだ。こうした構図は、国民党や民衆党が今後も攻撃材料とする公算が大きい。

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