国連創設80周年を迎えるにあたり、国連事務次長で軍縮担当上級代表の中満泉氏が8月18日、フォーリン・プレスセンター(FPCJ)のブリーフィングに登壇し、国際安全保障環境の急激な変化や軍縮をめぐる課題、日本に求められる役割について語った。会場には台湾、米国、日本などの記者が参加し、質疑応答も行われた。

中満氏は冒頭、戦後80年、被爆80年、そして国連創設80年という節目を迎えるにあたり、沖縄や広島・長崎での式典に参列し、国連事務総長のメッセージを代読したことに触れた。そのうえで「記憶の継承を通じて、過去の過ちを繰り返さない決意を新たにすべきだ」と強調した。

一方で、世界の軍事費は2024年に2.7兆ドル(約400兆円)と過去最高を記録し、核兵器の近代化や軍拡競争が進んでいる現状を指摘。「冷戦直後に進展した核軍縮は逆行し、核兵器は再び安全保障戦略の中心に据えられている」と危機感を表明した。また、人口密集地における大型兵器の使用や市民犠牲の増加、さらにドローンやAI、サイバー・宇宙領域における規範未整備の兵器利用など、新たな安全保障上の課題が深刻化していると述べた。
核兵器については「意図的に使用を考えている国はないと信じるが、対話が途絶えた状況で誤算や誤解によるエスカレーションのリスクは近年になく高まっている」と述べ、核軍縮を国連の最優先課題に位置づけた。1946年の国連総会第1号決議が核軍縮に関するものであったことを挙げ、「改めてコミットメントを再確認する必要がある」と訴えた。

来年2026年には、NPT(核不拡散条約)運用検討会議や核兵器禁止条約(TPNW)の初の再検討会議が予定されている。中満氏は「NPT会議で何の成果も出せなければ体制の弱体化が進む」と危機感を示し、日本にはオブザーバーとしてTPNW会議に出席することを検討すべきだと提案した。
さらに、広島や長崎で若者が平和を自分事として語り、活動につなげている姿に触れ、「勇気づけられた」と述べた。国連が日本政府の支援を受けて実施する「ユース比較リーダー基金」には第2期で1万人の応募があり、「若者が核兵器のリスクを実感し、行動に移そうとしている証」と評価した。
また、国連改革については、国連創設80周年にあわせて立ち上げられた「UN80」タスクフォースの作業を紹介し、予算削減やマンデートの見直し、21世紀にふさわしい構造改革を進めていると説明した。そのうえで、日本の分担金負担がかつての19%から約7%に減少した現状に触れつつも「国連加盟国の中で最も信頼される国の一つ」と評価し、国際社会における橋渡し役としての日本の役割に期待を寄せた。
会場では質疑応答も行われ、記者からは安全保障理事会改革について質問が出た。安保理常任理事国の拒否権行使により国連が機能不全に陥っている現状について問われると、中満氏は「歴史的な不公正を正す必要がある」と応じた。安保理改革は加盟国の合意にかかっているとしつつ、「拒否権の制限や理事国の拡大など、待ったなしの課題であり、日本を含むG4が果たす役割は大きい」との見解を示した。
編集:柄澤南 (関連記事: 【独占】年5千万元節約も82億の追加賠償必要 台湾セメント三元案で「不可思議」な事態が発覚 | 関連記事をもっと読む )
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