米国が先端プロセスや高度チップの輸出を制限した狙いは、中国の技術アップグレードを「封じ込める」ことにあった。だが実際には、世界の半導体産業を二つの並行する技術体制へと押し分ける結果になりつつある。
一方の陣営では、最先端ノードと高度パッケージングが友好国ブロックに囲い込まれ、他方の中国は、材料の国産化、成熟プロセスの量産拡大、パワー半導体の強化へと軸足を移し、自給体制の厚みを急速に補っている。外資系機関のデータも、この変化が着実に積み上がっていることを静かに示している。
最もわかりやすいシグナルは、設備輸入と資本支出の回復だ。モルガン・スタンレーによれば、中国の半導体製造装置の輸入額は2025年6月に約30億ドルへ達し、前年比成長率は14%に回復。3カ月移動平均も、5月の7%減から翌月には+2%に反転した。同社は下半期の設備投資について「上半期を明確に上回る」と指摘しており、米国の制裁や審査が続く中でも、中国側が別ルートで拡産準備を整えている現実を浮かび上がらせる。
材料分野の変化はさらに重大だ。ゴールドマン・サックスは、8インチ/12インチのシリコンウェハー国内供給率が2024年の64%/41%から、2027年には78%/54%へ上昇すると予測する。また、SiC(炭化ケイ素)基板の年間生産能力は2024〜2027年の間に250万枚から750万枚へ拡大し、自国の「生産能力/需要」カバー率は87%に達すると見込まれる。材料の国産化が進めば、後工程やパッケージ、モジュール分野における安定性と制御力は飛躍的に高まる。
モルガン・スタンレーの分析によれば、各種の制限がかかる中でも、中国の半導体産業は迂回ルートや別の手段を通じて、増産に向けた体制づくりを着実に進めている。写真はイメージで、本文の事例とは直接関係しない。(写真/AP通信)
成熟プロセスの大躍進 中国が世界の価格決定権を揺さぶる さらに重要なのは、中国が成熟ノードの生産能力を相次いで増強し、世界の価格形成に影響を及ぼし始めている点だ。
パワー半導体を例に取ると、中国のIGBT市場規模は2024年の42.33億ドルから2030年には27.98億ドルへ縮小が見込まれている。自動車市場が調整局面に入り、産業制御や電力網用途が新たな支えとなる構図だ。
こうした需要構造の変化と国産供給力の拡大が重なり、グローバルASP(平均販売価格)や粗利には長期的な下押し圧力がかかる。「量で勝負し、価格でシェアを奪う」戦略は、28/40/55nmといった成熟ノードで特に顕著だ。
同時に、新素材をめぐる新たな競争も進みつつある。ガリウムナイトライド(GaN)の中国市場は、急速充電器から家電、自動車、データセンターへと用途が広がり、ゴールドマン・サックスは2030年に16.11億ドル規模へ到達すると予測する。中国メーカーが参入を続け、激しい価格競争が発生。海外サプライヤーは粗利圧迫にさらされている。これはサプライチェーン再編による「構造的な引き裂き」であり、世界の半導体産業が「二つの体系」へと分かれていく動きの象徴と言える。
中国の半導体メーカーが相次いで市場に参入し、激しい価格競争が生まれている。写真はイメージ。(写真/AP通信)
先進プロセスの制限 加速しているのは停滞ではなく二重構造化 システム全体の視点で見れば、「最先端プロセスへの制約が、むしろシステム全体の性能補完を促す」現象がより鮮明になっている。単一チップの性能差を埋めるために、中国企業が発表している大型クラウド向けデータセンターソリューションなどは、システムエンジニアリングで成熟プロセスとパッケージを密接に組み合わせ、最先端ノードに頼らず性能を積み上げる“別解”を提示している。
米国の遮断措置に対し、中国は資本・人材に加え、材料の国産化×成熟プロセス×自社開発装置という組み合わせで独自ルートを模索し、自給率を着実に引き上げている。海外機関の推計では、中国の半導体自給率は2024年に約24%、2027年には30%に達する見込みで、成熟プロセス部品、メモリ、そして国内CPU/GPUの量産が主因とされる。米国の半導体政策はもともとリスク管理が目的だったが、結果として二つの生態系はそれぞれ形を成し、歩調のズレはむしろ加速し始めている。
GSMからチップ戦争へ:米中技術競争の二重構造 コークランキャピタル会長でベテラン半導体アナリストの楊應超氏は、米中の技術対立は現在の「チップ戦争」より前、すでに通信規格の段階から始まっていたと指摘する。GSMの携帯通信標準を引き合いに出し、「技術体系の二重構造は過去20年かけて徐々に形成されてきた」と説明する。
「当時のGSMは欧州が主導し、米国はCDMA路線を進み、中国は標準から外されていた。いまの半導体をめぐる構図もロジックは同じで、規模がはるかに大きくなり、巻き込まれる領域が深くなっただけだ。」
楊氏は、米国が技術標準とサプライチェーンの主導権を通じて、世界の産業チェーンにおける「ポジショニング権」を握っていると分析する。一方の中国は、パッケージングやチップ設計の分野では急速に追い上げているが、コアプロセスでは依然としてEUV露光装置や高度なEDAソフトに制約されている。
「中国の問題は資金ではなく、基礎科学の土台が弱いことだ。」半導体製造は政策支援を受けているものの、真のボトルネックは長年の技術蓄積の不足にあると説明する。
「中国は自前の露光装置を作ろうとしているが、これは国家予算で解決できる話ではない。オランダASMLの背後には、材料、光学、制御理論など、数十年にわたる基礎科学の蓄積がある。これは買えないし、短期間で模倣もできない。」
また、中国が掲げる「国産代替」や「自前で制御できる体制づくり」は、短期的には市場のゆがみを招く可能性があるとも指摘する。
米国の先端プロセス規制は、中国が最先端ノードへ踏み込むコストを引き上げているが、同時に“量産拡大とサプライチェーンの縦方向の深掘り”へと中国を押し出している。設備輸入、材料国産化、パワー半導体、システム全体の性能補完に至るまで、各種データは米中それぞれの“二つの体系”が加速して分岐している輪郭を示す。
SiC(炭化ケイ素)を例に取れば、中国国外の電気自動車市場には成長の限界が見え始めており、「国内サプライチェーンに組み込む方が合理的」という判断が一層強まる。つまり、パワー半導体の領域では、すでに“二重構造の並走”が現実のものとなりつつある。
ただし、これは短期的な勝敗の問題ではない。価値チェーンのどこに位置取るかをめぐる長期戦だ。台湾メーカーや国際サプライヤーにとっての核心は、二つの体系が併走する中で、どのような差別化・サービス密度・コンプライアンス能力を武器に、価格決定権と技術進化のテンポを守り抜くかにある。