世界的に人工知能(AI)が急拡大するなか、「電力」が国際競争の核心資源として浮上している。一般にはNVIDIA(エヌビディア)のGPU供給不足や巨大モデルの急増、AI応用の爆発といった現象に注目しがちだが、データセンターの電力消費が都市規模に迫るなか、計算能力の拡張を本質的に左右するのはエネルギー供給そのものである。
産業専門家で、微驅科技の総経理を務める呉金榮氏は『風傳媒』の取材に対し、「皆が議論しているのは算力、チップ、モデルだが、電力がなければどんなハードウェアもただの鉄屑だ」と語った。落ち着いた口調ながら、AIが世界のエネルギー秩序を新たな転換点へ押し進めているという、業界内で強まる認識を示した。
中国の電力急増を可能にする 完全な太陽光サプライチェーン OpenAIはAI時代において「電力は新しい石油」であり、AI基盤整備の戦略資産だとして、米政府に年間100GWの発電容量の追加を提案している。
呉氏によれば、各国は自国の状況に応じて電力増強計画を進めている。例えば米国は2024年に約53GWを追加する見通しだが、中国の増加量は圧倒的で466GWに達し、米国の約8倍に相当する。
中国が電力を急速に増やせる背景には、太陽光産業のサプライチェーンが「多結晶シリコン、単結晶シリコン、太陽光ウエハー、太陽光パネルモジュール」まで完全に整備されている点がある。その結果、中国は太陽光発電の導入量で世界最大となり、年間ベースでも新規電力の伸びが群を抜いている。
呉氏はさらに、「中国は太陽光発電の大規模開発を可能にする広大な土地面積という利点も持つ」と指摘。内モンゴルや新疆には、数十GW規模の太陽光発電施設を一度に建設できる広大なエリアがあり、中国のエネルギー拡張は「スケール化」の特徴を備えていると述べた。
半導体市場情報とハイテク動向を専門とし、現在は微驅科技の総経理を務める呉金榮氏。(写真/王秋燕撮影)
国際エネルギー機関(IEA)と国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のデータでも、中国の新規再生可能エネルギー容量は世界全体の6割超を占め、風力・太陽光・水力の各分野で最大の建設国となっている。
米国のエネルギー基盤を阻む老朽電網と州間制度 一方、米国は成熟したエネルギー市場を持ちながら、老朽化した送電網、州間送電の規制、接続申請に数年を要する制度などが障害となり、エネルギー建設の進捗が著しく遅れている。
NVIDIAのCEO、ジェンスン・ファン氏は11月初旬、英『フィナンシャル・タイムズ』主催の「未来AIサミット」に出席し、中国は国内企業に対する手厚い補助金と「電力がほぼ無料に近い環境」によりAI能力を急拡大させていると指摘。そのうえで「中国はAI競争で勝利するだろう」と述べた。
さらにファン氏は、西側諸国、特に米国と英国が「犬儒主義(cynicism)」に縛られていると批判。米国が州ごとに独自の法律を設ければ、AI産業は「50種類の規則が錯綜する混乱」に陥りかねないと警告した。
算力の飢餓 GW級データセンターと「7年の建設ボトルネック」 米中双方がデータセンター建設を加速させているものの、電力消費も同時に急増している。BloombergNEF(BNEF)の推計では、米国のデータセンター電力負荷は2024年の約35GWから、2035年には78GWへと倍増し、実際の電力需要は1時間当たり16GWhから49GWhへと3倍近くに増える見通しだ。
一方で、データセンター建設の速度はAIモデルの成長ペースに追いついていない。BNEFによれば、大規模データセンターが選地、電力接続、試運転を経て稼働するまでには約7年を要し、そのうち5年近くが行政手続きや電網評価に費やされる。AIモデルが6カ月ごとに更新されるのに対し、施設の完成には7年というギャップが生じている。
AIの普及に伴いデータセンターの規模も急拡大している。呉金榮氏は、従来のデータセンターは200〜300MW規模が一般的だったが、現在のAIトレーニング・クラスターは1GWの電力供給を要求し、中規模都市の年間消費電力に匹敵すると指摘。「サーバーはIT機器ではなく、もはや『エネルギー設備』だ」と述べた。
米国では市場集中も加速している。BNEFによると、Amazon Web Services(AWS)、Google、Meta、Microsoftの4社が米国データセンター容量の42%を占め、AWSは自社容量を現在の3GWから12GW近くまで拡大する計画を持つ。これら大手の需要が米国の電力計画全体を塗り替えつつある。
テキサス州にあるOpenAI関連のデータセンター。(写真/AP通信)
非対称競争 中国の電力補助がコスト構造を書き換える 米国が市場主導型のモデルを取る一方、中国は政策主導で競争力を高めている。英『フィナンシャル・タイムズ』によれば、甘粛、貴州、内モンゴルなどのデータセンター集積地は電力補助金を導入し、華為(ファーウェイ)や寒武紀製のチップを採用する大型データセンターに対し、最大5割の電気料金減免を提供している。
これら地域の電力単価はもともと1kWhあたり約5.6セントと低く、補助後のコストはさらに下がり、米国の平均工業電力量(9.1セント/kWh)を大幅に下回る。『フィナンシャル・タイムズ』は専門家の見方として、中国製GPUはNVIDIA製より性能面で劣るものの、補助金込みの総コストでは国産GPUの方が廉価になると報じている。
呉金榮氏は、「中国の技術がNVIDIAに追いつくかは判断しない」と前置きしつつ、「コスト構造が政策で塗り替えられれば、企業の選択も変わる」と指摘。サプライチェーンと政策措置を組み合わせて国産算力を育成する典型例だと分析した。
核エネルギーの再始動 米国は巨大IT企業の投資を軸にエネルギー供給網を再構築 10月にはGoogleがNextEra Energyと25年のPPA(電力購入契約 )を締結し、アイオワ州のデュアン・アーノルド 原子力発電所を再稼働させる計画を発表。2020年に暴風被害で停止した同発電所は、2029年からGoogleのデータセンター向け電力を供給する見通しだ。
他の原発でも再稼働が進む。Palisades原子炉は米エネルギー省による15億ドルのローン保証を受け、2025年末に再稼働予定。スリーマイル島1号機もMicrosoftの購電契約を背景に2027年の復旧が見込まれている。
こうした流れは、米エネルギー省によるAIスーパーコンピューター投資と並行して進んでいる。『Energy Digital』の 報道 によれば、エネルギー省は超微(AMD)と協力し、LUXとDiscoveryという2台のAIスーパーコンピューターを建設するため総額10億ドルを投じている。用途は核安全保障、核融合シミュレーション、国防研究だ。
エネルギー省のクリス・ライト長官は、「AIは核融合シミュレーションの速度を大幅に向上させる」と述べ、政府がAIを単なるIT需要ではなく「エネルギー技術の一部」として位置づけ始めていると強調した。
米国エネルギー長官のクリス・ライト氏。(写真/米エネルギー省Flickr)
台湾を縛る三重の制約 土地・再エネ・電網がAI拡張を阻む 米中の急速な拡張に対し、台湾は土地とエネルギーの両面で構造的制約が大きい。
呉金榮氏は、台湾企業が大規模太陽光発電所を建設することは困難で、データセンターの立地は土地価格や供電能力に制限されると指摘。「台湾には米国西部のような広大な土地がない」と述べた。
RE100による再エネ需要が高まるなか、台湾の再エネ供給は不足しており、企業がESG要件を満たすのも容易ではない。また、地域電網の容量不足により多くのデータセンター計画が接続段階で滞留していることから、「台湾でGW級のデータセンターを見るのは難しい」と語った。
呉氏は「これは政治の問題ではなく構造条件の問題だ」とし、TSMCが海外進出した理由について「電力、土地、水、再エネが揃っているからだ」と説明した。
雲林県麦寮郷の「麦寮海風村」周辺。六軽工業区近くの沿岸部には風力発電設備が立ち並ぶ。(写真/羅立邦撮影)
AIのエネルギー需要は新たな地政学を形成する 原発再稼働、政策補助、スーパーコンピューター投資、土地・電網の逼迫など、AIは各国のエネルギー政策の優先順位そのものを書き換えつつある。 米中は異なる方法でこの圧力に対応している。中国は政策とスケールでエネルギー生産を押し上げ、米国はテクノロジー企業と政府主導で供給網の再構築を進める。
そして呉金榮氏は、この議論の核心を一言で示した。「AIが必要とするのは、大量で、安定し、途切れない電力だ。」この言葉こそが、今後10年間の世界のテック競争とエネルギー競争の共通スタートラインになる。