日本の高市早苗首相が「台湾有事」と集団的自衛権(あるいは、集団的自衛権行使を認めるための「存立危機事態」)を事実上結びつけたことが、最近の日中対立の最大の引き金となった。注目すべきは、高市首相が自らこの話題を切り出したのではなく、国会答弁で議員からの質問に答える形で言及した点である。では、質問した立憲民主党前幹事長で衆議院議員の岡田克也氏は、なぜこのテーマを取り上げたのか。台湾を守るためだったのか、あるいは中国を刺激する狙いがあったのか。日本メディアの最新インタビューによれば、岡田氏はむしろ「台湾有事=日本有事」に反対する立場であり、高市首相の回答が予想外だったため、第一声は「これはまずい」だったという。
Q.「存立危機事態」とは何か
「存立危機事態」とは、2015年に成立した安全保障関連法により設けられた概念で、「日本と密接な関係にある国が武力攻撃を受け、日本の存立が脅かされ、国民の生命・自由・幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」が生じた場合に、限定的な集団的自衛権の行使を認めるものとされる。安倍政権以降、歴代政府は「台湾有事」や「存立危機事態」について問われても、「個別具体の状況を踏まえて総合的に判断するため、一概には言えない」として、明確な答弁を避け続けてきた。
一方、「台湾有事」について岡田氏は、朝日新聞の雑誌『AERA』の取材で、次の三名の政治家の発言を特に問題視していたと述べた。(1)安倍晋三氏が退任後のシンポジウムで「台湾有事は日本有事」と発言したこと、(2)自民党副総裁の麻生太郎氏がワシントンで「(台湾有事は)日本政府が存立危機事態と判断する可能性が極めて高い」と語ったこと、(3)高市首相が昨年の自民党総裁選のテレビ番組で「(中国が台湾を海上封鎖した場合)存立危機事態に該当し得る」と発言したこと、である。
Q.今回なぜ「存立危機事態」を質したのか
『毎日新聞』が18日に行ったインタビューで、最初に問われたのがこの点だった。岡田氏は、一部政治家が集団的自衛権行使に課された法律上・国会審議上の制約を無視しようとする姿勢に強い危機感を抱いていたと述べた。これは違憲の恐れがあるだけでなく、日本の国益にも反すると考えていたという。
Q.当日の質疑応答はどうだったか
7日の衆議院予算委員会で「台湾有事」について質され、高市首相は冒頭、従来の政府答弁と同様の内容を読み上げた。しかし岡田氏が続けて、「バシー海峡が封鎖されても日本のエネルギーや食糧供給は中断しない。では、どのような場合に存立危機事態に当たるのか」と尋ねると、高市首相は「軍艦の出動を伴い武力行使が行われれば、どう見ても存立危機事態に当たり得る」と述べた。
岡田氏は、当初は「模範的回答」だったが、「どう見ても」という断定的な表現に転じた瞬間、事態が変わったと述べた。「可能性がある」程度なら従来の範囲内だが、「どう見ても」と言い切ったことで、「台湾有事=存立危機事態」と受け止められかねない答弁になったという。
Q.岡田氏の第一時間の反応は何だったのか
岡田氏は『毎日新聞』の取材に対し、高市首相には本来、法律上の定義やこれまでの国会答弁の内容を厳格に踏まえた、一定の制約を伴う答弁を期待していたと語った。ところが実際には、かなり踏み込んだ断定的な答えが返ってきたため、強い驚きを覚え、「非常にまずい答弁だ」と感じたという。
岡田氏はAERAの取材でも、個人的に期待していた答弁として「(たとえ台湾海峡が封鎖されたとしても)それによって国家の存立が揺らぎ、国民の権利が根本から覆されるような事態にならない限り、存立危機事態とは必ずしも言えない」という程度のものを想定していたと明かした。しかし高市首相から想定外の回答が飛び出したことで、「このまま質疑を続ければ(高市氏は)ますます後戻りできなくなる」と判断し、それ以上、答弁内容を深掘りする追及は行わなかったと振り返る。
にもかかわらず、実際に飛び出したのは「武力行使が絡むのであれば、どういう場合でも存立危機事態になり得ると考える」という、ほとんど歯止めのない発言だった。岡田氏は、従来の政府答弁にも抽象的な文言を積み重ねることで最終的に大きな裁量を政府に与えているという問題はあったとしつつも、「高市氏の発言はそれをさらに一歩進めたものだ」と指摘する。自らの想定とはまったく逆方向の答弁内容であり、「非常に驚いた」と明かしている。
岡田氏は当時、この発言には問題があると感じ、その後の質問は台湾有事に限定せず、やや朝鮮半島情勢などに軸足を移したという。ただし、「それも焼け石に水に過ぎなかった」と述べる。
その日の質疑終了後、岡田氏はこの問題が政治的に過剰に利用され、煽り立てられることを避けたいと考え、党内協議を経て、次回の予算委員会で大串博志議員を質問に立て、高市首相に対し「答弁を撤回する意思はあるか」とただす方針を決めた。岡田氏は「本来は撤回のチャンスを与えたつもりだったが、首相はこれを拒んだ。その結果が、現在の状況につながっている」と語る。
Q.なぜ高市氏の答弁を聞いた瞬間「まずい」と感じたのか
岡田克也氏は、『毎日新聞』が「その答弁は日中関係に悪影響を与える可能性があるからですか」と質問したのに対し、日中関係の配慮もあるが、主な問題は「首相として言ってはならない発言をした」点にあると述べた。「台湾有事」を「存立危機事態」と同一視することは、戦争を意味する。だからこそ、できる限り限定的に答えるべきだと求めたのに、高市氏はその一線を越えた。「これは非常に危険な発言だ」と岡田氏は指摘する。
Q.なぜ追及を続けたのか? 高市氏を「台湾有事」に誘導する意図があったのか
岡田克也氏は『AERA』の取材で、10年前から「存立危機事態」という概念自体に強く反対していると述べた。この概念は違憲の可能性があるにもかかわらず、最終的には成立した。しかし当時の内閣法制局長の答弁では、「我が国を守るために必要最小限の武力行使に限る」という姿勢が示されていた。
ところが近年、政府は「無制限の集団的自衛権行使」へと傾いているように見えるため、政府の基本的な考え方を改めて確認する必要があると判断したという。
また「岡田氏が高市首相にわざと誘導質問し、今回の騒動を引き起こした」という政権支持層からの批判については、「理解しがたい」と否定した。国会で鋭い質問をするのは議員として当然の役割であり、問題は質問者ではなく、誤った答弁をした首相側にあると述べた。
岡田氏自身も高市氏の回答には衝撃を受けたという。首相には「存立危機事態」を成立させる条件を、もっと限定的かつ明確に示す答弁を期待していたからだ。
Q.高市氏はなぜ従来の政府姿勢を超える発言をしたのか
岡田克也氏は、高市氏の真意は分からないとしつつも、「首相になれば、一言一句が極めて重大な意味を持つ」と指摘する。
「議論しているのは日本が戦争を開始する条件だ。そんな発言をする人物が首相で本当に大丈夫なのか。重大局面で誤った判断を下す可能性を強く懸念している。戦争が起これば、自衛隊員も国民も甚大な被害を受ける。だからこそ慎重な答弁が必要だ。軽々しく戦争につながるような発言をしてはならない」と語った。
Q.中国外交官の「汚い首は斬る」発言や中国の対抗措置をどう見るか
岡田克也氏は、中国駐大阪総領事による暴言は「荒唐無稽で許されない」と批判した。ただし、すでに中国側がさまざまな反応を示している以上、日中間の「ゲーム」は始まってしまっており、そのきっかけを作ったのは高市首相の答弁だったと指摘する。
「もし国会で自ら不適切な発言を撤回していれば、まだ収める余地はあった。しかし中国が撤回を求めたのを受けて日本の首相が発言を撤回するとなれば、極めて難しい」と岡田氏は語る。いま必要なのは官僚レベルで事態の沈静化を図ることであり、解決には多くの時間と労力が必要だという。岡田氏自身は日中友好議員連盟の副会長を務めており、貢献できることがあれば尽力したいと述べた。
Q.共同通信の調査で48.8%が「台湾有事で集団的自衛権行使を支持」と回答したことをどう見るか
岡田克也氏は、まず「質問の設定自体に問題がある可能性がある」と指摘したうえで、「日本は本当に大丈夫なのか」と強い危機感を示した。この数字は、戦争に賛成する人がこれほど多いことを意味するからだ。岡田氏はロシアによるウクライナ侵攻を例に挙げた。周辺国が取った対応は、経済制裁、武器・物資の提供、難民の受け入れにとどまり、出兵は一線を画していた。なぜならロシアと直接戦えば甚大な結果を招くと分かっているからだ。
「台湾有事を存立危機事態と認定することは、中国に対する宣戦布告と同じだ。国民はその意味を真剣に考えるべきであり、メディアも国民に丁寧に説明すべきだ」と述べた。
Q.中国の反応は過剰か? それとも「台湾を自国の一部とみなす」中国にとって当然の反応か
岡田克也氏は、「中国への対応を論じる立場にはない」と前置きしたうえで、中国の反応は日本に大きな影響を及ぼしていると指摘した。中国にとっても日中関係の不安定化は望ましくなく、双方がどこかで妥協点を見つける必要があると述べた。
高市首相は先月、習近平国家主席との会談を行った直後に台湾代表と面会し、その写真をSNSに投稿した。このため中国の反発は、複数の事象が積み重なった結果だと岡田氏は分析する。そのうえで、「日中関係はもっと大局的に考えるべきであり、緊張が高まれば両国の国益が損なわれ、誰の利益にもならない」と強調した。