ノーベル賞スティグリッツ氏「資本主義は民主主義を侵食」 世界共通の「最大リスク」とは

ノーベル経済学賞受賞者スティグリッツ氏(Joseph Stiglitz)。(画像/コロンビア大学ウェブサイトより)
ノーベル経済学賞受賞者スティグリッツ氏(Joseph Stiglitz)。(画像/コロンビア大学ウェブサイトより)
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世界はいま、どの問題に最も深刻に向き合うべきなのか。ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ氏は、制御されない資本主義が民主主義の価値と正面から衝突しつつあると警鐘を鳴らし、拡大し続ける不平等こそが各国に共通する最大の圧力になっていると述べる。

スティグリッツ氏は2001年のノーベル経済学賞受賞者であり、世界銀行の上級副総裁兼チーフエコノミスト、米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長などを歴任した。『日経アジア』は11月15日、彼のインタビュー記事を掲載。独占による競争の弱体化、企業や金融界の利益を優先する貿易協定、移民制限が物価上昇圧力を見えにくくしている点などを論じた。また新設の「国際不平等研究グループ(IPI)」の意義や、世界の準備通貨システムを再検討すべきだとの見方も示した。

資本主義と民主主義の緊張が高まっている

スティグリッツ氏は、資本主義は本質的に「自己利益と短期志向」に基づくのに対し、民主主義は「共同体と協力」を前提としていると指摘する。当初は補完関係にあると考えられていた両者だが、いまや乖離が顕著だという。

競争は資本主義の根幹であるにもかかわらず、独占的な力が積み上がることで競争は弱まり、経済力の集中が政治的不平等へと転化する。結果として民主主義そのものが侵食される危険が高まる。

彼が推進する国際不平等研究グループ(IPI)は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)に近いモデルで運営され、不平等の原因を科学的に分析し、政策判断の基盤を提供しようとする取り組みだ。経済学界の議論は多様だが、富の極端な集中と不平等の悪化については、もはや否定できない趨勢となっている。

ニューヨークを覆う「負担可能性」の危機

ニューヨーク市長選でマムダニ氏が提案した家賃凍結と税率引き上げの政策について、スティグリッツ氏は概ね支持を示す。賃金と生活費の乖離が、市民の根底的な不安である「生活の負担可能性」を深刻化させているためだ。

入居者は家族や地域の事情から簡単には移動できず、家主は強い市場支配力を持つ。この構造のもと、家賃安定化策はテナントを急激な負担増から守る役割を果たすと説明する。

企業界に根強い「再分配や規制は成長を阻害する」という主張に対しては、より平等な政策が生産性の高い労働力を生み、経済成長にも好影響を与えることは政策研究で繰り返し示されていると反論する。

伝統的メディアは民主主義の制度的支柱

SNSによる世論の極端な分断が進むなか、スティグリッツ氏は伝統的メディアの役割を重視する。伝統的メディアは民主主義の基盤を支える制度的存在であり、その役割は金融システムにおける中央銀行に近いと述べる。

公共資金の投入は慎重であるべきだが、スウェーデンやノルウェーの事例は、政治から独立した形で運用されれば、メディアの独立性と信頼性を維持できることを示している。

関税・移民政策は構造問題を覆い隠す

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