歴史小説を通じて台湾と日本を読み解く──『南光』作者・朱和之氏が東京で講演

『南光』の著者・朱和之氏が東京で講演し、歴史小説を通じて台湾と日本の記憶とつながりを語った。( 写真:台湾文化センター)
『南光』の著者・朱和之氏が東京で講演し、歴史小説を通じて台湾と日本の記憶とつながりを語った。( 写真:台湾文化センター)

文化部駐日台湾文化センターと紀伊國屋書店が共催する台湾・日本作家交流トークイベントが10月19日に都内で開催され、台湾の作家・朱和之氏と日本の書評家・倉本SAORI氏が登壇した。朱氏の小説『南光』(春秋社刊、2024年日本語版)を題材に、台湾と日本の歴史、戦争記憶、そして日常と文学の関係について語り合った。

朱氏は歴史を背景に台湾社会の多様な姿を描く作家として知られ、『南光』のほか『逐鹿之海:1661台灣戰爭』『樂土』『鄭森』『當太陽墜毀在哈因沙山』などで数多くの文学賞を受賞してきた。一方、倉本氏は文芸誌などで批評を展開し、法政大学大学院で教鞭を執る書評家である。

朱氏は冒頭、日本語で自己紹介し、「自作を通して台湾と日本の歴史のつながりを感じてもらえたら光栄です」と語った。新型コロナウイルスの影響で、モデルとなった台湾人写真家・鄧南光が留学していた東京を取材できなかったため、資料と想像力によって執筆したことを明かした。

今回8年ぶりの訪日にあたり、四ツ谷から弁慶橋まで作中の人物と同じ道を辿った経験について、「一部はホテル用地となっており当時の道を確認できなかったが、弁慶橋に立ったとき深い感慨を覚えた」と語った。

また、朱氏は『南光』を通じて「歴史小説家」という枠を超えて純文学的アプローチを試みたと述べたが、読後に台湾の文学研究者・陳芳明氏から「これはまさに真正の歴史小説である」と評された経験に触れ、「当時の人々の生活や心理を描いたからこそ歴史性が浮かび上がったのだろう」と振り返った。

倉本氏は戦争記憶や女性の視点などについて質問を投げかけた。朱氏は祖父が自宅に防空壕を残していたことや、酒を飲んだときだけ日本の歌を口ずさんだという記憶を語り、「沈黙の奥にある恐怖や記憶が創作につながった」と説明した。

『南光』執筆に際して、朱氏は鄧南光の約六千枚の写真をすべて閲覧したと語った。特に妻をモデルにした作品が多い一方、妻が撮影を好んでいなかった可能性に着目し、女性視点から人物像を再構築したという。「ライカ一台が家一軒分に相当する時代に、法政大を卒業した高学歴の男性が台湾で写真館を開くという選択は、芸術への執念を象徴するものだった」と語った。また、作品の虚構性については出版前に遺族の確認を得て理解を得られたことへの安堵も示した。

本イベントは、台湾文学の日本語翻訳作品を紹介する取り組みの一環であり、文化部駐日台湾文化センターは今年、楊双子、張國立、呉明益に続き朱和之氏を東京に招いた。いずれのイベントも日本の読者から大きな関心を集め、台湾と日本の文学交流をさらに深める機会となった。

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