トップ ニュース 『日経アジア』単独インタビュー「統一女神」鄭麗文氏が語る:賴清德政権は台湾を危険に導いている 唯一の出口は「九二コンセンサス」
『日経アジア』単独インタビュー「統一女神」鄭麗文氏が語る:賴清德政権は台湾を危険に導いている 唯一の出口は「九二コンセンサス」 2025年11月12日、中国国民党主席の鄭麗文氏が孫中山生誕160周年記念イベントに出席した。(写真/顏麟宇撮影)
台湾をのみ込む可能性のある衝突をどう防ぐのか。世界の政策決定者や有識者が悩むこの問いに、『日経アジア』が14日に掲載した国民党主席・鄭麗文氏のインタビューは、一つの明確な答えを提示した。
鄭氏は「台北が『ひとつの中国』を受け入れ、なお各自の解釈の余地を残す、いわゆる『九二コンセンサス』に立ち返れば、緊張は消えていく」と語った。
『日経アジア』 は見出しで、11月1日に正式就任した鄭麗文氏を「統一女神(Unification goddess)」と形容。鄭氏は、台湾が生き残るための現実的な道筋は「ひとつの中国」の受容であり、トランプ米大統領と賴清德台湾総統が掲げる国防費増額路線ではないと強調した。
防衛費の急増は台湾を守れない 鄭麗文氏はインタビューで、与党・民進党が進める防衛路線、すなわち賴清德政権が米トランプ政権と足並みをそろえて強化している軍備増強政策そのものに疑問を示した。賴清德大統領は、来年度の国防予算をGDP比3%以上へ引き上げ、2030年に5%を目指すと宣言しているが、鄭氏は「伸び幅が大きすぎ、速すぎる。これほどの急激な防衛費増は台湾海峡の安全を真に保証するものではない」と批判した。
『日経アジア』の記者が、台湾が直面する安全保障上のリスクは多くのNATO加盟国よりも高い以上、類似の国防投資レベルを目指すべきではないかと問いかけると、鄭氏は次のように応じた。「NATOの軍備増強スケジュールは2035年を見据えています。その頃にはトランプ氏はすでに大統領ではありません」
『日経アジア』は、鄭氏の強硬な主張が、立法院(台湾の国会)でさらなる与野党の対立を引き起こす可能性が高いと指摘する。国民党を中心とする野党連合は、現在立法院でかろうじて多数派だが、賴政権が昨年5月に発足して以降、安全保障から外交、経済政策に至るまで重要議題が停滞し続けている。さらに、賴政権が提出を予定する巨額の特別防衛予算は、野党が否決に動くリスクが大きく、国内の政治対立を激化させるだけでなく、台北とワシントンの関係にも潜在的な摩擦を生む可能性がある。
「台湾独立ファシズム」と「緑の恐怖」? 民進党への批判 鄭麗文氏は、台湾の未来を危険にさらしているのは北京ではなく、民進党および賴清德大統領だと主張する。その立場は賴氏の政策と真正面から衝突し、一部の中国のネットユーザーが鄭氏を「統一女神」と呼ぶ背景にもなっている。鄭氏は国民党中央党部での取材に対し、「蔡英文総統が『九二コンセンサス』(1992年に台湾と中国が『一つの中国』の原則について各自の解釈を認め合ったとされる枠組み)を拒否して以来、両岸関係は急速に冷え込んだ」と述べ、賴清徳氏が台湾を「台湾独立ファシズムの暗黒時代」に導いていると強く批判した。
『日経アジア』は、鄭氏が「ファシズム」という重い言葉を、英『エコノミスト』傘下の「EIU(Economist Intelligence Unit)」が東アジア最高と評価する台湾の民主制度に向けた点について、その衝撃の大きさは、鄭氏が国民党主席選に「ダークホース」として勝利した出来事に匹敵すると指摘する。
鄭氏は、賴氏が法的に独立宣言を行ったわけではないことは認めつつも、その発言には「独立寄りの歴史観とイデオロギーが滲む」と批判し、民進党が異論を押しつぶしていると非難した。「民進党の統治下では『緑の恐怖』(民進党政権に批判的な人々が委縮する状況)が存在する。賴清徳氏の独立志向に同意しない者は、すぐに『親中』『裏切り者』『台湾を愛していない』とレッテルを貼られる」
鄭氏は反問する。「台湾が台湾独立を唱える自由を持つのなら、なぜ統一を唱える自由を持ってはいけないのか」
「台湾独立建国」から「私は中国人」へ 鄭麗文氏の政治的変遷 『日経アジア』は、現在の鄭氏の立場とその政治的出発点を比べれば、その変化は鮮烈だと述べる。その軌跡を理解することが、国民党の新たなリーダー像をつかむ鍵だという。
鄭麗文氏は台湾西部の雲林県の出身で、台湾大学で法学士号を取得した後、米英に留学し、最終的にはケンブリッジ大学で国際関係を学んだ。「世界の現実を知りたかったからだ」と語る。
彼女はもともと民進党所属で政界入りし、1996年に国民大会代表(当時の選挙制度による公職)に当選。この頃の鄭氏は、国民党の戒厳体制を「残酷で冷酷なもの」と激しく批判し、「私たちの国を築く」と訴えていた。しかし2005年、彼女は方針を転換し、それまで激しく批判していた国民党に加入。これは台湾政界に大きな衝撃を与えた。その後、立法委員を2期務め、行政院報道官や国民党副秘書長など重要ポストも経験している。
こうした経歴ゆえに、鄭氏が「直接選挙で広範な民意を得ずにトップの座に就けるのか」という疑念も指摘される。ある西側分析者はこう例えた。「地方のテニスコートで長年プレーしていた選手が、突然ウィンブルドンのセンターコートに立ったようなものだ」
それでも鄭氏は党の目標を明確に掲げる。過去3度連続で大統領選に敗れた国民党を、2028年の政権奪還に導くことだ。自身がその座を目指すかについては「考えたことがない」としている。選挙戦ではこう訴えた。「いつの日か台湾の人々が胸を張って『私は中国人だ』と言えるようにする。それこそが国民党の使命です」
しかし、現実の世論は鄭氏が直面する最大の壁だ。Pew Research Centerや政治大学選挙研究センターの長期調査によると、台湾のアイデンティティは一貫して強化され、回答者の60%以上が「台湾人」と答え、「中国人」と答えたのはわずか3%だった。残る約30%は両方を自認している。
雄弁な「よく語る党首」 鄭麗文氏の歩んできた軌跡そのものが、政治ドラマのような物語だ。国民党主席選では「ダークホース」として登場し、伝統派候補を難なく破った。約6万5千人の国民党員が彼女に投票した背景には、前主席・朱立倫氏、そして2024年の総統選で敗れた侯友宜氏との「決別」の意味もあった。朱氏も侯氏も、軍備増強によって対中抑止を実現するという約束を果たせず、党の基盤を十分にまとめきれなかったためだ。
鄭氏の政治スタイルも、前任の党首とは大きく異なる。朱立倫氏はメディア対応で慎重な姿勢が多く、ドイチェ・ヴェレのインタビューを途中退席した場面が象徴的だ。一方、鄭氏は就任前から同局のインタビューを積極的に受け、対話を避けなかった。彼女は「プーチン氏は独裁者ではない」と断言し、「ウクライナ戦争はNATOが引き起こした」とも述べ、数日間ニュースのトップを飾った。
「彼女は朱立倫氏や侯友宜氏とはまったく違います。見映えもよく、話術にも長けている」。米法律事務所の弁護士で台湾情勢の分析に詳しいマイケル・フェイヒー氏は『日経アジア』にそう語る。法律の専門知識と学生運動の経験が、彼女の演説力や議論能力の基礎になったと指摘し、「ケンブリッジで取得した学位は、もともとの素質にさらに磨きをかけた」と評した。
フェイヒー氏は続けて、鄭氏が相手や場面に合わせて語り口を変え、SNSや過激な表現を組み合わせた「ショックジョック型」の政治手法を熟知していると分析する。しかし、ジェームズタウン財団のピーター・マティス会長は、鄭氏が「九二コンセンサスこそ台湾に必要な包括的防御だ」と位置づけている点が、かえって不安を呼んでいると懸念を示した。
馬英九路線への回帰か? 「対話が対立を置き換える」という賭け 『日経アジア』のインタビューで鄭氏は、台湾はワシントンと北京の間でバランスを取る必要があるとしつつ、民進党が外交上の失敗を招いていると主張した。TSMC(台湾積体電路製造)が米国での投資拡大を進めていたにもかかわらず、数カ月に及ぶ非公開交渉の末にトランプ政権から20%の関税を課されたのは、「頼政権がこの極めて不透明な交渉を台無しにした結果だ」と述べた。
さらに鄭氏は、もし自動車の関税がゼロになれば、台湾の自動車産業に深刻な打撃を与え、約30万人の雇用に影響する可能性があると指摘。農産物市場を開放して米国と取引することは「台湾の農家に致命的な影響を与えかねない」と警告した。また、米国が提案した半導体製造の「生産能力50対50分担制度」(頼政権は非現実的として否定)についても、「両岸が平和であれば、そもそも必要のない措置だ。衝突の恐れこそTSMCを米国に移そうとしている理由だ」と述べた。
こうした懸念を和らげる手立てのひとつとして、鄭氏は「国共フォーラム」の復活を挙げた。これは2005年4月、当時の中国国家主席・胡錦濤氏と、国民党の連戦氏(元副総統)によって北京で開かれ、その後2016年に中断された会合である。
習近平氏との会見の可能性について問われると、鄭氏は「対話こそが対立を置き換え、破滅を避ける道だ」と強調し、「両岸は必ず平和的にすべての隔たりを解決できる」と確信していると語った。また、最近「台湾の問題は日本の問題」と発言した高市早苗 新首相に対しては祝意を述べ、より多くの女性が政治参加することへの期待も示した。
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