台湾国防部は、11〜12日の両日とも午前9時の定例発表で「台湾周辺の海空域に中国軍機・艦艇の活動は確認されなかった」と異例の連続発表を行った。筆者が先に、鳳凰台風の影響で一時的に動きが止まっていると指摘した通りの状況であり、早ければ13日以降、改めて台湾海峡へ戻ってくるとみられる。
日本の新首相・高市早苗氏は11月7日、衆議院で「台湾有事」の際に日本が集団的自衛権を行使し得るとの趣旨を述べ、中国側のいわゆる「二本の剣」──外交部と在外公館──から、相次ぐ罵倒と抗議を招いた。中国国務院台湾事務弁公室(国台弁)は12日、「日本は一つの中国原則と中日間の四つの政治文書の精神を守るべきだ」と牽制した。一方で、8〜11日にかけて中国海軍艦艇4隻が大隅海峡を通過して西太平洋へ進出しており、配備区域などの情報から判断すると、日本列島を一周する形で軍事的威嚇を図るシナリオも考えられる。
高市氏は首相就任から1カ月も経たない11月7日、衆院予算委員会での審議に臨み、立憲民主党の岡田克也元外相の質問に答える形で、「台湾有事」が武力行使を伴う場合、安全保障関連法制における集団的自衛権行使の要件である「存立危機事態」に該当し得るとの見解を示した。
この発言に対し、中国側の反応は極めて激しいものだった。駐大阪総領事の薛剣氏は11月8日深夜、X(旧Twitter)に「その汚れた頭はためらわず斬り落とされるべきだ」と投稿。10日には外交部の林剣報道官が、「日本の指導者が国会で台湾問題に関する誤った発言を行い、武力介入の可能性をほのめかした」と強く批判し、「中国は断固反対し、すでに日本側に対して厳正な申し入れと強烈な抗議を行った」と述べた。
こうした「二本の剣」による言葉の応酬に続き、国台弁の陳斌華報道官は12日、「台湾は中国の一部であり、日本は歴史を深く反省し、そこから教訓をくみ取るべきだ。外部勢力に頼って台湾を中国から切り離そうとするいかなる企ても、必ず失敗に終わる」と語った。日本国内外では高市発言への賛否が溢れており、その論評は枚挙にいとまがないため、ここでは詳述を避ける。
高市首相は11月10日の衆院で改めて説明に立ち、7日の「台湾有事は存立危機事態に当たり得る」との発言について、「政府の従来の見解に沿ったもので、撤回や取り消しの考えはない」と強調する一方、「当時の具体例の挙げ方については反省しており、今後は特定の状況を明確に想定するような表現は避けたい」と述べた。日本研究者の中には、これを「別の形のトーンダウン」と見る向きもある。敏感なテーマについて、ここまで具体的に応答する首相は過去にはほとんどいなかったからだ。
一方、中日間の外交関係が一気に緊張する中で、日本防衛省統合幕僚監部は11月12日、11日に中国海軍艦艇3隻(103・547・902)が東シナ海から大隅海峡を抜け、西太平洋に入ったと発表した。これら3隻はいずれも北部戦区海軍に属し、山東省・青島を拠点とする第1駆逐艦支隊の055型駆逐艦「鞍山」(103)、同じく054A型フリゲート「臨沂」(547)、第1作戦支援艦支隊の903A型補給艦「東平湖」(902)である。北部戦区海軍103編隊が、このタイミングで大隅海峡を通過した狙いは何か。日本側の関心が集まっている。
北部戦区海軍は最近、10月11日午前9時ごろにも、遼寧省・大連の第10駆逐艦支隊所属の052D型駆逐艦「唐山」(122)と054A型フリゲート「大慶」(576)、そして青島の第1作戦支援艦支隊所属の903A型補給艦「太湖」(889)を青島から出航させている。これらは11月1日にアデン湾へ到着し、第47次護衛編隊との交代任務に就いたとみられることから、今回の103編隊はアデン湾派遣とは別任務だと判断される。
中国軍の関連文献によれば、「軍事闘争は外交・政治の必要に従属しなければならない」とされる。軍事行動は、相手国や特定地域に対し、特定の立場や政策を放棄・変更させることを目的とする。中国は台湾をめぐる問題などで、外交部や国台弁、国防部の発言を先行させたうえで、担当する「戦区主戦」が空軍・海軍を動かし、管轄する空域・海域で軍事威嚇を行うのが通例だ。
ただし、筆者が理解に苦しむのは、本来東北アジアの安全保障を担当する北部戦区が、遠洋訓練編隊としてわざわざ大隅海峡を経由し、西太平洋へ向かった意図である。
振り返れば、2025年3月7日に開かれた第14期全国人民代表大会第3回会議で、「中国の外交政策と対外関係」をテーマとする外相記者会見が行われた。王毅外相は日中関係について、両国首脳が2024年11月に「四つの政治文書」の精神に基づき、中日戦略的互恵関係を包括的に推進し、新時代にふさわしい建設的で安定した関係を構築することで一致したと説明した。
同時に王毅氏は台湾問題にも言及し、「一つの中国」原則が日中関係の政治的基礎であると強調。「台湾が中国に復帰してからすでに80年になるが、なお日本には歴史を省みないまま『台湾独立』勢力と通じる者がいる。『台湾有事は日本有事』とあおるより、台湾を利用して騒ぎを起こせば、結局は日本自身の問題となることを肝に銘じるべきだ」と牽制した。
こうした中で、12日夜に配信されたNewtalkの報道は、高市首相の「台湾有事」発言後、中国海軍艦艇が大隅海峡を通過する事例が初めて公式確認されたと指摘した。報道は、中国艦艇の「通過」頻度が目に見えて増えており、馬毛島基地の開発が加速していることと無関係ではないとの見方を示し、中日間の海域摩擦がエスカレートしている可能性を浮き彫りにした。ただ、この点についてはなお疑問が残る。
さらに、防衛省統合幕僚監部は11月10日の公表で、8日に中国海軍艦艇794が東シナ海から大隅海峡を通過し、西太平洋へ向かったことを明らかにしている。794は北部戦区海軍・青島の情報収集艦隊に所属する815A型電子偵察艦「天狼星」である。
長期的な観察から、電子偵察艦「天狼星」(794)と103編隊3隻は、同一の遠洋訓練任務に基づく行動とみられる。前者は主に後者の艦隊に対する情報収集と電子防護を担い、後者は前者を護衛する役割を果たす構図だ。
一方、米海軍の空母「ジョージ・ワシントン」は11月5日に韓国・釜山へ寄港し、9日に離港したとされ、11〜12日には日本海南部に展開していたと伝えられている。今後、大隅海峡経由で太平洋側へ抜けるのか、日本海から津軽海峡を通過して横須賀の在日米海軍基地へ戻り、秋季巡航を終えるのかについては、関係当局や報道による確認が待たれる。
北部戦区は東北アジアの安全保障と防衛を担う戦区であることから、筆者はあえて大胆に推測したい。すなわち、北部戦区海軍の055型駆逐艦「鞍山」(103)、054A型フリゲート「臨沂」(547)、903A型補給艦「東平湖」(902)、そして815A型電子偵察艦「天狼星」(794)は、8〜11日にかけて青島を出港し、黄海・東シナ海を経て大隅海峡を通過、西太平洋で年次の遠洋訓練・年末評価に従事している可能性が高い。その過程で、東京以南や小笠原諸島周辺の海域を経由しながら北上し、太平洋北部から日本列島を逆時計回りに一周しつつ、北部戦区の担当する近海・遠海の防衛区域を広く巡航するシナリオも否定できない。現時点で、日本の自衛隊は高い警戒レベルで、北部戦区艦隊の遠洋訓練を監視しているはずだ。