脱北した元北朝鮮外交官・李日奎氏、FCCJ会見で体制の実態と国際関係を証言

脱北した元北朝鮮外交官・李日奎氏がFCCJ会見で、体制の実態と拉致問題解決の可能性、中露朝連携の脅威を語った。(写真:FCCJ)
脱北した元北朝鮮外交官・李日奎氏がFCCJ会見で、体制の実態と拉致問題解決の可能性、中露朝連携の脅威を語った。(写真:FCCJ)

東京の日本外国特派員協会(FCCJ)で10月行われた記者会見で、北朝鮮の元外交官で2023年11月に脱北し韓国に亡命した李日奎(リ・イルギュ)氏が、金正恩体制の実態、外交官としての経験、核開発と密輸に関わる構造、拉致問題への見解、米朝関係や中露朝の連携など、北朝鮮内部から見た現状を詳細に語った。李氏は1972年に平壌で生まれ、北朝鮮外務省に所属し、在キューバ大使館では政治担当参事官として勤務。体制内部を長く経験した立場から、自ら「自由のない社会であり、人々は指導者一家のために従属させられてきた」と証言した。

脱北した元北朝鮮外交官・李日奎氏がFCCJ会見で、体制の実態と拉致問題解決の可能性、中露朝連携の脅威を語った。FCCJ
脱北した元北朝鮮外交官・李日奎氏がFCCJ会見で、体制の実態と拉致問題解決の可能性、中露朝連携の脅威を語った。(写真:FCCJ)

李氏によると、北朝鮮の外交官は国家の威信を背負った特権階層とみなされがちだが、実際には賃金は極めて低く、国外でも常に監視下に置かれ、密輸や外貨調達に関与せざるを得ない環境に追い込まれているという。また、国民生活よりも核開発が優先される政策に疑問を抱く声は内部にも存在し、「社会は一人の指導者のために構造化されたジャングルのようなものだった」と語った。

「拉致問題解決の意志」、「米朝首脳会談はない」、「中露朝は同盟以上の脅威にも」

在キューバ勤務中には、2012年にパナマで摘発された北朝鮮貨物船「チョンチョンガン号」の武器密輸事件の対応に関与し、当時の金正恩総書記から評価を受けたという。しかし体制への不信と恐怖が高まり、家族と離れる覚悟で亡命を決断。「人間として自由と尊厳を失わずに生きられる場所を求めた」と振り返った。

会見では拉致問題にも触れ、「北朝鮮は今、拉致問題を解決する意志がある」と述べたものの、日本人拉致問題を含むかどうかについての明言は避けた。一方で「北朝鮮は日本が考える以上に日本への関心を持っている」としつつも、現在の対外関係の優先順位は「ロシア、中国、米国、日本の順」であり、米朝関係が日本より優先されるため「拉致問題の解決には時間がかかる」との見通しを示した。

また、今月末に韓国で開催されるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議での米朝会談の可能性について、「個人的な見解だが、ないと思う」と断言。ロシアの後ろ盾を得た金総書記にとって「トランプ米大統領と会ったとしても得られる具体的利益は少ない」と分析した。さらにトランプ氏にとっての主要関心対象は「プーチン大統領と中国の習近平国家主席だ」と述べた。

加えて、北朝鮮がロシアのウクライナ侵攻を支持した際、外交官の間では「中立を守るべき」との意見が出ていたにもかかわらず、政権はロシア支持を公式に打ち出し、「金総書記はおかしくなったのではないか」と衝撃が走ったという。李氏は、中国・ロシア・北朝鮮による反米的結びつきについて、「金総書記に同盟を率いる力はないが、地政学的利害が一致すれば、それぞれの役割を分担して同盟以上の脅威になる恐れがある」と警鐘を鳴らした。

一方で、北朝鮮内部では外部情報への接触が広がり、人々の意識にも徐々に変化が起きていると指摘。「人々の虚脱感は強まっているが、変化の芽は生まれている」とも語った。現在、韓国政府の民主的平和統一諮問会議メンバーとして活動する李氏は、「真実を伝えることが自分の使命だ。より多くの人々に北朝鮮の現実を伝えたい」と締めくくった。

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