トップ ニュース 高市早苗首相、「台湾有事は日本有事」発言で波紋 安倍晋三氏の遺志を継ぎ「戦略的曖昧さ」転換へ
高市早苗首相、「台湾有事は日本有事」発言で波紋 安倍晋三氏の遺志を継ぎ「戦略的曖昧さ」転換へ 2025年10月28日、トランプ氏と高市早苗氏が米海軍空母「ジョージ・ワシントン」上で並び立つ。(AP通信)
日本の新首相・高市早苗氏は7日、国会の予算委員会で立憲民主党の岡田克也議員の質問に答える形で、「台湾が攻撃を受けた場合、日本が『存立危機事態』に陥る可能性は極めて高い」と述べた。日本政府の首相として初めて、台湾有事が集団的自衛権の発動を含む可能性に言及した形だ。
『日経アジア』 は9日付で「日本政府が長年維持してきた対台湾政策の『戦略的曖昧さ』を覆す発言だ」と報じている。
高市氏の発言は、単なる外交上の修辞の強化にとどまらず、日本政府の姿勢転換を象徴するものとなった。これまで「台湾有事は日本有事」との言葉は、主に自民党内の一部政治家が非公式に使ってきた表現だった。2021年7月、麻生太郎氏(当時副首相兼財務相)が「台湾に重大な危機が起きれば、日本の存立も危うくなる」と述べ、同年12月には安倍晋三元首相が台湾のシンクタンクで「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と強調した。だが、これらはいずれも個人の見解にとどまり、政府の公式見解ではなかった。
今回、立憲民主党の岡田克也議員が「どのような条件下で日本政府は台湾有事を存立危機事態と判断するのか」と問い質したのに対し、高市首相は従来の「総合的に判断する」という曖昧な答弁を避け、具体的なシナリオを提示した。「台湾が攻撃を受け、中国軍艦が島を封鎖し、米軍が台湾防衛のため出動した際、中国が米軍を攻撃すれば、それは存立危機事態に該当する可能性がある」と明言したのである。
国会で示した想定:米軍支援に中国が攻撃した場合 今回、立憲民主党の岡田克也議員が「どのような条件下で日本政府は台湾有事を存立危機事態と判断するのか」と問い質したのに対し、高市首相は従来の「総合的に判断する」という曖昧な答弁を避け、具体的なシナリオを提示した。「台湾が攻撃を受け、中国軍艦が島を封鎖し、米軍が台湾防衛のため出動した際、中国が米軍を攻撃すれば、それは存立危機事態に該当する可能性がある」と明言したのである。
さらに高市氏は、自衛権発動の基準についても踏み込み、「単に民間船が並び航行が妨げられる程度では該当しないが、無人機が飛び交うような実質的な『戦時封鎖』となれば、他の要素とあわせて検討対象となる」と述べた。こうした発言は、政府内部で既に詳細な軍事シミュレーションが進められている可能性を示唆している。
「存立危機事態」とは 自衛隊の行動を可能にする法的根拠 高市首相の発言の核心にある「存立危機事態」は、2015年に安倍晋三政権下で成立した「平和安全法制」(通称・新安保法)に基づく概念で、日本が「限定的な集団的自衛権」を行使できる法的根拠となる。この法律の施行以前、日本の安全保障政策は憲法9条の下で「専守防衛」に厳しく制限されており、自衛隊は自国が直接攻撃された場合にのみ武力行使が可能だった。
新安保法はこうした制約を緩和し、次の三つの条件が同時に満たされた場合に政府が「存立危機事態」を宣言できると定めている。
*その結果、日本の存立が脅かされ、国民の生命や自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合
*他に適切な手段がなく、武力行使が「必要最小限度」にとどまる場合
この「存立危機事態」が宣言されれば、日本が直接攻撃を受けていなくても、自衛隊は同盟国の支援や護衛などの軍事行動を行うことが可能となる。高市首相が今回明確にしたのは、「台湾有事」をこの法的枠組みの最も深刻な事態に結びつけ、日本としての対応方針を公式に位置づけたという点だ。
安倍の「スローガン」から高市の「国策」へ 台湾の安全を日本の安全と結びつける考え方は、これまでも麻生太郎氏や安倍晋三氏が示してきた。ただし、安倍氏が発言した当時は現職ではなく、しばしば長老の「私見」と受け止められてきたのも事実だ。他方、石破茂氏は今年7月、朝鮮半島や台湾周辺の情勢をめぐり、適切なシミュレーションがなければ日米・日韓の安保協力や抑止は機能しないと強調したが、踏み込んだのは「備え」の要請まで。岸田文雄前首相も国会で同趣旨を問われた際には「一概に言えない」との定型答弁で、最大限の戦略的柔軟性を保った。
こうした慎重姿勢の背景には、戦後日本を規定してきた「吉田主義」――経済優先・軽武装・対米安保依存――がある。だが、高市早苗氏の7日の発言は、日本が「吉田主義」から「安倍主義」へと舵を切りつつある兆しとも映る。地理的条件と中国の軍事的圧力が、その転換を後押ししている面は否めない。台湾と日本最西端の与那国島の距離は約110キロ。台湾海峡で有事となれば、難民の流入リスクに加え、沖縄など在日米軍基地が中国軍の標的となる可能性が高い。安全保障の専門家は、自国への攻撃が及ぶ「前」に自衛隊の行動を想定する各種シナリオの検討を重ねてきた。
これまで「台湾有事」の議論は、シンクタンクのクローズドな会合や防衛省の非公開資料にとどまることが多かった。高市氏は今回、その“象”を国会の場に引き出し、国内外に直視せざるを得ない課題として提示した格好だ。もっとも、首相の“直球”は与野党の広いスペクトルから反発を招き、政権内にも波紋を広げている。
「象」を議場に持ち込んだ余波 日本共産党の山添拓政策委員長はSNSで、「台湾有事を差し迫ったものとして描き、直接攻撃を受けずとも武力行使を辞さない姿勢は、憲法を踏みにじり緊張を高める」と厳しく批判した。
注目を集めたのは小泉進次郎防衛相の発言である。予算委終了後、国会で具体的想定を論じる手法に懸念を示し、「特定の状況に対する特定の反応を示せば、手の内を明かすことになる。日本への攻撃を容易にしかねない」と指摘。「シナリオ別の対応を事前に固定するのは、自身の考え方とは根本的に異なる」と述べたうえで、岡田氏の質問の切り口にも同調しない姿勢を示し、「対応の柔軟性を維持すべきだ」と強調した。
防衛相が首相と安全保障の根幹で見解を異にする旨を公然と示すのは極めて異例だ。今回の一連の発言は、高市内閣の安保政策に足並みの乱れがある可能性を示すとともに、日本の政策コミュニティ内に「明確化」と「戦略的曖昧さ」をめぐる深い溝が存在することを浮き彫りにした。
タカ派路線は抑止か刺激か 自民党内でも評価は割れている。安保調査会長で元防衛相の小野寺五典氏は「歴代政府答弁の範囲内」と擁護し、台湾有事への言及は「日本周辺の安保環境の厳しさを示すもの」と指摘。「秩序を乱す意図を持つ国に厳しい警戒メッセージを送ることは、抑止の観点からも重要だ」と述べた。
これは、相手の誤算を避けるため明確なレッドラインを示し、侵攻のコストとリスクを引き上げるべきだというタカ派の問題意識を反映する。一方の批判派は、過度な明確化がかえって相手国内の強硬論を刺激し、エスカレーションの引き金になり得ると警戒する。
強硬路線で知られ、安倍氏の理念を最も具体化しうる存在と目される高市首相は、日本の台湾政策を新段階へ押し上げつつある。ただ、NHKは政府が足元で「火消し」に動いているとも伝える。政府の公式立場はあくまで「状況に応じ総合的に判断」であり、官僚答弁の枠組みを維持することで発言の衝撃を和らげ、従来の曖昧路線へ引き戻す狙いもうかがえる。実際、立憲民主党の大串博志議員が高市氏の「存立危機事態」答弁 を追及した際、高市氏は「従来の政府方針と整合的で、撤回の意図はない。今後は特定の状況を具体的に示すことは控え、より慎重に対応する」と述べた。
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