トップ ニュース トランプ政権の「相互関税」構想はどこへ向かうのか 上智大・川瀬教授「米国は世界貿易の15%にすぎない。各国は連携して米国と交渉すべきだ」
トランプ政権の「相互関税」構想はどこへ向かうのか 上智大・川瀬教授「米国は世界貿易の15%にすぎない。各国は連携して米国と交渉すべきだ」 2025年10月28日、日本の高市早苗首相が東京・迎賓館赤坂離宮で米国のドナルド・トランプ大統領と日米首脳会談を行い、署名式に臨んだ。(写真/AP通信)
米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席による米中首脳会談を含め、ASEAN、APEC関連の首脳会議が相次いで閉幕した。しかし、トランプ政権2期目の関税政策は依然として世界経済に大きな混乱をもたらしている。最近、複数の国が米国との交渉で「相互関税」水準を当初の高水準から引き下げることに成功したものの、その条件として米国への大規模投資が求められているのが現状だ。
では、こうした一方的な枠組みに従う以外の選択肢は本当に存在しないのか。WTO(世界貿易機関)を基盤とする国際貿易秩序の行方はどうなるのか。
日本の上智大学法学部で教鞭を執り、経済産業省の元官僚としてWTO交渉を数多く担当した川瀬剛志教授は、先日のオンライン講演で国際メディアに向けて、トランプ政権の「相互関税」構想と国際貿易の未来について見解を示した。講演では、日米の新協定に対する評価、関税政策が国際貿易枠組に与える影響、そして日本が秩序維持と再構築において果たすべき役割まで幅広く語った。
米国のドナルド・トランプ大統領と中国の習近平国家主席が韓国で会談し、およそ100分にわたって協議した。(写真/ホワイトハウス公式サイト)
世界貿易は米国だけで成り立っていない 川瀬教授(経済産業研究所研究員併任)は、10月30日の米中首脳会談を受けて分析を示した。同氏によれば、トランプ政権が進める関税措置はWTOの基本原則に抵触する可能性が高く、「すべての加盟国を公平に扱う」というWTOの根本ルールとも相いれない。また、米国以外の国・地域が世界貿易の約85%を占めている現実からすれば、WTOルールは依然として中国、日本を含む多くの国々にとって不可欠だという。
川瀬教授はさらに、トランプ政権が多くの国と結んだ「二国間合意」は、実質的に多国間機関の役割を奪い、国際貿易秩序を「ルールに基づく仕組み」から「権力に基づく仕組み」へ転換させる危険性があると警告した。その結果、国際貿易の安定性と予測可能性が損なわれ、将来的には米国が協定の履行状況を一方的に判断するような状況になりかねないと述べた。「すべてがトランプ氏の気まぐれな判断に左右されることになる」と言う。
川瀬教授は、こうした動きがWTOの「最恵国待遇」原則を弱体化し、国際貿易における単独行動主義が復活、多国間主義が大きく揺らいでいると強調した。さらに、米国がWTO協定の「国家安全保障の例外」を乱用し、国家安全の範囲を極端に広げている点も問題視した。「輸入キャビネットや洗面台でさえ、安全保障上の脅威と見なされかねない」と揶揄した。
同氏はWTOのイウェアラ事務局長の言葉を引用しつつ、「米国は重要だが、世界貿易に占める割合は15%未満にすぎない」「残り85%以上の国と地域は、ルールに基づく貿易システムの維持と強化を望んでいる」と述べた。
そのうえで、日本は国際貿易の「公正な仲介者」として、多国間合意の形成を主導し、中国の市場化改革(貿易を通じた市場経済への移行)を後押しし、台湾のさらなる経済統合を支え、日韓の歴史問題を乗り越える役割を果たすべきだと提案した。さらに、世界貿易の85%を担う国々が連携する「中堅国連合」の形成を呼びかけ、日本、オーストラリア、カナダ、韓国、ニュージーランド、英国、EUが協力し、米国と集団交渉を行い、貿易関係を正常化させるべきだと主張した。
世界貿易機関(WTO)の事務局長を務めるンゴジ・オコンジョ=イウェアラ氏。(写真/AP通信)
日本の将来戦略は何か 川瀬剛志氏は、日本が「包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)」の一体化深化と拡大を主導し、EUとの連携強化を進めるべきだと指摘した。また、中国が主導する「地域的包括的経済連携協定(RCEP)」に、より多くの国を取り込むべきだとも主張する。さらに、中日韓3か国による自由貿易協定の有効活用も欠かせないと述べた。
特定産業が国際的に注目を集める中で、川瀬氏は、サプライチェーンの強靱性を高める観点から、半導体やレアアースといった重要産業に関する協定の検討が必要だと提言する。日本と中国の貿易関係についても、「自由貿易」と「ルールに基づく貿易」を前提としながら、中国との「戦略的互恵」関係を支持する立場を示した。「日本と志を同じくするパートナーは、貿易における法の支配を回復し、新しい経済安全保障の枠組みを模索すべきだ」と語った。
高市早苗首相がトランプ大統領や習近平国家主席ら主要指導者と会談した後、日本の関税・貿易政策がどう変わるのかについて、川瀬氏は「日中関係は引き続き『互恵』の方向で維持されるだろう」と予想する。共通する戦略的利益に基づき、日本は中国を排除するのではなく、貿易を基盤として関係を前進させるべきだという一方、「安全保障上の理由から、日本が中国との『デカップリング(切り離し)』を避けるのは難しくなるだろう」との見方も示した。
RCEPやCPTPPなど、アジア太平洋地域で重要性を増す経済連携協定の参加国。(写真/弘安提供)
高市早苗首相の貿易戦略をどう捉えるべきか 川瀬氏は高市早苗首相の政治的立場について、対中強硬でありながら、日米同盟を極めて重視する点を指摘する。ただし、より重要なのは貿易政策だという。
前首相の安倍晋三氏は自由貿易を強く推進し、「日本は自由貿易の旗手であるべきだ」という立場を明確に示していた。高市首相は、この安倍路線を継承する姿勢を明らかにしている。
外交面では、川瀬氏によれば、高市氏は自民党総裁選の際に日米貿易協定を厳しく批判したことがある。しかし、首相就任後に訪米した際には、トランプ大統領に対し極めて友好的な態度を示した。このため、今後の国際貿易政策では「米国の意向が強く反映される可能性が高い」と川瀬氏は分析する。「米国が保護主義的な政策を採っていたとしても、高市氏はその意図を強く尊重するだろう」と述べた。
一方で中国に対しては、共通の戦略的利益に基づく互恵関係を築き、TPPなど自由貿易協定の拡大を模索すべきだとする。こうした点は、高市氏が10月24日の施政方針演説で強調した内容とも一致している。ただし、高市氏は中国に対して「慎重かつ警戒的な姿勢」を崩していないとも指摘した。「日本が中国に警戒心を抱いている以上、現政権は安全保障を最優先する」と川瀬氏は述べる。
しかし川瀬氏は、日本が食料や資源の輸入に依存し、世界的な供給網の再編が進む中で、「日米関係を重視するのは当然だが、それと同じか、あるいはそれ以上に重要なのは、世界貿易の85%を占める非米経済圏で自由貿易システムを維持することだ」と強調した。そして、「日本がこの85%の共通体でリーダーシップを早急に発揮することを期待している」と述べた。
2025年10月31日、APEC首脳会議に出席した中国の習近平国家主席と日本の高市早苗首相。(写真/AP通信)
更多新聞請搜尋🔍風傳媒
最新ニュース
高砂部屋の朝稽古を至近距離で アスコットが「相撲文化体感ツアー」を販売開始 The Ascott Limited(アスコット)は、ロイヤリティプログラム「アスコットスターリワーズ(ASR)」メンバー向けに、現地体験型アクティビティの専門予約サイト「ベルトラ」と共同企画した特別体験「ASR × ベルトラ vol.2: Feel the Spirit of Sumo(相撲朝稽古見学ツアー)」の販売を開始したと発表した。予約はベルトラの日......
台湾文化、ドバイで開花:博物館チームが世界舞台で大規模展示 2025年国際博物館協会(ICOM)ドバイ大会が11月11日から17日までドバイ世界貿易センターで盛大に開催され、世界中の博物館専門家が集まり、文化ガバナンス、技術応用、無形文化財の未来について議論を行う。今年、台湾は「文化コンテンツを核心に、技術を言語として」を理念とし、人文の厚みとクロスドメインの想像力を兼ね備えた台湾館を展示し、ドバイで台湾博物館の文化......
「ミャクミャク公式X」が誕生 大阪・関西万博の勢い止まらず、新作動画に「可愛すぎ」の声 『大阪・関西万博』閉幕から1カ月が経過した11月13日、X(旧ツイッター)に公式アカウント「EXPO2025 ミャクミャク【公式】」が新たに開設され、ファンから喜びの声が広がっている。これまで万博グッズ情報を発信していた「2025大阪・関西万博公式ライセンス商品【公式】」が名称を変更し、ヘッダーも一新したもので、閉幕後も続く万博人気を象徴する動きとなった。新......
大谷翔平が史上2人目の3年連続MVP 山本由伸も「オールMLB」選出 米大リーグは13日(日本時間14日)、2025年シーズンのMVPおよび「オールMLB」受賞者を発表し、ドジャースの大谷翔平がナショナル・リーグで満票による3年連続4度目の最優秀選手賞(MVP)を受賞した。大谷のMVPは通算4度目で、バリー・ボンズ(7回)に次ぐ歴代単独2位。満票での受賞は自身3度目となる。発表時には妻の真美子さん、愛犬デコピンとともにリモート......
「台湾有事」発言の波紋 高市早苗首相に反発する中国と動き出した中共艦隊 台湾国防部は、11〜12日の両日とも午前9時の定例発表で「台湾周辺の海空域に中国軍機・艦艇の活動は確認されなかった」と異例の連続発表を行った。筆者が先に、台風26号(フォンウォン)の影響で一時的に動きが止まっていると指摘した通りの状況であり、早ければ13日以降、改めて台湾海峡へ戻ってくるとみられる。日本の新首相・高市早苗氏は11月7日、衆議院で「台湾有事」の......
中国エリートが「弱腰」と評価 習近平氏はトランプ大統領を恐れずと『エコノミスト』報道 北京の内部関係者によれば、中国の最高指導者・習近平氏はトランプ米大統領を恐れておらず、中国エリートの間では「トランプ氏の対中姿勢はむしろ弱腰だ」とみる声が一段と強まっている。『エコノミスト』北京ある分析家は『エコノミスト』に対し、米中首脳会談後の貿易休戦の流れから、トランプ氏が中国に善意を示し、中国を「不可欠な」国として扱っていることが読み取れると証言してい......
大谷翔平、史上2人目「3年連続MVP」 Fanaticsが受賞記念グッズ販売開始 ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手が2025シーズンのナショナル・リーグMVPを受賞したことを受け、世界最大級のデジタルスポーツプラットフォームを展開するFanatics Inc.の日本法人であるファナティクス・ジャパン合同会社は、受賞記念のオフィシャルグッズをMLB公式オンラインショップで販売開始した。大谷選手のMVP受賞は、ロサンゼルス・エンゼルス在......
台湾が欧州との連携を強化、外交に突破口か? 台湾副総統の蕭美琴氏は先日、ベルギーのブリュッセルを訪れ、欧州議会の「対中政策跨国議会連盟(IPAC)」の年次サミットに出席し、特別講演を行ったことが大きな議論を巻き起こしている。ある者は「外交突破」と称し、またある者は「パフォーマンス」と批判する。台湾の政府高官による相次ぐ欧州訪問には、国際経済貿易や安全保障の考慮もあり、民進党政府の外交戦略が過去にアメリ......
頼清徳総統が30年でノーベル賞3人輩出を宣言 日本との「差が開いた100年」に学者が警鐘 台湾総統・頼清徳氏は「2025総統科学賞」授賞式で「333ノーベル計画」の始動を発表し、今後30年間で台湾が物理、化学、医学の3大分野で少なくとも3人のノーベル賞受賞者を輩出するという大志を抱いた。日本が2000年以降22人のノーベル賞受賞者を輩出しているのに対し、台湾は1976年の丁肇中氏(成大卒)、1986年の李遠哲氏(台大卒)以外、約40年間ノーベル賞......
舞台裏》台湾が仕掛けた外交戦 蕭美琴氏を欧州議会に送り込み、中国を翻弄した緻密な作戦 11月7日前後、ベルギー警察のパトカーが先導する黒塗りの車列が、ブリュッセルの欧州議会議事堂へと静かに到着した。車から姿を現したのは欧州議員ではなく、台湾の蕭美琴副総統だった。外交部長の林佳龍氏とともに議事堂へ入ると、場内は大きな拍手に包まれ、出席者の多くが立ち上がった。蕭氏は「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」の年次総会に招かれ、現職の台湾高官とし......
韓国名門「SKY」3大学でAIカンニングが相次ぎ発覚 学生は「使わない方が損」と正当化 適切に使えば効率を大きく高める道具も、濫用すれば一転して「抜け道」になり、投機的な行動を助長しかねない。韓国の高等教育界では最近、生成AIを用いた不正行為が相次いで明らかになり、波紋が広がっている。しかも発覚したのは、韓国で最も権威あるとされる「SKY」3大学――ソウル大学、延世大学、高麗大学だ。中央日報の報道によれば、延世大学と高麗大学の不正疑惑に続き、ソ......
デリー中心部で車爆発 医師の容疑者が「ホワイトカラーテロ」関与か 死者10人超、数十人負傷 インドの首都デリーで10日夜、乗用車の爆発が発生し、少なくとも10人が死亡、数十人が負傷した。警察は自爆テロを行った疑いがあるモハンマド・ウマル(Mohammad Umar)容疑者を特定している。『インディア・トゥデイ(India Today)』によると、ウマル容疑者は医師であり、ハリヤーナー州ファリーダーバード(Faridabad)を拠点とする「ホワイトカ......
ウクライナ軍崩壊の危機 東部撤退要請と脱走兵2万人の衝撃 ロシア軍の侵攻がさらに深まるなか、激しい戦火にさらされているウクライナ東部の要衝「レッドアーミー市」ポクロフスク(Pokrovsk)では、ウクライナの軍事専門家や市民団体から「手遅れになる前に早期撤退を」と政府に公然と呼びかける声が高まっている。英紙「フィナンシャル・タイムズ」(FT)は、ウクライナ国防次官を務めたヴィタリー・デイネガ氏の投稿を引用した。同氏......