台湾で毎年実施される「漢光演習」が8月5日に始まった。今年の演習は10日間9夜にわたり、常備・予備役合わせて約2万人が参加する。「コンピューター支援指揮所演習」「即時戦備演習」「統合防衛演習」などが含まれ、戦備態勢の展開、戦力の防護・温存、統合的な上陸阻止、縦深防御・持久作戦という4段階で構成される。近年では比較的大規模で、実戦に近い演習とされている。
国際的には、中国人民解放軍(中国軍)が大規模な兵力を台湾に上陸させる能力を持つのか、あるいは台湾を封鎖できるのかを巡る議論も続いている。
こうした中、ワシントンの戦略専門家は、台湾と米国は中国を過小評価すべきではなく、1955年に中国軍が行った「一江山島戦役」の水陸両用作戦の経験にも目を向ける必要があると指摘する。また、台湾問題を巡る米中双方の利益は一致しておらず、台湾海峡で戦闘が発生しても、米国が必ずしも介入するとは限らないとの見方を示している。
中国軍の水陸両用作戦能力をどう見るか 米国の政策立案者や戦略専門家の間では従来、中国軍が台湾や周辺の島々に対して大規模な水陸両用上陸作戦を実施する能力があるのかについて懐疑的な見方があり、水陸両用作戦そのものも極めて複雑だと考えられてきた。
これに対し、米シンクタンク「ディフェンス・プライオリティーズ(Defense Priorities)」のアジア担当ディレクター、ライル・ゴールドスタイン(Lyle Goldstein)氏は、中国軍の水陸両用作戦に備える政策を「希望的観測や歴史の誤った解釈の上に築くべきではない」と指摘した。
ゴールドスタイン氏は台湾メディア『風傳媒(ストームメディア)』の電子メール取材に対し、過去1世紀を世界的に見ると、大規模な海上上陸作戦の多くが戦略的な成功を収め、失敗例は少数だったと説明した。
1944年の連合軍によるノルマンディー上陸作戦と比較した場合、中国軍が台湾で被る損失は「より大きくなる」可能性はあるものの、中台間の火力に大きな差があることを考慮すれば、その損失はノルマンディー上陸作戦のD-Dayと同程度となる可能性もあるとの見方を示した。
ゴールドスタイン氏によると、ノルマンディー上陸作戦当日の連合軍の損失は、ドイツ軍と比較して相対的に軽かった。オマハ・ビーチでは激しい戦闘となったものの、D-Day当日の連合軍の戦死者は計4414人で、6月6日にノルマンディーへ上陸した兵士全体の3%未満だったという。
今後、中国軍が台湾への侵攻作戦を行う場合、その規模はノルマンディー上陸作戦と同程度、あるいはそれを上回る可能性が高いとみる。
戦略面について、ゴールドスタイン氏は、台湾の防衛が直面する問題は1944年初頭のドイツ国防軍の将官らが抱えていた問題とよく似ていると分析する。
最大の課題は、台湾が海岸で侵攻部隊を撃退するのか、それともより保守的な縦深防御を採用し、予備兵力によって中国軍の上陸部隊に決定的な反撃を加えるのかという点だという。
また、台湾とノルマンディー上陸作戦を比較した場合、従来の見方とは異なり、その結果が「北京に有利となる可能性がある」とする懸念材料もあるとの見方を示した。
国民党の鄭麗文主席は6月4日、米ワシントンのシンクタンク研究者、ライル・ゴールドスタイン氏(左から2人目)と対談した。(写真/国民党提供)
台湾の海岸線を見て感じたこと ゴールドスタイン氏は『風傳媒(ストームメディア)』に対し、最近台湾を一周した際に見た状況についても語った。
台湾には歴史のある軍事防御施設もあり、その多くは日本統治期に、実際には起きなかった東方からの米軍による攻撃に備えて建設されたものだという。
一方、全体として台湾の海岸線は依然として非軍事化された状態にあると指摘した。
「台湾の海岸線には国立公園やゴルフ場、リゾートホテルが広がり、現在も使用されている防御施設はほとんど見当たらない」「台湾の人々が意識的に、国防よりも生活の質を優先することを選んでいるように見える」と述べた。
このため、中国軍が台湾に上陸する場合、かつてナチス・ドイツがフランスの海岸に配置したような密集した砲火や幾重もの障害に直面することはないとの見方を示した。
「ドイツ軍が大西洋の壁を築いた際、その建設は非常に綿密であり、しかも多くの戦闘経験を持つ優れた指揮官ロンメルが主導していた」と説明した。
沿岸部への地雷敷設については、台湾の防衛に役立つ可能性があるとしながらも、住民が地雷原の中で生活することへの強い反発を懸念し、台湾側が政治的な理由から慎重になる可能性があると分析した。
一方で、「中国は地雷対策を積極的に進めており、地雷が敷設される前にこれを破壊するため全力を尽くすことも明らかだ」と述べた。
また、西側の専門家から、中国軍には実戦経験が不足しているとの指摘が出ていることについて、ゴールドスタイン氏は「ノルマンディー上陸作戦に参加した米軍兵士の多くも、実戦を経験するのは初めてだった」と指摘した。
そのうえで、中国軍が台湾への上陸作戦を行う場合、ノルマンディー上陸作戦当時のドイツ国防軍のような、豊富な経験を持ち効率的に戦う防衛部隊と対峙することにはならない可能性が高いとの見方を示した。
頼清徳総統は8日午前、海軍左営基地を訪れ、「漢光42号」演習の「沿岸打撃・近岸防御」訓練を視察した。(写真/中央社)
1955年「一江山島戦役」が示すもの 最近、中国浙江省台州市にある「一江山島上陸戦記念館」も訪れたゴールドスタイン氏は、中国軍の過去の軍事戦略についても研究している。
ゴールドスタイン氏は、1955年の一江山島戦役前後、中国はまだ核兵器を保有しておらず、一方で米国側には公然とした「核による威嚇」があったと指摘。現在の状況は「大きく異なる」と述べた。
一江山島の守備隊は司令官の王生明将軍の指揮の下、60時間以上にわたって戦闘を続けたが、最終的に弾薬が尽き、外部からの支援も途絶え、全滅した。この戦いはその後の大陳島撤退につながった。
ゴールドスタイン氏は、当時中国が大きな軍事的優位を持ち、核兵器も保有していなかったにもかかわらず、トルーマン、アイゼンハワー両元米大統領が、米国による中国内戦への直接介入に反対していたと指摘した。
一方、現在の中国は核戦力の急速かつ大規模な近代化を進めているという。
「米中間の核戦争へとエスカレートするリスクは、米国の戦略家が台湾海峡情勢で米国がどのような役割を果たすべきかを考える際、特に慎重になるべき最大の理由だ」と述べた。
ゴールドスタイン氏は、一江山島上陸戦記念館で注目した点として、ソ連から導入されたカチューシャ(M-13)132ミリロケット砲だけでなく、中国軍が台湾軍のトーチカを攻撃する際に火炎放射器も使用していたことを挙げた。
中国軍機関紙『解放軍報』の記事を引用し、一江山島戦役では火炎放射器部隊が煙幕の援護を受けながらトーチカに近づき、歩兵も火炎による援護を受けて目標へ接近したと説明した。
ゴールドスタイン氏は、中国軍の水陸両用作戦を考える上では、新旧技術が併用されていた点も重要だとみる。
「1950年代には火炎放射器は中国軍にとってまだ新しい技術だったが、当時すでに地元の漁船を広く利用し、物資の補給以外にも活用していた。したがって、ソ連製のロケット砲を火力支援艇に搭載することも難しくなかった」と述べた。
中国人民解放軍は東山島周辺などの海域で実弾演習を実施したことがある。(写真/中国軍網)
台湾上陸作戦を左右するその他の要因 ゴールドスタイン氏によると、米国の戦略家はしばしば「台湾要塞」という考え方を挙げ、台湾の険しい山岳地形が中国軍の侵攻を阻むとみている。
これに対し、ゴールドスタイン氏は「確かに台湾には険しい山々が数多くあるが、それらは西側ではなく東側に広がっており、中国軍の侵攻に対する防御にはほとんど役立たない」と述べた。
また、一江山島戦役の経験や研究を踏まえ、中国軍は今後、統合訓練をさらに強化する必要があるとの見方を示した。
中国軍が台湾に軍事行動を取る場合には、長距離ロケット砲を使用し、台湾海峡を挟んだ目標に高密度の火力を集中させるなど、一江山島戦役と類似した戦術を採用するとみている。
ゴールドスタイン氏はさらに、現代戦では事前に制空権と制海権を確保することが特に重要だと説明した。
中国は強力な航空作戦能力を補うため、大規模なヘリコプター部隊も整備しているという。
「中国軍の作戦立案者は、D-Dayで航空戦力が決定的な役割を果たしたことをよく理解している。中国のヘリコプターは、連合軍がノルマンディー上陸作戦で広く使用した危険性の高いグライダーより、安全で効果的である可能性が高い」と述べた。
衛星、精密誘導兵器も中国側の能力を支える要素に ゴールドスタイン氏は米ブラウン大学の中国研究プロジェクトを率い、米海軍大学校で20年間教鞭を執った経歴を持つ。中国語とロシア語の双方に精通する、米国では数少ない軍事研究者の一人でもある。
最近は米海軍協会の機関誌『USNI Proceedings』に3本の記事を相次いで発表し、主に米国のアジア戦略を中心とした大局的な戦略問題を論じている。
そのうちの一つではノルマンディー上陸作戦から台湾への警告 を論じ、別の記事では中国軍による一江山島戦役 をケーススタディーとして現在の中台情勢を分析した。
ゴールドスタイン氏は、中国が台湾への侵攻作戦を行う場合、情報能力の向上も中国側に有利に働くと指摘する。
中国が持つ大規模な軍事衛星ネットワークに加え、上陸候補となる海岸やその他の高価値目標をさまざまな角度から確認できる詳細なオープンソース画像も活用できるという。
さらに、精密誘導兵器の発達も中国側にとって有利な要素になるとの見方を示した。大量の滑空爆弾、超音速・極超音速ミサイル、「神風特攻隊」式の無人機などを挙げた。
米国は台湾海峡有事に介入するのか 西側の専門家の間では、中国軍が台湾への全面侵攻よりも、封鎖を選択する可能性の方が高いとの見方もある。
しかし、ゴールドスタイン氏は、台湾問題を巡る米国と中国の利益は一致していないと指摘する。
2025年の米議会公聴会で米国防総省高官が述べた内容を引用し、「台湾危機」は米国にとって「死活問題」ではないと説明した。
ゴールドスタイン氏によると、米中のいわゆる「熱意のバランス」の差は、米国が国家資源を動員し、極端な武力を投入する能力にも影響する。
「北京は自らの裏庭で大規模な武力を行使できるため、地政学上の大きな優位性を持つ。一方、ワシントンは地球の反対側まで戦力を投射しなければならない」と述べた。