中国の急速な軍備拡張、インド太平洋における米国優位揺るがす 豪シンクタンクの最新報告 中国の最新鋭空母「福建」の甲板に駐機する「殲15T(J-15T)」と「殲35(J-35)」の両戦闘機。(AP通信)
近年、中国人民解放軍(以下、中国軍)は近代化を推進し続けており、その増強される軍事力が 台湾や米国、米国の同盟国に警戒感を抱かせている。豪シンクタンクは最近発表した報告書で、2035年にかけての中国の軍事力増強はこれまでの常識を覆すと指摘。今後数十年にわたり、インド太平洋地域の安全保障に最も大きな影響を与える存在は、間違いなく中国軍になると結論づけている。
中国の造船能力は米国の200倍以上 豪シンクタンク「ローウィー研究所(Lowy Institute)」はこのほど、「オーストラリアに対する中国の軍事的脅威を理解する」と題した報告書 を発表し、インド太平洋地域において増大する中国軍の軍事力、規模、およびその形態について評価を行った。その結果、中国の軍事拡張がすでに同地域における米国の軍事的優位性を切り崩し、台湾への脅威を増大させていることが明らかになった。さらに、周辺国に構造的な圧力を与え、中国政府の意向に沿うよう迫る状況を作り出していると指摘する。
同報告書によると、中国 軍は現在、世界最多の艦艇を保有しており、総トン数でも世界第2位の海軍となっている。さらに重要な点として、中国の造船能力は米国の200倍以上に達しているという。また、中国は現在、重爆撃機を生産できる世界で唯一の国であるほか、2機種の第5世代戦闘機を生産し、かつ2機種の第6世代戦闘機の飛行試験を行っている世界唯一の国でもある。同報告書は「2035年までに中国の核兵器の保有規模は3倍に拡大する」と予測している。
報告書は、中国の軍事近代化が主に4つの分野に集中していると分析している。第一に台湾侵攻に必要な戦力の開発、第二に米国主導の台湾支援行動を抑止または頓挫させるための「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」能力の構築、第三に東シナ海および南シナ海における中国の権益維持、そして第四に空爆やミサイル攻撃から自国領土を防衛する能力だ。最優先事項ではないものの、ミサイルや航空機、艦艇を利用した長距離の戦力投射能力も強化されており、その射程の多くはオーストラリアにまで到達する可能性があると警鐘を鳴らしている。
台湾海峡防衛における長年の重要課題の一つは、中国軍による水陸両用作戦での台湾上陸を防ぐことにある。写真は台湾(中華民国)海兵隊の上陸演習。(中華民国海軍公式サイトより)
大幅に増加する中国の防衛費 報告書によると、軍事専門家の間では、中国軍近代化の起点は1991年にあるとの見方が一般的だという。当時、米軍は圧倒的かつ効率的な攻撃により、イラクのフセイン大統領(当時)が指揮する 軍隊をクウェートから駆逐した。「この出来事は中国政府に警鐘を鳴らし、自国軍の整備の遅れを痛感させた」としている。その5年後、米国は台湾総統選挙を武力で支援し、中国をけん制するため台湾海峡へ空母を派遣し、自国の軍事力が米国に遠く及ばないという現実を中国に改めて突きつけた。
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その後、欧米の専門家の間では、中国軍の近代化に向けた予算規模の推計に大きなばらつきが生じている。1990年代初頭以降、中国の防衛費は約110億ドルから名目上2310億ドルへと増加したが、報告書の推計によれば、実質的な金額は5407億ドルに上っている可能性があるという。この水準を基準とした場合、2035年には中国の国防費は約9774億ドルに膨れ上がると予測される。
この金額は依然として現在の米国の防衛費を下回るものの、中国が米国との格差縮小に本腰を入れていることを示していると報告書は指摘する。さらに、複合的な経済・産業的要因により、中国の軍事投資に対する費用対効果は米国を上回る可能性がある。「中国は米国の軍事モデルを完全に複製するつもりはないが、手本としていることは確かだ。米国が中国を『増大する脅威(Pacing threat)』と見なしているとすれば、中国 軍もまた、米軍を自らの進歩を測るベンチマークと位置づけている可能性が高い」と分析している。
中国海軍は7月6日正午、戦略原子力潜水艦から太平洋の公海に向け、模擬弾頭を搭載した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)発射に成功した。写真はミサイルが水面から飛び出す瞬間。(新華社)
中国 軍の実際の戦力は報告書は、学術誌『インターナショナル・セキュリティ(International Security)』に2025年に発表された論文を引用し、仮に台湾有事が勃発した場合、中国 軍の攻撃により、最初の30日間で北東アジアにおける米国の航空戦力の少なくとも45%が破壊されるとの結論を導き出している。
さらに、中国は2025年末に 3隻目となる空母「福建」を就役させており、原子力空母1隻も現在建造中だ。報告書は、中国 軍の既存空母の航空作戦能力は目を見張るものがあり、戦闘艦としての運用能力が継続的に向上している事実を示していると分析。統計によると、2025年に中国の空母艦隊が第二列島線(伊豆諸島~小笠原諸島~グアム・サイパン~パプアニューギニア) で活動した日数は58日間に達し、前年の32日間から増加。また、米国防総省が2025年に発表した中国軍に関する報告書を基に、中国軍は2035年までに空母を新たに6隻追加し、9隻体制に拡大することを目指しており、「これらの戦力すべてが、中国の艦隊に強力な近海展開能力を付与することになる」と指摘している。
報告書はまた、中国 軍の日々増大する影響力と能力が、すでに米国の軍事的優位性を揺るがし、台湾への脅威を著しく高めていると指摘。さらに軍備拡張に加え、中国の 南シナ海における 人工島建設は、同国をこの地域で支配的な勢力へと押し上げ、結果として地域的な軍拡競争を引き起こしているとし、「パワーバランスの変化に伴い、周辺国は中国の意向に迎合せざるを得ないという、ますます大きな圧力に直面している」と論じている。
同報告書は、将来的に中国に対する主要な抑止力となるのは、米国の「拡大抑止(Extended Deterrence)」の信頼性と、米国主導の安全保障枠組みの結束力だと予測。その上で、中国の軍備拡張はまさに、この2つの要素を弱体化させることを意図したものだと結論づけている。
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