【北京観察】中国、戦略原潜から潜水艦発射型ミサイルを初公開 抗戦記憶から核抑止外交へ 2018年4月12日、中国の094型改良型戦略原潜が南シナ海で演習に参加した。(写真/AP通信)
盧溝橋事件、いわゆる「七七事変」から89年を迎えた7月7日、中国政府は今年も「全民族抗戦の精神」を大々的に宣伝した。しかし、その前日、中国人民解放軍はより大きな戦略的意味を持つ軍事行動を実施していた。弾道ミサイル搭載原子力潜水艦、いわゆる戦略原潜から、太平洋に向けて潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を試射したのである。
中国政府が戦略原潜からのSLBM発射を公式に認めたのは今回が初めてとされる。日本、オーストラリア、ニュージーランド、米国などは相次いで懸念を表明し、インド太平洋地域の安全保障環境を一段と緊張させる可能性があると指摘している。
中国政府は今回の発射について、模擬弾頭を搭載した「年度計画に基づく通常の軍事訓練」だと説明した。ミサイルは予定された海域に正確に着弾し、関係国には事前に通報していたとして、外部に対し「過度な解釈」を避けるよう求めている。
しかし、2024年にロケット軍が太平洋に向けて大陸間弾道ミサイル(ICBM)を試射した時と比べ、今回は戦略原潜からの発射である点が大きく異なる。中国の海基核抑止力が成熟に近づきつつあることを示すと同時に、北京が地域諸国や米国に対し、「第2撃能力」、すなわち報復核攻撃能力を示す狙いがあったとみられる。
海基核抑止力を初公開 中国が発したシグナルとは 今回の発射に用いられたのは、中国海軍の094型「晋」級戦略原潜とみられる。同艦は潜水艦発射弾道ミサイル「巨浪3(JL-3)」を搭載しており、その射程は1万キロを超えるとされる。理論上、中国近海から米国本土を射程に収めることができ、中国の海基核抑止力を大きく引き上げる兵器と位置づけられている。
地上発射型ミサイルは衛星などによる監視を受けやすい。一方、戦略原潜の最大の戦略的価値は隠密性にある。安定した戦略哨戒能力を確立すれば、自国が第一撃を受けた場合でも報復攻撃が可能となる。これは現代の核抑止体制における中核的な要素である。
中国人民解放軍海軍は7月6日昼、戦略原潜から太平洋の公海に向け、訓練用の模擬弾頭を搭載した潜水艦発射弾道ミサイル1発の発射に成功した。写真は、ミサイルが海面から浮上した瞬間。(写真/新華社)
米国防総省の2025年版「中国の軍事力に関する年次報告書」によると、JL-3の射程は中国近海から米国本土を射程に収めるのに十分だという。中国が太平洋の公海に向けた長距離弾道ミサイル発射を公式に認めたのは今回が2回目で、前回は2024年9月、海南島から発射された大陸間弾道ミサイル「東風31B(DF-31B)」だった。
日米豪NZが懸念 透明性不足に警戒 北京は今回の試射が国際法に合致していると強調している。しかし、オーストラリア、日本、ニュージーランドはいずれも、こうした試射は透明性を欠き、地域の誤算リスクを高める可能性があると懸念を示した。
オーストラリア政府は、中国が近年、核戦力を急速に拡張していることに触れ、今回の発射は通常訓練というより、地域の安全保障環境に向けた政治的な示威行動だと批判した。日本も外交ルートを通じて北京に重大な懸念を伝え、地域の戦略的均衡に影響を及ぼし得る軍事活動については、より高い透明性が必要だとの立場を示した。
ニュージーランドのウィンストン・ピーターズ外相は、中国側からの通報がウェリントンに届いたのは発射のわずか数時間前だったと明らかにした。さらに、ミサイルが1986年のラロトンガ条約で定められた南太平洋非核地帯に落下したとして、中国が1987年に批准した関連議定書の趣旨に反すると懸念を示した。
ピーターズ氏は今回の試射について「望ましくなく、懸念すべき事態の進展」だと述べ、太平洋諸国は中国が南太平洋を「ミサイル能力の実験場」として利用することを望んでいないと強調した。
北大西洋条約機構(NATO)のマルク・ルッテ事務総長も、アンカラで開かれたNATO首脳会議で間接的に言及し、インド太平洋と大西洋の安全保障は相互に結びついていると強調した。その上で、中国に対して「甘い幻想」を抱くべきではないと警告した。
台湾総統府の郭雅慧報道官も、今回の試射は中国が国際社会を威嚇しようとする行為だとして、台湾政府として厳しく非難すると表明した。
2026年7月3日、中国共産党中央軍事委員会の習近平主席が、新たに上将に昇進した張曙光氏(左上)と王剛氏(右上)と記念撮影に臨んだ。前列右側は中央軍事委員会副主席の張昇民氏。(写真/AP通信)
米国、核弾頭搭載能力に言及 米国務省の報道官は、米側が今回の試射を監視していたことを明らかにし、同ミサイルが核弾頭を搭載可能であると指摘した。米国は中国に対し、これまでの約束を守り、ICBM発射に関する恒常的な通報制度を確立するよう求めている。
米側はまた、中国の行動は核不拡散の流れに逆行すると批判した。米国家安全保障会議(NSC)で中国担当上級部長を務めたデニス・ワイルダー氏は、中国がこれまで戦略原潜から南太平洋へ弾道ミサイルを発射した前例はないとして、今回の試射を「重大な事態の進展」と位置づけた。
米NGO「核脅威イニシアチブ(NTI)」の推計によれば、中国は現在、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦6隻と攻撃型原子力潜水艦59隻を保有している。米国防総省の年次報告書は、中国の核弾頭保有数がすでに約600発に達し、2030年までに1000発を超える可能性があると指摘している。
中国SNSでは「米国にあるなら中国にも必要」 国際社会の懸念とは対照的に、中国のSNS上では強いナショナリズムを帯びた反応が目立つ。微博(ウェイボー)、抖音(ドウイン)、知乎(Zhihu)などでは、「中国はついに最後の弱点を補った」「強力な戦略原潜がなければ、真の大国とは言えない」「平和は叫んで得るものではなく、実力で守るものだ」といったコメントが相次いだ。
軍事系の個人メディアの中には、今回の試射を「中国が世界規模の核反撃能力を本格的に備えた重要な節目」と位置づけ、米国やロシアの海基核戦力と並べて論じるものもある。
一方で、中国では近年の軍事費増加や経済回復の遅れを背景に、軍事競争を過度に強調すれば、対中包囲網や技術規制をさらに招く恐れがあるとの見方も出ている。
「七七事変」から89年 変化する歴史記憶 注目されるのは、今年の7月7日が盧溝橋事件から89年にあたることだ。中国政府は長年、同事件の記念日に合わせて「歴史を心に刻み、平和を大切にする」と強調し、抗日戦争を中華民族復興の重要な起点として位置づけてきた。
しかし、ここ10年ほどで公式の語り口には変化も見える。抗日戦争の歴史を振り返るだけでなく、「強軍の夢」「科学技術による強軍」「世界一流の軍隊の建設」といった表現が、公式行事や宣伝の重要なテーマとして前面に出るようになった。
中国大陸で行われた「9・3」軍事パレードで、習近平氏が車両に乗って部隊を閲兵した。(写真/中国中央テレビより)
抗日戦争の記憶は、もはや侵略被害の記憶にとどまらない。「民族復興」や「国家安全」という、より大きな政治的文脈の中に組み込まれつつある。
今回の戦略原潜による公開試射が盧溝橋事件の前日に行われたことは、北京による歴史記憶の使い方が、かつての「被害者としての語り」から、「強国の台頭」を示す政治的象徴へと広がっていることを外部に意識させる出来事となった。
核抑止が中国外交の新たな「言語」に 2024年のICBMによる太平洋越えの試射から、2026年の戦略原潜による初の公開発射まで、中国はこの2年で、かつて高度な機密とされてきた戦略核戦力を、対外的に見える政治的シグナルへと変えつつある。
中国にとって、これは軍事近代化の成果を示す機会であり、米国やインド太平洋地域の同盟国に対し、自国がより完全な核抑止力を備えていると示す狙いがある。
しかし周辺国から見れば、透明性の不足、急速な軍備拡張、そして軍事力の誇示が常態化しつつある現状は、相互の戦略的不信をさらに深める要因となりかねない。
今回の試射は、中国が2024年にICBM試射を公開してから2年もたたないうちに行われた。北京は、過去数十年にわたって戦略核戦力の公開を極力避けてきた慣例を、徐々に打破しつつある。
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