台湾・前民進党主席許信良氏が語る両岸の知られざる内幕 習近平氏は10年前に蔡英文氏との会談を希望、中国は民主化へ向かうか

2025-11-21 16:44
許信良氏は19日、新著『天命:台湾民主運動者・許信良の一生見証』の出版発表会で、「蔡習会」が実現しなかった舞台裏を語った。(写真/顏麟宇撮影)
許信良氏は19日、新著『天命:台湾民主運動者・許信良の一生見証』の出版発表会で、「蔡習会」が実現しなかった舞台裏を語った。(写真/顏麟宇撮影)
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台湾・前民進党主席の許信良氏は19日、新著『天命:台湾民主運動者・許信良の一生見証』の発表会を開いた。会場では、前民進党立法委員の林濁水氏が、2015年に馬英九氏と中国の習近平氏が会談した際、習氏の狙いは当時民進党を率いていた蔡英文氏との面会に向けた布石だったと述べ、許氏もこの見方に賛同した。さらに許氏は、2016年に蔡氏からアジア太平洋平和基金会の会長に招かれた際、自らも「蔡習会」の実現に向け尽力していたと明かした。

中国には強い民主の伝統がある

発表会で許氏は、中国の民主化を「不可能」とみなす風潮に疑問を呈した。台湾の民主化もかつては信じられておらず、現代では「中国のテクノロジーが個人統制を強化している」と言われがちだが、歴史から見れば統制の強さは体制の安定を保証しないと説明した。

その例として、強大な統制を敷いた秦始皇の体制がわずか15年で崩壊したことを挙げ、どれほど統制が強くても一朝にして崩れることはあり得ると述べた。

許氏は、今日の中国のテクノロジーは確かに政権の管理能力を高めるが、市民同士の連携を促す力にもなると指摘。今年85歳になる自身が「中国の民主化を必ず目にできる」と確信していると語った。

2015年馬習会、馬英九、習近平。(林瑞慶撮影)
許信良氏は、2015年の「馬習会」は、習近平氏が当時の民進党主席・蔡英文氏との会談に向けた布石だったとの見方を示している。(写真/林瑞慶撮影)

さらに許氏は、中国には清朝末期以降、孫文の革命から共産党革命に至るまで改革運動が途切れることなく続いてきたと説明。五四運動の教訓からも、改革には「科学」と「民主」の強化が必要であり、現代の中国は建設技術やインフラ整備で多くの国を上回っていると指摘した。

しかし一方で、中国の民主状況は「満清時代より悪化している」と述べ、この100〜200年にわたる知識人の努力は無駄ではないと強調。海外からの帰国者が多い中で、中国が外の世界を理解できないはずがなく、世界的な民主化の潮流は確実に中国を揺さぶっていると述べ、「中国が突然変化することは決して幻想ではない」と語った。

中国の民主化は全国人民代表大会の直接選挙から始められる

許氏は、中国共産党が民主化を完全に拒絶しているわけではないと説明。胡錦濤政権期には中国社会科学院が台湾を訪れ、台湾の民主化経験を取材したエピソードを紹介した。その際、自身は「民主主義はそれほど複雑ではなく、全国人民代表大会を国会と位置づけ、直接選挙を導入すればそれだけで民主だ」と伝えたという。

また、民主化は共産党にとっても利益があると述べた。台湾が民主化した後、国民党は政権を失った後も存続しており、再び政権を担った時期もある。非民主的な体制で政権交代が起きれば政党が消滅しかねない一方、民主制度があれば政権交代後も党は存続できると説明し、「腐敗防止も民主の方が効果がある」と述べた。

許氏は、共産党はシンガポールに倣えると指摘。人民行動党が選挙を経ても政権を維持しているように、共産党も成果を示せば政権を続けられると語った。そのため、中国は台湾のように総統を直接選ぶ必要はなく、まず全国人民代表大会を直接選挙とし、その他の制度は維持すればよいと提案した。ただし「永遠の政権維持は期待できない。成果を出せなければ政権を降りるのは当然だ」とも付け加えた。

許氏は最後に、「中国が民主化の道を歩むことは決して想像できない話ではなく、我々がその過程を見届けることができる」と述べた。

20251014-前総統蔡英文(中)、玉山金控董事長黄男州(右)、玉山金控創立者黄永仁(左)14日出席玉山金控ESG永続推進活動。(柯承惠撮影)
許信良氏によれば、蔡英文氏が2016年、自身をアジア太平洋平和基金会の董事長に招いたのは、「蔡習会」実現を後押しする狙いがあったという。(写真/柯承惠撮影)

習近平氏は10年前、蔡英文氏との会談を望んでいた

同じ会場で林濁水氏は、2015年に習近平氏と馬英九氏の「馬習会」が報じられた際、習氏の真意は蔡英文氏との会談準備にあったと判断していたと述べ、それに同調したのは当時、林氏と許氏の二人だけだったと明かした。許氏もその場で改めて同意を示した。

さらに許氏は、本日出版社がメディアに提供した情報の中で、2016年に蔡英文氏からアジア太平洋平和基金会会長に招かれ、「蔡習会」実現に取り組んだものの、最終的に実現しなかったと説明。それによって「両岸関係の仲介は自分の天命ではない」と確信したと述べた。

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編集:田中佳奈

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