フィリピンの裁判所はこのほど、国籍を偽造したとされる元市長アリス・グオ(Alice Guo/郭華萍)被告について、詐欺拠点の運営や数百人の被害者に対する強制労働、違法な人身売買への関与を認定し、終身刑を言い渡した。さらに、200万ペソ(約530万円)の罰金支払いも命じられた。グオ被告本人はすべての容疑を否認している。
特に、フィリピン国内メディアだけでなく海外読者の多くが彼女に抱く強烈な印象は、「偽造身分」「出自の矛盾」「国籍疑惑」だ。フィリピン議会議員は、彼女はフィリピン生まれではなく、10代の頃に中国から移住してきたと指摘。指紋照合の結果も、中国籍「郭華萍(Guo Hua Ping)」と一致したという。
Alice Guo, once a small-town mayor and rising political star in the Philippines, could face decades in prison if convicted on charges of money laundering.
— Bloomberg Originals (@bbgoriginals)November 19, 2025
Authorities allege she was involved in offshore gambling operations tied to organized crime. She’s pleaded not guilty.…pic.twitter.com/WDVUJmJA4A
検察のオリビア・トレヴィラス(Olivia Torrevillas)氏は、郭華萍被告と7名の共犯全員に無期懲役を宣告したと明らかにした。ただし守秘規定により、郭被告以外の名前は公表されていない。
スパイか、詐欺拠点の「影の総裁」か?
英紙『ガーディアン』によれば、事の発端は2024年3月。1人のベトナム人労働者が施設から逃げ出し、警察に助けを求めたことだった。タルラック州バンバン市(Bamban)警察は急襲を実施し、巨大な違法拠点を発見した。表向きは離岸ゲーミング(POGO)の施設として登録されていたが、実態は中国資本主導の詐欺拠点であった。
急襲で救出された被害者は700人以上に上り、国籍は多岐にわたった。フィリピン人、中国人、台湾人、ベトナム、マレーシア、インドネシア、さらにはアフリカのルワンダ出身者まで含まれていた。多くの人は「恋愛詐欺(いわゆる『豚殺し』スキーム)」などの手口を強制され、ノルマ未達成の場合は殴打、絶食、電撃、監禁などの虐待を受けたと証言している。
検察が捜査を拡大する中、2022年にバンバン市長に当選していた郭華萍被告が、詐欺拠点が存在する自治体の首長であることから疑惑の目を向けられた。地方では高評価を得ていたものの、検察はその身分に疑念を抱き、指紋照合を進めた結果、中国籍の「郭華萍」と判明。選挙時に公表していた身元と完全に一致せず、最終的に彼女は市長資格を剝奪された。

免職後は失踪、そして国外逃亡 3カ月の追跡で逮捕
市長を免職された後、郭被告は姿を消し、密航ルートを使って国外へ逃亡。これを受け、フィリピン・インドネシア・マレーシア・シンガポールが共同捜査網を敷いた。約3カ月の逃亡の末、彼女はインドネシアで逮捕され、フィリピンへ送還された。
その後の捜査で、郭被告が詐欺拠点運営企業の「総裁」を務めていた記録が見つかった。さらに、拠点内にある36棟の建物の土地所有情報が、彼女の過去の資産申告と一致していたことから、詐欺拠点との関連性が決定的になった。
フィリピン、国を挙げて詐欺組織を一掃へ
2024年のバンバン詐欺拠点事件が発覚した後、国内では怒りが爆発し、世論調査でも「POGO拠点の全面排除」を求める声が急増した。これを受け、小マルコス(Ferdinand Marcos Jr.)大統領は2024年、離岸カジノ事業を全面禁止し、すべての外国人従業員に退去を命令。産業構造そのものを断ち切る強硬策に踏み切った。


POGOはドゥテルテ政権時代に急成長し、政府が相次いで許可証を発給した結果、博弈産業だけでなく、詐欺組織の拠点も大量にフィリピンへ流れ込む結果となった。国連(UN)の報告では、2023年に東南アジア全体の詐欺被害額は370億ドル(約1.16兆台湾ドル)に達しており、実際の被害はもっと大きい可能性が高いとされる。
郭華萍(Alice Guo)被告への終身刑判決について、中国駐マニラ大使館は現時点でコメントを出していない。
編集:佐野華美
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