中国共産党の習近平総書記は19日、台湾・国民党の新党主席に当選した鄭麗文(チョン・リイウェン)氏に対して祝電を送った。これに対し、鄭氏も感謝の電報を返し、双方のやり取りが注目を集めている。
今回のやり取りは、北京側が明確に鄭氏の当選を“先読み”していたとも受け取れるタイミングで行われ、これまでの国共(中国共産党と中国国民党)間の慣例を踏襲しつつも、そのスピード感と語調には新たな意味が込められている。
これまでの祝電より「異例に早い」対応 両岸関係に転機の兆し?
時間軸で振り返ると、2016年に洪秀柱氏が党主席に当選した際は、北京の祝電は2日後に届いた。2019年の呉敦義氏の再選では、祝電まで3日を要した。さらに江啓臣氏の在任中は、そもそも共産党から祝電は送られなかった。2021年に朱立倫氏が主席となった際は、祝電が翌日の夕方に発せられた。
これに対し、今回の鄭麗文氏の場合、北京側は当選翌日の正午には祝電を発表。このスピード感は、民進党政権下で8年間冷え込んだ両岸関係が、新たな局面を迎える可能性を示唆している。
習近平の祝電は「速く・率直・柔らか」 戦狼外交からの転換
鄭氏の当選後、北京は再び「九二共識」という政治的基盤を強調した。注目すべきは、新党主席が今後2026年・2028年の選挙で台湾世論をどう取り込むか、そして米国との関係をどう位置づけるかだ。
鄭氏は選挙戦の中で「私は中国人だ」と明言しており、この発言は北京にとって一定の“安心材料”となったとみられる。習氏の祝電文面も、これまでのような強硬な「戦狼」調ではなく、協調と民族の未来を語る穏やかなトーンに変化。「反独促統」(独立反対・統一推進)といった表現を避け、政治的対話を通じて感情的対立を和らげる姿勢をにじませている。
北京は鄭麗文を「対話のパイプ」と見る ただし効果は双方の手腕次第
中国側の見方では、鄭麗文氏が率いる新世代の国民党は「敵でも味方でもない存在」であり、民進党のような明確な親米路線とも異なる。そのため、北京は鄭氏を「今後コミュニケーションが可能な架け橋」と位置づけている。
鄭氏の掲げる両岸政策は、あくまで「後輩が先輩の助言に耳を傾ける」ような柔らかい姿勢を示しており、中国側に「面子を保つ余地」を与えつつ、関係改善の可能性を残している。
もっとも、百年政党としての国民党が、いかにその機会を生かし実績を示せるかが問われる局面でもある。北京の祝電が「融氷の前奏曲」となるか、それとも一過性の政治的演出に終わるのか。その行方は、鄭麗文新主席の手腕と、台湾内部の民意の動きにかかっている。
編集:梅木奈実 (関連記事: 人物》台湾・国民党に波紋――元民進党で台湾独立を掲げた鄭麗文氏、郝龍斌氏を破って新党首に | 関連記事をもっと読む )
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