アメリカのトランプ大統領と中国国家主席の習近平氏は、10月末に韓国の慶州で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の場で「米中首脳会談」を行う予定である。『日経アジア』は10月16日、南カリフォルニア大学政治学・国際関係学教授のデレク・グロスマン氏による「トランプ氏は米中関係リセットに賭けるのか 台湾が取引材料となる恐れ」という論評を掲載し、「米中首脳会談」が危険な取引を招き、「米中関係の全面的なリセット」のために台湾を売り渡す可能性があると指摘した。また、来年初めに北京を訪問する意向があることも示した。
個人の動機が国家利益を優先?習近平氏の思惑通りとなる可能性も
グロスマン氏は、歴代の米政権が中国に対して「アメとムチ」を使い分ける戦略を取ってきたと指摘し、その観点からすればトランプ氏の「接触と対抗」という路線は特例ではないと述べた。
ただし、トランプ氏の特徴は極めて「取引志向」が強い点にある。とりわけ自身や家族、関連企業の利益につながる合意を追求する傾向が顕著であり、2期にわたる政権運営の中でそうした事例は少なくなかった。現在もサウジアラビアで10億ドル規模の不動産開発計画を推進しており、外交政策との絡みが注目されている。
歴代米大統領が中国との関係やより広い外交政策において米国の利益と価値を守ろうとしてきたのとは対照的に、トランプ氏はその点への関心が乏しく、むしろ個人的な動機が強く見える。この姿勢は、従来の大統領の規範から大きく逸脱しているだけでなく、習近平氏の思惑に乗る危険性もはらんでいると懸念されている。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、習近平氏がトランプ氏の対中貿易合意への強い意欲を好機と見て、ワシントンに台湾政策の表現変更を求める考えであると報じた。現行の「台湾独立を支持しない」という立場から、「台湾独立に反対する」と明確に表明させる狙いである。
ブッシュ政権時代との違い、台湾海峡情勢の不安定さと賴清徳の慎重姿勢
グロスマン氏は比較の中で、ジョージ・W・ブッシュ元大統領もかつて台湾独立に反対する姿勢を示していたが、当時の状況は大きく異なっていたと指摘した。
当時は陳水扁総統が「国連加盟の是非を問う住民投票」を積極的に推進し、ワシントンの対中政策の「戦略的曖昧さ」に挑戦するかたちとなり、米国側は「一つの中国」政策の信頼性を維持するために立場を明確化せざるを得なかった。一方で現在の頼清徳総統は、そうした挑発的な行動は取らず、むしろ実務的で慎重な姿勢を保っている。さらに現在は台湾海峡のリスクが急速に高まっており、中国軍機による防空識別圏への頻繁な進入や、台湾周辺での軍事演習が常態化している。
グロスマン氏は、トランプ氏が習近平氏による文言変更の提案を受け入れるべきではないと警告し、この不安定な局面でこそ台湾への明確な支持を打ち出すべきだと訴えた。懸念されるのは、トランプ氏の取引優先の政治姿勢と個人的な利害によって、中国に対し互恵貿易やフェンタニル問題、さらには個人利益などをめぐる交渉の中で「台湾を売る」可能性があるという点である。