舞台裏》中国が台湾の将軍を圧迫する中、なぜ軍服を着てポーランドに現れることができたのか?半導体、エネルギー、ドローンで外交戦を展開

2025-10-15 17:08
中国の圧力が強まるなか、謝日升・参謀本部情報参謀次長は制服姿でワルシャワ・セキュリティ・フォーラムに登壇。(写真/Warsaw Security Forum公式YouTube)
中国の圧力が強まるなか、謝日升・参謀本部情報参謀次長は制服姿でワルシャワ・セキュリティ・フォーラムに登壇。(写真/Warsaw Security Forum公式YouTube)
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「中東欧の首脳は共産党の実相をよく理解しており、他地域よりも懐疑的だ。だからこそ台湾が置かれた圧力にも理解が深い」外交部の林佳龍部長は9月に2度欧州を歴訪。前半は文化交流を軸に各国を回り、9月29日にはポーランド・ワルシャワで開かれた「ワルシャワ安全保障フォーラム(WSF)」に台湾の外相として初招待された。開幕式ではトゥスク首相の隣席という厚遇。一方で、同じく招かれた国防部参謀本部情報参謀次長・謝日升氏は軍服で登壇し、引き締まった存在感を示した。

国防部の「陸海空軍服制条例」では、現役軍人が重要式典や公的場では常服着用・勲章佩用と定める。ただ、国際舞台での制服姿はきわめて稀だ。受入側の「黙契」がなければ実現しにくい。9月15日に中国の王毅外相がワルシャワでナヴロツキ大統領と会った直後に、林部長がトゥスク氏と並び、謝氏が軍装で演壇に立てたのは、開催国の明確な容認があったからにほかならない。

20251001-波蘭總理圖斯克(Donald Tusk)9月29日於華沙安全論壇進行開幕致詞,外交部長林佳龍獲邀入座第一排。(外交部提供)
トゥスク首相(左)が開幕あいさつ。林佳龍外相は最前列に招かれ、首相の隣席に着席。(写真/外交部提供)

相は「専門家」区分、将官は「軍」区分で登録

WSFはカシミェシュ・プワスキ財団が2014年に創設した、中東欧最大級の安保・外交政策フォーラム。歴代登壇者にはNATO前事務総長ストルテンベルグ氏、米国防長官経験者オースティン氏、EU上級代表や各国首脳らが並ぶ。

台湾は2022年から招待枠が広がり、同年は基隆市議で蔡英文前総統のスピーチチームにいた張之豪氏、23年は徐斯儉・国家安全会議(NSC)副秘書長が政府現職として初参加、24年は林飛帆・NSC副秘書長が登壇。そして25年、主催者は林佳龍外相に基調講演を打診、徐斯儉氏もNSC総統諮問委員として再招待となった。

公式サイトの登壇者プロフィールでは林氏に「台湾外交部長」、徐氏に「台湾NSC総統諮問委員」と明記がある一方、スピーカー区分は両名とも各国官僚と切り分けた「エキスパート(専門家)」扱い。対して、謝日升氏は「台湾国防部参謀本部情報参謀次長」として各国の軍関係者と同じ「ミリタリー(軍)」カテゴリに分類された。フォーラム運営の「政治的配慮」が読み取れる配置だ。

20241212-國防部情次室次長謝日升中將。(國防部提供)
謝日升・参謀本部情報参謀次長が制服で登壇。各国要人の前での講演は、台湾外交としても異例。(写真/国防部提供)

毅の「牽制」は不発、軍装登壇を容認

実は9月末の台湾側一行の渡航に先立ち、主催財団のピサルスキ会長が5月中旬に訪台し、外交部で林外相と面会。「台湾の継続的な参画」を双方で確認していた。これに対し中国外交部は9月10日、王毅外相のポーランド訪問を電撃発表し、水面下での牽制に動いたとみられる。しかし最終的に林・徐両氏の参加はそのまま受け入れられ、謝氏の軍服登壇も許可された。

訪欧の現場では目立った妨害は確認されなかったが、台湾側の動向を中国が常時モニターしているのは確かだ。林外相の「二度目の欧州」の最中も、中国側が各所で神経を尖らせていたのは外交筋の共通認識である。 (関連記事: 舞台裏》台湾外交に変化 「魔法部」は論争避け、林佳龍氏が対立国を交渉の場へ 関連記事をもっと読む

2025年7月11日,中国外交部长王毅在吉隆坡讨论会出席东协外交部长会议。(美联社)
林佳龍氏の訪波前、中国の王毅外相が急きょワルシャワ入りし牽制を図ったが、最終的に行程は予定どおり実現。(AP)

ポーランドを説得し台湾外相と将官が登場 外交部門の多方面作戦

中国の圧力がかかるなか、どうやって台湾の外相と軍服姿の将官のワルシャワ入りを実現したのか。答えは、外交部と在外公館が周到に動き、複数ルートで説得を積み重ねたことにある。関係外交官によれば、ポーランド側の理解取り付けに成功し、台湾の外相登壇と将官の軍服での出席にゴーサインが出た。

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