舞台裏》台湾外交に変化 「魔法部」は論争避け、林佳龍氏が対立国を交渉の場へ

2025-09-30 17:59
林佳龍氏は外交部長就任後、日本やフィリピンを訪問し、台湾に対する制約を次々と突破してきた。(写真/外交部提供)
林佳龍氏は外交部長就任後、日本やフィリピンを訪問し、台湾に対する制約を次々と突破してきた。(写真/外交部提供)
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台湾は現在、米国トランプ政権との間で関税や232条項をめぐる協議を続けている。そうした中、9月23日に経済部は公式サイトで、半導体を含む47品目の南アフリカ向け輸出を11月下旬から制限するとの告知をひっそりと掲載した。ところが48時間も経たないうちに、同部は外交上の判断を理由にこの措置を撤回。外交部の決定により延期が発表された。

この一連の動きは国内で波紋を呼び、ネット上では「トランプのTACO(Trump Always Chicken Out)をもじり、台湾は『Taiwan Always Chicken Out』だ」と揶揄する声まで広がった。

しかし、当初の経済部の説明によれば、この規制の背景には南アフリカ政府の強硬姿勢がある。2024年10月以降、台湾の駐在館の移転を迫られたことに端を発していたのだ。南アフリカ政府は中国の圧力に歩調を合わせ、台湾側の抗議を無視してきたため、台湾は安全や経済面で深刻な影響を受けると判断した。9月25日に経済部が撤回を表明した後、外交部は「南アフリカ側から協議の要請があった」と説明。約1年間応じなかった南アフリカを、ようやく交渉の場に引き出した格好となった。林佳龍氏が外相に就任して以降、外交方針は明確に変わりつつある。

南アフリカ要求により駐外館撤退。
南アフリカは小出しに圧力を強め、7月には政府公報で台湾駐在所の改名を公表した。(写真/駐南アフリカ代表処僑務組フェイスブックより)

南アフリカの圧力、台湾に度重なる退去要求

2023年12月、南アフリカ政府は25年以上にわたり首都プレトリアに置かれてきた台湾の駐在館に移転を迫った。その後も動きは加速し、2024年4月には正式な書面で移動を要求。同年10月末までの退去命令を発出し、2025年1月にも再び同様の命令を通知した。さらに、台湾側の代表機関を「格下げ」扱いし、改名や住所変更を南アフリカ官報に掲載。2024年7月には、駐プレトリア代表処を「駐ヨハネスブルグ台北商務弁事所」「駐ケープタウン台北商務弁事所」と名称変更したと一方的に公表した。

台湾と南アフリカは1997年、外交断絶を前提としない協定を結んでいる。当時の外交年鑑によると、ネルソン・マンデラ大統領は「正式な外交承認以外では最高の待遇」を台湾に保証した。この協定に基づき、台湾はプレトリアに「駐南アフリカ共和国台北連絡代表処」を、南アフリカは台北に「南アフリカ連絡代表処」を設置。3回の閣僚級協議と12回の実務会議を経て成立したものであった。

このため、台湾外交部は南アフリカ政府に協定の尊重を求め続けてきた。しかし『風伝媒』によれば、南アフリカ側は台湾からの協議要請を無視し続け、外交官による接触にも応じなかった。現地公務部門との連絡は維持されているものの、南アフリカ高官は態度を変えず、形式的な対応に終始しているという。 (関連記事: 舞台裏》米国が突然「台湾地位未定論」を表明──林佳龍外交部長が密かに文書削除、賴清徳総統と会談も 関連記事をもっと読む

マンデラ(美聯社)
南アフリカが1998年に台湾と断交する前、ネルソン・マンデラ大統領は台湾に特別待遇を保証していた。(写真/AP通信)

中国の影響色濃く 南アフリカは台湾を冷遇

南アフリカが台湾の代表所移転を迫り始めたのは2023年12月、ちょうど習近平国家主席が南アを訪れ、BRICS首脳会議に出席してからわずか3カ月後のことだった。さらに2024年9月には、シリル・ラマポーサ大統領が北京を訪れ習主席と会談し、その翌月には正式な移転命令が下された。2025年7月21日には、南アフリカ外交部が官報で台湾代表所の改名と格下げを公告したが、それは副大統領ポール・マシャティラが中国訪問から帰国した直後の発表だった。

外交筋は「台湾と南アの二国間関係に本質的な対立はなく、背後で中国が政治的圧力を加えている」と指摘する。南ア内部でも一部に疑問の声はあるものの、中国の影響力は圧倒的で、アフリカ諸国が抗うのは容易ではない。しかも南アは2025年のG20議長国であり、11月にはサミットを主催する予定だ。外交当局は、もし習主席が訪問を決めれば、南アが再び北京の意向に沿って台湾に圧力をかける可能性が高いと分析している。

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