米国は依然「世界最強の軍事大国」なのか。少なくとも無人機の戦場では、その答えが揺らいでいる。
9月13日、米大統領トランプ氏のウクライナ特使キース・ケロッグ氏は、キーウで開かれた「ヤルタ欧州戦略会議」で「ウクライナは無人機技術の世界的リーダーになった。一方の米国は大きく遅れている(well behind)」と名言。時間との戦いになっていると危機感を示した。
この警鐘は、米軍が長年「小型ドローンの戦術・配備」を軽視してきた構造問題の表れでもある。ピート・ヘグセス国防長官は7月の内部メモで、「問題は技術ではなくリスク回避という官僚文化だ。我々が発明した技術なのに、部隊展開が遅い」と認めている。

ウクライナ:受援国から「技術輸出国」へ
ロシアの全面侵攻(2022年)以降、ウクライナは空・陸・海の全領域で無人機運用を拡大。2025年には長距離無人機3万機超、年間総生産は400万機に届く見込みだ。
ゼレンスキー大統領は8月のホワイトハウス訪問で、5年で1,000万機の無人機を供給または共同製造する協力案(総額100~500億ドル)を米側に提示したという。

副首相のミハイロ・フェドロフ氏はCNNの取材に、「これは単なる装備の取引ではなく、戦場データの輸出だ」と強調。ウクライナ側は数万本の攻撃映像を保有し、人員・装備・建物への打撃過程を克明に記録。
AIアルゴリズムの訓練素材になっていると明かした。「高品質の機体とデータを提供し、その見返りに安全保障を拡充する――それは地政学的なカードだ」とも語る。
戦場の現実:精密打撃の8割はドローン起点
7月の独・ヴィースバーデンでのNATO軍事会議で、ウ軍無人システム部隊のロベルト「マジャール」・ブロブディ司令官は「戦場でFPV(第一人称視点)ドローンを逃れられる戦車はない」と断言。
ウ軍副参謀長ヴォロディミル・ホルバチュク氏も、従来の砲兵・対戦車ミサイルの重要性を認めつつ、「精密打撃の約80%は無人機が起点」と補足した。
ウクライナは歩兵小隊レベルで“一兵一機”を常態化。ドローンを小銃や暗視装置と並ぶ基本装備に位置づけ、攻撃様式と機動性を大きく塗り替えている。
米軍、FPV無人機訓練を拡大も制度は遅延
CNNが訪れたテキサス州フォート・ブリスでは、FPV運用が常設訓練に。兵士はシミュレーターで建物貫通、定点攻撃、空中浸透などを反復している。
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特戦部隊限定だった訓練は一般部隊にも拡大中だが、「動き出しが遅すぎた」との認識が軍内で共有される。ヘグセス長官のメモはこう釘を刺す。
ヘグセス氏は7月のメモでこう述べている。:
「致死性(戦闘力)は、みずから課した制約によって損なわれてはならない。とりわけ、私たちが発明しながら追随が遅れてきた技術を活用する場面ではなおさらだ」。(Lethality will not be hindered by self-imposed restrictions, especially when it comes to harnessing technologies we invented but were slow to pursue.)
さらに、「無人機技術は目まぐるしい速度で進化している。私たちにとって最大のリスクは、リスク回避そのものだ」と強調した。(Drone technology is advancing so rapidly, our major risk is risk-avoidance.)
