李忠謙コラム:台湾賴清徳総統の「大いなる幻想」を検証——「今日のウクライナ、明日の東アジア」が突きつける現実

2025-09-02 16:41
2025年8月18日、ウクライナのゼレンスキー大統領がワシントンのホワイトハウス前にあるラファイエット公園で演説した。訪米に先立ち、彼は米国のトランプ大統領や欧州各国の首脳と会談していた。(AP通信)
2025年8月18日、ウクライナのゼレンスキー大統領がワシントンのホワイトハウス前にあるラファイエット公園で演説した。訪米に先立ち、彼は米国のトランプ大統領や欧州各国の首脳と会談していた。(AP通信)

国際関係論の巨匠であるシカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授は、著書『大いなる妄想―リベラリストの夢と国際政治の現実—』で、米国が推し進めてきた「リベラルな覇権主義」を徹底的に批判した。自由や民主主義を国際社会に強引に輸出するやり方は「国際紛争を緩和できないどころか、いずれ自国の自由をも脅かす」とし、「国外でのリベラルな介入は、かえって国内を不自由にする」と警告したのである。彼が2018年に「打破すべき大幻象」と断じたこの考え方は、その7年後、トランプ大統領が返り咲いたことで改めて注目を浴びている。だが実際のトランプ外交は、ミアシャイマーらの現実主義とは異なるベクトルを示しており、民主主義の擁護や「世界の警察」を担うことへの関心を失った米国の姿勢は、ウクライナやガザ、そして台湾に冷ややかな空気を漂わせている。

その一方で、台湾の賴清徳総統は先月、ウクライナの国会議員クニツキー氏(Mykola Kniazhytskyi)が率いる超党派議員団を迎え、「両国関係に新たなマイルストーンを築いた」と語った。総統は、台湾が一貫してウクライナ国民と共にあり、人道支援を続けてきたことを強調。さらに「理念を同じくする民主国家が団結してこそ脅威を乗り越えられる」と訴え、復興支援への協力にも前向きな姿勢を示した。

侵略を受ける国を支援するのは当然のことだろう。しかし戦争が4年目に差し掛かろうとするいま、「今日のウクライナは明日の東アジア(台湾)かもしれない」というスローガンが持つ現実的な意味を改めて問い直す必要がある。台湾政府自身も「台ウクライナ間の公式交流は限られている」と認めつつ、「将来、政府や議会、産業や市民社会で幅広い交流が大きく進展することを期待する」といった空疎な言葉を繰り返すだけでは済まされない。台湾のリーダーこそ、このフレーズが突きつける現実と真剣に向き合わなければならない局面にある。

「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」という言葉は、当初は多くの共感を集めたが、その背景にある意味合いは国際情勢の変化とともに複雑さを増している。第二次世界大戦後で最大規模となった欧州の戦争は、もはや単なる地域紛争ではなく、欧亜を横断し世界の大国の思惑が絡む代理戦争へと発展した。その余波はヨーロッパを越え、アジアや台湾の運命とも深く結びついている。この相互連動を理解するには、このスローガンの出自をたどり、その意味が時代とともにどのように変容してきたのかを冷静に読み解く必要がある。

2022年11月、英誌『エコノミスト』は「台湾はアジアのウクライナになるのか?」(Will Taiwan be the Ukraine of Asia?)という大きな問いを投げかけた。当時、国際社会の注目は両者の驚くほどの共通点に集まっていた。民主主義と自由を守る小国が、領土的野心を抱く強大な隣国と対峙する構図である。こうした背景のもと、「今日のウクライナ、明日の台湾」というスローガンは強烈な警鐘として広がった。米国は、ウクライナの粘り強い抵抗が台湾をして従来型の高額な艦艇や戦闘機に依存せず、より柔軟で致命性の高い「ヤマアラシ戦略」(porcupine strategy)を採用する契機になることを期待した。他方、中国にとってはウクライナ戦争が「侵略は泥沼に陥る危険が大きい」という鏡となり、台湾海峡での上陸作戦が陸上戦以上に困難で、失敗は体制を揺るがしかねない現実を映し出すことになった。

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