プーチン氏とゼレンスキー氏が直接会談に臨む可能性が高まるなか、各方面がこれまで避けてきた最も厄介な問題に向き合わざるを得なくなっている。戦争は最終的に交渉によって終結するものであり、概念的にはこれは否定できない。たとえ「城下の盟」であっても、交渉という形式を取らざるを得ないのである。問題は、どのように交渉するかに加え、どれほどの時間を費やすかという点である。現在のロシアとウクライナの構造的な対立は、アメリカの仲介によって折衷点を見いだすことができるのか。そしてトランプ氏の役割が、新たな変数を生み出すことになるのかという疑問が残されている。
プーチン氏が「準NATO型の安全保障」に同意する理由は何か。
2014年、ウクライナとロシアは東部問題をめぐり《ミンスク合意》に至った。協議はわずか1か月足らずでまとまり、フランスとドイツも保証人として加わった。しかし今となっては《中英共同声明》と同様、瞬く間に「歴史文書」と化したことが明らかである。1954年には、朝鮮戦争と第一次インドシナ戦争(フランス対ベトナム)の終結を議題とするジュネーブ会議が開催され、4月から7月まで3か月にわたり協議が続き、比較的効率的に結論が導かれたといえる。これに対し、アメリカが深く関与したベトナム戦争では1968年に交渉が始まり、1973年に《パリ和平協定》が署名されるまで、実に5年近くの紆余曲折を経た。しかも調印後、南ベトナムは瞬く間に崩壊し、唯一の勝者はノーベル平和賞を不当にかすめ取ったキッシンジャー氏だけであった。
各種の事例を参照すると、現在の客観的環境下でウクライナが武力によってすべての失地を奪回できる確信がないかぎり、最も望ましいのは韓国の休戦後における南韓のように、在韓米軍(または他の同盟軍)が安全保障を担保する代わりに、一部領土の割譲という屈辱を受け入れることである。さもなくば南ベトナムのように、空文同然の合意に署名しても結局は何も得られないという結末になりかねない。概念としては誰もが理解するところであるが、実務としてどう「取引」を成立させるのか。以下の三つの難題をめぐっては駆け引きが避けられず、不確実性に満ちている。
第一に、ロシアが西側によるウクライナの「安全保障」を無条件で受け入れるのかという点である。プーチン氏はアラスカ・サミット後、ウクライナには安全保障が必要だと自ら明言しており、これは重要なシグナルである。ただし「安全保障」という概念は抽象的であり、米側が現在観測気球的に流しているとされる案のうち、どこまでがロシア側の同意表明と重なるのかは大きな疑問である。
プーチン氏が開戦を正当化した理由は「ロシアの国家安全の防衛」であり、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟は容認できないというものであった。もし西側が提示する保証が「準NATO型」の枠組みで、NATO部隊がロシア国境沿いに駐留し、ウクライナが再び侵攻を受けた際には直ちにロシアと交戦し得る態勢を整えるという内容であれば、ロシア側の視点からは、占領領域の多寡にかかわらず戦前より危険が増すのではないか。他方、ミンスク合意のような弱体な枠組みであれば、ウクライナが受け入れるはずがない。イタリアのメローニ首相はトランプ氏との会談後の説明で、こうした「安全保障」は1週間以内に文書化されると述べたとされ、米軍首脳もこれらの条文の策定を進めているとの報道がある。詳細は近く明らかになるはずである。
プーチン氏が受け入れるとすれば、その誘因はまず併合した領土の国際承認、国際舞台への復帰、そして西側制裁の全面解除である。しかしそれだけでは十分ではない。ロシアは「西側に後庭を侵される」ことを古くから恐れており、これはプーチン氏に始まった話ではない。仮にロシアが西側によるウクライナへの「安全保障」を受け入れるにしても、同時に自国への「安全保障」を要求するのは必至である。たとえば、NATOがロシア本土を先制攻撃しないと約束すること、ロシア・ウクライナ国境に配備する兵器に段階的な制限を設けること、さらには誠意を示すために一定年数ロシア産エネルギーを購入することなどが考えられる。プーチン氏が時間稼ぎを意図するなら、こうした荒唐無稽ともいえる条件を次々に提示し、トランプ氏の任期をやり過ごすことも十分に可能である。
ウクライナが「領土交換」を受け入れる限界とMAGAの反発
ロシア・ウクライナ交渉でさらに厄介なのは、言うまでもなく領土問題である。ウクライナにとって比較的理想的な結末は、クリミア半島の奪還は不可能であることを認め(場合によっては正式に承認する必要がある)、ロシアが占領する東部地域についても事実上回復不能であることを黙認することだろう(すでに傀儡政権による「人民共和国」が存在しており、形式上は「休戦」という名目で済む可能性がある)。そのうえで、南部のヘルソン州やザポリージャ州、さらに東北部ハルキウ周辺の緩衝地帯といった、いわゆる「住民投票」に基づきロシア連邦に編入された地域については死守する、というシナリオである。
しかし、これはプーチン氏の提示条件とは大きな隔たりがある。
プーチン氏の提示する条件は、東北部の飛び地(現時点でロシア軍が占領している範囲はごくわずか)だけを返還し、他は一切譲らないというものである。さらにウクライナに対しては、ドンバス地域で未だ陥落していない領土からの撤退を要求しており、これは現地住民に自ら故郷を捨てさせるに等しく、ウクライナ側が容易に受け入れられるものではない。ただしプーチン氏にも理屈はある。西側がウクライナに「戦略的保障」を与えるのであれば、ロシアも「防衛線」を必要とし、ドンバス全域を掌握してこそ戦略的な縦深を確保できる、という主張である。この場合、早期に「和平」を実現するため、アメリカがウクライナに圧力をかける可能性があるかどうかが大きな不確定要素となる。
双方が歩み寄るとすれば、想定される「領土交換」として、ウクライナが保持している未陥落のドンバス地域と、すでにロシアに占領され「編入」された南部二州を取り引きする案が浮上し得る。外交上は少なくとも交渉可能な議題であり、ウクライナが一部とはいえ失われた領土を回復することができれば、国民への説明も成り立つかもしれない。ただしゼレンスキー氏が国内の国民投票や憲法改正に訴える場合、交渉は必然的に長期化する。またウクライナ国内ではすでに戦争の既得権益層や利権構造が形成されつつあり、彼らがさまざまな障害を生み出す可能性もある。
最後に問題となるのはアメリカの役割である。ウクライナが領土を割譲してでも停戦に応じる可能性があるのは、西側、特にアメリカが安全保障を提供するとの前提に立つからである。しかし、近月トランプ氏が政策を転換し、ウクライナ支援を強化しつつあるとはいえ、その基盤となるMAGA陣営は依然として強い孤立主義的傾向を持っており、むしろトランプ氏本人に対する圧力を強め始めている。
もしアメリカが実際に軍を派遣して停戦監視や平和維持に参加することになれば、それはトランプ氏が掲げてきた選挙公約と真っ向から矛盾する。その場合、すでに共和党に不利な情勢とされる中間選挙で、MAGA支持層の投票意欲に影響が出る可能性は否定できない。
トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)内部ですら二層構造を主張し、防衛費の拠出が不十分な加盟国は守る必要がないと示唆してきた。モンテネグロのような加盟国が攻撃を受けても「米国には関係ない」と述べたことすらある。そうした思考の延長線上で、どうやってMAGA層に「ウクライナはアメリカの核心的利益だ」と説得できるのかは大きな疑問である。
彼が最も言い出しやすい論理は、ウクライナが長期にわたり高額で米国製兵器を購入する約束をし、さらに鉱物資源に関する協定もすでに結んでいることだろう。これらはアメリカ経済にとって長期的な利益となり、その見返りとして米国の保護を正当化できる、という説明である。しかしMAGA陣営がそれを素直に受け入れるかどうかは別問題であり、イーロン・マスク氏のような影響力を持つ人物が公然と反対の声を上げる可能性もあり、不確定要素は多い。
もっとも、トランプ氏は再選が不可能(よほど劇的な展開がない限り)であり、人生最後の目標はノーベル平和賞の獲得にあるとも言える。そのため思考様式は一般的な政治家と大きく異なり、跳躍的で予測不能な判断を下す可能性が高い。だからこそ、彼は近年最も影響力のある国際的なキープレーヤーであり、その地位は客観的に見ても揺るぎない。
※筆者は国立中山大学台湾・香港国際研究センター専任副教授である。