災害に見舞われた人々の姿を政治にたとえるのは適切ではないかもしれない。だが、台湾の賴清徳総統が被災地で脚立を使って「視察ポーズ」を演出した場面を思えば、災後の風景と台湾政治の現実を重ねるのもあながち的外れではない。大規模リコールで大敗を喫した賴政権・卓内閣は、すでに「ブルーシート政権」(台湾では「帆布政権」)と化している。崩れた家屋をブルーシートで覆い、見かけだけを保つように、本質的な問題を解決しないまま延命している政権という意味だ。しかも現行の憲政体制の下では、こうした「ブルーシート政権」でも権力を握り続けられる。結果として国民は「憲法災民」となり、自らをどう救えばよいのか分からない状況に置かれている。以下、その問題点を論じたい。
筆者は先の論考で、大規模リコールは「曲径(抜け道)による国会解散」に等しいと指摘した。726の第一波が24対0で不発に終わった後に露呈したリコール運動の荒唐無稽さは、この見方を裏付ける「経験的データ」となった。今回のリコールが不発に終わった今、憲政原理からすれば「倒閣は事実上成立した」と言える。つまり卓榮泰行政院長は辞任すべきであり、内閣全体が総辞職するのが筋である。
本来、憲法は「国会が内閣を倒した後に、総統が国会を解散できる」と定めている。しかし民進党は体制の隙を突き、公民団体と組んで「大リコール」という手段を用い、倒閣手続きを経ずに在野勢力の議席を“部分的に解散”させたに等しい。合法的な手続きであっても、それは「濫用」にほかならない。結果、卓内閣は「遡及的に倒閣された」と評価すべきだ。
問題は、この憲法体制下では合法的陰謀が違法とされず、責任追及も回避されてしまうことだ。行政部門や一部閣僚はリコール過程で国会議員を侮辱し、虚偽情報を流布した。だが「類政変」に失敗した後も、発動者たちは閣僚として居座り続け、行政院長や部会首長として国会に出向き施政方針を述べ、質疑を受けている。これは民主主義の茶番劇であり、行政権優位の「疑似独裁」を象徴している。
在野党にどのような対抗策が残されているのか。ひとつの方法は、卓榮泰氏に対して憲法上の「不信任決議」ではなく、あくまで「不歓迎」の意思を示す投票を行うことだ。これは法的拘束力を持つ不信任決議ではないが、内閣総辞職を求める国会多数派の意思を示す手段となり得る。また、特定の閣僚に対して不信任リストを作成し、理由を明記したうえで採決に付すことも考えられる。たとえ総統や行政院がこれを無視しても、強い政治的圧力として作用する可能性がある。
こうした問題の根底には、1997年の憲法改正がある。当時、李登輝総統と民進党の許信良主席は「省の凍結」や「国会の黒金問題」への対応として、行政権を優位に置く制度設計を選んだ。意図は理解できるが、その帰結は「反民主的な抜け穴」を残すことになった。
総統は直接選挙で選ばれるが、一回限りの単記投票制のため、当選者が過半数を得ていなくても就任できる。国会で多数を持たない総統が行政権を独占する結果、「二重の少数派」が権力を掌握する構造となっている。これは民主主義を空洞化させる要因だ。