2024年に再び政権を握った台湾民進党だが、2025年の「726」「823」のリコールや国民投票では惨敗を喫した。その一方で、国民党は「南方公園」風の動画に「ライアー(嘘つき)校長」と揶揄したキャラクターを登場させ、賴清徳総統を批判。これが若者層で拡散され、ネット上で広がりを見せている。
台湾 のオンライン メディア 《美麗島電子報》 が2025年7月に行った世論調査によれば、賴氏の若年層での支持は急落している。20〜29歳の信頼度は就任直後の44.8%から36.4%に低下。30〜39歳も47.2%から32.6%に落ち込んだ。民進党への好感度も20〜29歳で43.6%から29.2%へ、30〜39歳で37.8%から31.9%へと大幅に低下している。かつて民進党を支えてきた若者層の離反は、賴政権にとって大きな警鐘となっている。では、いま民進党内部で働く若手党員は、賴清徳氏をどう見ているのか。
かつて民進党を支持していた若者の一部が、2025年726・823のリコールや国民投票では、国民党が仕掛けた風刺動画「ライヤー(Liar、嘘つき)校長」(米アニメ「サウスパーク」を模したもの)を拡散する現象まで起きた。(画像/政客爽フェイスブックより) (圖/翻攝政客爽粉專)
蔡英文を支持した若者、賴清徳には冷ややか 民進党の若手幹部である30代の党員C氏は、2022年の選挙前に入党。同性婚合法化を実現した蔡英文政権に感銘を受け、選挙応援に加わったという。彼は蔡氏を高く評価する一方で、「賴清徳は好きになれない」と語る。
「蔡英文を支持していた人が、みんな賴清徳を支持するわけではない。彼は自分が蔡総統ではないことを忘れている」と厳しく批判する。蔡氏の時代は国会多数を背景に、同性婚法制化や年金改革といった改革を次々に実現。コロナ初期対応も評価され、党員の多くが支持を寄せた。だが賴氏は2023年に党主席を引き継いだ後、それらの支持基盤を「丸ごと受け継げる」と考えているように映ると指摘した。
蔡英文政権下で婚姻平等などの改革が推進され、若者の支持を集めたが、現在その支持は賴清徳総統には向かっていない。(写真/余志偉撮影)
「昔の嫌われた古参幹部のよう」 若手が抱く違和感 C氏は賴氏の政治手法を「自己愛的で、まるで昔嫌われた「老緑男」(古参の民進党幹部)のようだ」と評する。具体例として、蔡英文時代に整備された支持者向けネットワークを挙げた。当時は党中央や地方支部が一体となり、争点ごとに統一したメッセージや画像を配信。支持者の反応も良かった。
ところが賴氏が党運営を握った後は、自らの側近をグループに送り込み、従来の運営者を指揮下に置いた。作成される画像は文字ばかりで見づらく、内容も浅い。議論を深める説明もなく、同じ素材を繰り返し拡散するため、支持者からも「やる気が感じられない」と不満が出ている。
C氏は「蔡英文も第1期では党内外との意思疎通が不十分で苦労したが、反省し学びを重ねてスタイルを確立した。その結果、第2期では817万票を獲得できた」と振り返る。「多くの人は民進党だから支持したのではなく、蔡英文だから支持した。賴清徳はその点を理解していない」とも語る。
さらに「彼は自分を過大評価し、自己愛的な姿勢が目立つ。周囲も賛辞ばかりで、責任を常に野党や中国に転嫁している。その姿は、かつて最も嫌われた“老緑男”そのものだ」と批判を強めた。
多くの党職員は、社会との対話を重ねていた蔡英文政権時代を「懐かしく思う」と語る。(写真/吳逸驊撮影)
賴清德や卓榮泰の宣伝をしたくない その理由は「彼らが本当に退屈だから」 さらに、30代前半の党員H氏は、かつて前行政院長・蘇貞昌氏の対中強硬姿勢に惹かれ、2019年前後からSNSで「義勇軍」として蔡英文政権や蘇内閣の実績を積極的に拡散。国民党支持者との論戦にも日々参加し、その後民進党に正式に加わり、2度の選挙戦を経験した。
しかし現在、党の宣伝活動には積極的に関わらず、自身の写真をSNSに投稿する方を選ぶ。「賴清徳と卓榮泰の内閣は本当に退屈だから」と理由を語る。
H氏は「賴清徳は自分を“台独の金孫”(台湾独立派が期待を寄せる後継者)だと思い込んでいるように見える。だから皆が支持し、自分の言うことに従うと思っているのでは」と批判。その周囲も彼を恐れて異論を唱えず、党幹部は保身のために賛辞ばかり並べていると指摘した。そうした空気が若手党員を遠ざけ、「当今の主君」と皮肉を込めて呼ぶ存在にしてしまったという。「党のスタッフですら敬遠しているのに、一般有権者が惹きつけられるはずがない」と語った。
H氏は党のネット宣伝研修にも参加したが、そこで紹介された事例は蔡英文時代の「辣台派」(蔡氏を支持した若者の熱狂的ファン層)や、蘇内閣の「トイレットペーパー買い占め騒動」でのユーモラスな対応など過去のものばかり。賴氏関連は2023年選挙前の映像広告《在路上》のみだった。「確かに反響は大きかったが、あれ一度の成功に酔っているようでは前に進めない。しかもあの映像で最初に車を走らせていたのは蔡英文であって、賴清徳ではなかった」と手厳しく指摘した。
民進党が誇れる宣伝材料は、2024年総統選挙で話題を呼んだキャンペーン映像《在路上》(邦訳:路上にて)にとどまっている。(写真/蔡英文フェイスブックより)
「責任転嫁ばかり」 若手から不満噴出 H氏はさらに「賴清徳は追い風の時は成果を総取りし、逆風になると手を引く」と述べた。2024年の総統選で当選した際には、党員や支持者を当然のように自分の功績に取り込もうとした。しかし支持者の中には、蔡英文や蘇貞昌を支持して入党した人も多く、必ずしも賴氏を支持しているわけではない。
2025年のリコールで大敗を喫した際、党として責任を取る動きはなく、賴氏自身も罷免運動から距離を置く姿勢を見せた。H氏は「指導者としての責任感に欠ける」と切り捨てる。
最近の「重複関税」問題でも、政府・党の初動は「4月にすでに説明した」「野党が勉強不足」と責任転嫁ばかり。だが多くの国民は本当に知らず、党報道官の卓冠廷氏ですら「自分も理解していなかった」と漏らした。H氏は「国民を責めるような態度では、若者は到底ついていけない」と強調した。
米国が台湾に20%の関税を課すと発表した後、それが「20%+N」の加重関税だと知った民衆は強く反発。行政院副院長の鄭麗君氏(中央)が説明に立ったが、怒りを収めることは難しかった。(写真/柯承惠撮影)
「賴清徳の側近だから」 硬直する省庁と党内の諦め 立法院で働く法案助理のY氏も、現政権に失望感を抱いている。学生時代から政治に関心を持ち、民進党の改革路線に共鳴して議員スタッフになったが、2024年の賴清徳・卓榮泰政権の発足後は落胆の連続だという。
教育現場の「教員不足」をめぐり、担当議員の質疑を支えた際も、教育部長・鄭英耀氏は「改善する」と答弁するだけで、後から説明に来ることはない。他の省庁でも同じような対応が見られ、蔡政権時代には積極的に説明していた状況とは対照的だ。Y氏は「一部の閣僚は『自分は賴清徳の側近だから、どうにもできないだろう』と言わんばかりの態度を取る」と不満を漏らす。
そのためY氏自身も「省庁を追及すれば、自分の議員が不利益を被るのでは」と萎縮し、本来取り上げるべき課題を封じることもあるという。「波風を立てて“皇城の和気”を壊すな」という空気が党内に漂い、改革への信念を失わせていると語った。
「私はもう、現在の賴政権に改革を推し進める力があるとは思えない」と、Y氏は失望を隠さなかった。
賴清徳総統(中央)と卓榮泰行政院長(右)は内閣改造を進める中、物議を醸していた郭智輝経済部長(左)が辞任した。(写真/柯承惠撮影)
若者に響かぬ政権 賴清徳は「情緒的価値すら与えられない」 民進党のある議員事務所で主任を務めるW氏は、 30歳未満で自 らを「天然独」(生まれつき台湾独立支持の立場)と語る。学生時代から白色テロや戒厳時代に関する本を多く読み、党国体制下の国民党に強い嫌悪感を抱いてきた。2014年のひまわり学生運動に心を動かされ、民進党に改革と進歩の価値を見いだし、大学卒業後に党の助手となり、2022年、2024年、そして大規模リコール戦で選挙を戦った。
しかし彼は「ひまわり運動がもたらした民進党への追い風はすでに失われつつある。あの運動を支持したからといって必ずしも民進党を支持するわけではない」と明かす。
W氏によれば、ネット上では「青鳥」(反中を掲げ行動する若い民進党支持者)と呼ばれる若者が今も活発だが、現実の多くの若者にとって最も切実なのは生活だという。「仕事があるか、食べていけるか、結局そこが関心事だ。民進党は9年も政権を担ってきたのだから、若者の暮らしが思うようにいかないなら当然批判を受けるべきだ」と語った。
W氏はさらに「賴清徳・卓榮泰政権は実績に乏しく存在感もない」と指摘。賴氏のSNS投稿は「退屈そのもの」で、726大規模リコールの惨敗後も「これはどちらかの勝利ではない」と淡々と述べる姿勢に失望を隠せない。「この政党を選んだところで、自分が何を得られるのか若者には実感できない。賴清徳は若者が最も必要とする“情緒的価値”すら与えていない」と嘆いた。
ひまわり学生運動をきっかけに民進党に参加した若者は多いが、その「ひまわりの特典」はすでに薄れ、支持が必ずしも民進党に向かうとは限らない。(写真/林瑞慶撮影)
若者に響かぬ政権 賴清徳は頑固すぎて自分本位 賴清徳という党首像について問われたW氏は「彼は“左翼リベラルではないが、融通の利かないタイプ”」と表現した。蔡英文政権の第1期も厳しい状況にあったが、蔡氏は敗北すれば即座に党主席を辞任し、改革の姿勢を示した。一方、賴氏率いる民進党は、野党からの改革提案に対して反射的に反対することが多く、米国の関税問題やリコール失敗の際も対応が後手に回り、上から目線の印象を与えているという。「彼はあまりに自己中心的で、柔軟さに欠ける」とW氏は語る。
今後に変化を期待するかと尋ねると、W氏はため息をつき、苦笑いを浮かべながら「もしかしたら…いや、わからないね」と答えた。普発現金(一律給付金)の例を挙げ、「支持者が必死で党を擁護したのに、結局は給付を実施した。あれは本当に支持者の心を傷つけた」と振り返った。
上から目線で反応も遅い――民進党の若手職員たちは、賴清徳総統(中央)が本当に変わるのかどうか答えを見いだせずにいる。(写真/柯承惠撮影)
「それとも国民党に投票するのか?」 蔡英文時代、若者の間で広まったフレーズに「それとも国民党に投票するのか?」がある。意味するところは「民進党も駄目だが、国民党はもっと駄目。だから結局は民進党を選ぶしかない」という開き直りだった。
しかしW氏は「民意は水のように流れを変える。もし民進党政権が希望を与えられず、むしろ嫌悪感を強めていくなら、若者がこの“情緒的縛り”に縛られるとは限らない」と強調する。今回の若者の反応は、その現実を突きつけているといえる。
(注:本文で引用した世論調査は、《美麗島電子報》が2025年7月28日から30日にかけて実施したもの。設計・分析は戴立安氏、調査は畢肯市場研究公司が担当した。調査対象は全国22県市に居住登録のある20歳以上の市民で、オペレーターによるコンピュータ支援電話インタビュー方式を採用。住宅電話と携帯電話のデュアルフレームによる無作為抽出で、住宅は層化ランダム抽出後にランダムジャンプ方式、携帯はデジタル発展部が公布した番号帯からランダムジャンプ方式で抽出した。有効回答は1082件(住宅705件、携帯377件)、信頼水準95%での最大誤差は±3.0%。)