杜宗熹氏のコラム:米国の「静かな後退」がアジア秩序を揺らす 日中対立の陰で進むパワー空白

2025年10月28日、アメリカ大統領トランプ氏と日本首相高市早苗氏が東京で日米首脳会談を行った。(写真/AP通信提供)
2025年10月28日、アメリカ大統領トランプ氏と日本首相高市早苗氏が東京で日米首脳会談を行った。(写真/AP通信提供)
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高市早苗首相による「台湾有事」発言をめぐって国内議論が高まるなか、中国側が強い不満を示し、薛剣・中国駐大阪総領事の発言や、中日外交官の会談時の服装までもが台湾のネット上で話題となっている。だが、多くの人が気づいていないのは、アメリカの視点から見れば、日本国内の動きや中日間の緊張は、必ずしも最優先の外交課題ではないという点だ。

むしろ現在、アメリカが最も注力しているのは、ウクライナとロシアの新たな停戦案の調整や、トランプ氏が本当にベネズエラへ軍を派遣するのかという問題である。中日間の対立が激しく見える一方で、米軍の主力が今、太平洋ではなくカリブ海に集結している事実は、日本や台湾の一般市民には想像しにくいかもしれない。

2025年11月17日、米国海軍作戦部長カウデル大将が東京でメディアの取材を受けました。(AP通信)
2025年11月17日、米国海軍作戦部長カウデル大将が東京でメディアの取材を受けました。(写真/AP通信提供)

東アジアは実際にアメリカにとってあまり重要ではない

台湾の人々はふだん「アメリカ大陸のニュース」にはあまり関心を向けず、仮に米国関連の報道を目にしても、経済、テクノロジー、あるいはアジア太平洋情勢が中心となりがちだ。しかし、実際のアメリカでは、国民が毎朝向き合っているのはアジア情勢ではなく、自分たちの生活に密接に結びついた事柄である。経済や貿易、さらには家族のルーツといった面でも、アメリカ人にとってラテンアメリカはアジア諸国よりはるかに近い存在だ。だからこそ、トランプ氏やその支持層にとって、ベネズエラの問題は日本以上の“重大事項”になり得る。

こうした状況は、1920年代の「孤立主義」が再び姿を現したとも言えるし、アメリカが欧州やアジア・アフリカよりも自らの“中南米圏”を優先し始めたとも解釈できる。加えて、ユーラシア大陸に目を向けても、ロシアがウクライナとの戦争で優勢に立ちつつあり、そのなかで浮上したウクライナ停戦案「28項目」は、西側メディアが最も大きく扱う爆発的ニュースとなっている。いまの国際情勢や中日間の緊張を理解するには、まずこうした前提を押さえておく必要がある。

思い返せばこの4年間、国民党の朱立倫前主席や鄭麗文現主席は、国内外のメディアから、ロシア・ウクライナ戦争や中国、ロシアへの姿勢に問題があると批判されてきた。しかし現状を踏まえれば、両者の立場は特異なものではなく、むしろ現在のアメリカ政府のスタンスに近いだけだと言える。

国民党主席鄭麗文氏がドイツの声でのインタビューを受けました。(ドイツの声 YouTube)
国民党の鄭麗文主席が、ドイツメディア「ドイチェ・ヴェレ(DW)」のインタビューに応じた。(画像/ドイチェ・ヴェレ公式YouTube提供)

米ロ協議によってまとめられたこの停戦案の草稿は、極めて厳しい条件を伴うものだ。たとえアメリカのトランプ大統領が支持し、ウクライナのゼレンスキー大統領が署名に応じたとしても、ロシアが最終的に全面履行する保証はない。全28項目の内容を見ると、ウクライナは領土も主権の完全性も失い、ロシアとNATOのあいだに置かれる「緩衝地帯」へと追いやられる形になる。とはいえ、ウクライナに他の選択肢があるかと言えば、現実にはほとんどない。戦争はまもなく4年に達し、ウクライナが勝利する可能性も極めて低い。

さらに、戦後のウクライナは国際的地位の回復に至らないだけでなく、草案ではロシアの国際的地位を段階的に回復させる内容まで盛り込まれている。アメリカは事実上、「戦場で得られないものは、外交でも手に入らない」という古くからの現実を認めたことになる。これは、今後台湾が両岸情勢を考えるうえで避けて通れない問題だ。

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