護国神山は空洞化するのか?2》TSMCは地政学の大博打に巻き込まれたのか 専門家が「空洞化と語るのは早い」と言い切る理由

TSMCとそのサプライチェーンが米国に工場を構える動きは、台湾経済の「空洞化」につながるのかどうか、社会的な論争を呼んでいる。写真は、ホワイトハウスのルーズベルトルームで記者会見に臨むトランプ米大統領(右)とTSMCの魏哲家会長。(写真/AP通信)
TSMCとそのサプライチェーンが米国に工場を構える動きは、台湾経済の「空洞化」につながるのかどうか、社会的な論争を呼んでいる。写真は、ホワイトハウスのルーズベルトルームで記者会見に臨むトランプ米大統領(右)とTSMCの魏哲家会長。(写真/AP通信)
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9月に開催されたSEMICON国際フォーラムでは、改めてサプライチェーンの安全性に視線が集まった。同時に、米国が進める半導体分野の「232国家安全保障調査」はいまだ結論が出ず、市場には大きな不確実性が漂う。TSMCと台湾サプライチェーン各社の米国進出をめぐり、「護国神山(国を守る山)」であるTSMCが台湾を空洞化させてしまうのか、それとも台湾が世界市場へ踏み出す“次のステージ”なのか、国内では議論が続いている。

この「空洞化」か「好機」かを分ける本質は、地政学的な大勝負にある。米中テクノロジー戦争が加速するなか、米国は再び保護主義へ回帰し、高関税と補助金を軸に自国生産の再構築を急ぐ――その狙いはサプライチェーンの再編と強靱化だ。世界の半導体を牽引してきた台湾は、同盟国の戦略的要請と自国の利益の間で、これまで以上に重い選択を迫られている。これは技術競争を超えた、国家戦略と産業構造の真っ向勝負でもある。

『風傳媒』は、行政院前副院長の施俊吉氏、米シンクタンク RAND の台湾政策イニシアティブ・ディレクター郭泓均(Raymond Kuo)氏、そして聚芯キャピタルのパートナー陳慧明(Eric Chen)氏にインタビューを行い、政策・産業・人材・文化の視点から、米中テクノロジー戦争下の台湾が直面する選択肢を深掘りした。

20251108-掏空護國神山專題。台積電。竹科。(顏麟宇攝)
世界の半導体をリードする台湾は、同盟国の戦略的ニーズと自国の利益の間で、難しい選択を迫られている。写真はTSMCの工場外観。(写真/顏麟宇撮影)

高関税の副作用と同盟国の「信頼性危機」

米国は高関税と補助金で製造業とサプライチェーンの再編を促そうとしているが、郭泓均氏は「その代償は極めて大きく、得られる効果は限定的だ」と指摘する。

「現在の関税範囲は非常に広く、税率は過去の10倍。平均1.5%だったものが15%以上に跳ね上がり、これは大恐慌以来見られない規模だ」。その実態は“米国民への増税”に近く、最終的には消費者に負担が転嫁されるだけで、サプライチェーン強化にはあまり寄与しないと語った。

さらに、米国の投資がAIデータセンターなど一部産業に偏り、免除措置も頻発しているため、政策としての一貫性を欠いている点も問題視した。

より深刻なのは「信頼性の揺らぎ」だと郭氏は続ける。
「同じ政府が締結した協定を、次の政権が『悪い協定だ』と言い出すなら、同盟国は米国の長期的なコミットメントをどう信じればいいのか」。
米国が短期的な利得を優先し始めれば、各国は“代替案”を探さざるを得なくなるという。

一方、国内で注目される「232国家安全保障調査」について、施俊吉氏は“本当のリスクは関税そのものではなく『差別的取り扱い』にある”と指摘した。

「米国が一律に課税するのであればTSMCもサムスンも同じ影響を受ける。しかし現在の二重トラック方式では、先端プロセスは台湾が標的にされ、成熟プロセスは中国が対象となる。台湾にかかる圧力が格段に重い」。 (関連記事: 護国神山は空洞化するのか?1》TSMCに「ノー」は許されない サプライチェーン同伴の海外進出は、台湾空洞化か世界挑戦か 関連記事をもっと読む

さらに施氏は、これはかつての日米半導体摩擦とは異質だと強調する。当時の米国は日本を“競合相手”として扱ったが、現在台湾は米国のテクノロジー戦争における重要な同盟国である。「情勢の認識を誤れば、同盟国に対する過度な強圧は、長期的な戦略信頼を揺るがしかねない」と警鐘を鳴らした。

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