護国神山は空洞化するのか?1》TSMCに「ノー」は許されない サプライチェーン同伴の海外進出は、台湾空洞化か世界挑戦か

2025-11-22 19:09
TSMC創業者で前会長の張忠謀氏の「グローバル化は死んだ」との発言が、地政学リスクの高まりの中であらためて注目を集めている。(写真/顏麟宇撮影)
TSMC創業者で前会長の張忠謀氏の「グローバル化は死んだ」との発言が、地政学リスクの高まりの中であらためて注目を集めている。(写真/顏麟宇撮影)
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創業者の張忠謀氏が口にした「グローバル化は終わった。世界貿易も終わった」という一言は、台積電(TSMC)を地政学の主舞台へと押し出した。米国の関税引き上げ、現地生産の要請、技術輸出規制が重なり、半導体サプライチェーンは再編を迫られている。TSMCが海外展開に踏み切らざるを得ない状況に、台湾の世論では「台湾の掏空」か「世界大会への挑戦」かという二つの論調がぶつかる。本稿では、現場の声と経営判断を同じテーブルに載せて検証する。

張氏は以前から「米国製造のコストは台湾の1.5倍どころではない」と警鐘を鳴らしてきた。関税、ローカル調達義務、補助金の付帯条件が積み上がれば、コスト曲線は必然的に跳ね上がる。加えて不確実な良率と長期の工期もついて回る。それでも、いまの国際環境でTSMCは“海外に出ない”という選択肢を取り得るのだろうか。

供給網の海外展開:得る前に失うコスト

サプライチェーンの最前線から返ってくる第一声は、「重いキャッシュフローを背負わされている」というものだ。台湾半導体サプライチェーンの幹部クラスであるEric氏は本誌の取材に対し、「TSMCがサプライチェーンを海外へ連れて行くことが“台湾を掏空している”のか、“世界大会に挑んでいる”のか、その答えは最終的に時間が示すだろう。ただ中小のサプライヤーにとっては、多くの場面で“見えているのに食べられない”状態で、利益を得る前に先に損失を抱えることになる」と率直に語った。

海外工場の立ち上げ初期、契約には「量産後に精算」と書かれることが多いが、実際にはサプライヤー側が先に資金を投じ、人材を派遣し、国際輸送コストや現地税制にも対応しなければならない。結果として、資金負担と運営コストは一気に跳ね上がる。

「こっちはキャッシュを燃やして現場を支えているのに、拍手を受けるのはTSMC。キャッシュフローとリスクを背負っているのはむしろこちらだ」とも話す。さらに、長期的な構造変化への懸念も口にする。「工場が次々と稼働すれば、技術文書もプロセスのノウハウも人も海外に出ていく。中小企業の“核”は台湾にあるのに、台湾での影響力は小さくなり、利益も薄く分散されていく」と見ている。

もっとも、現場にあるのは不満だけではない。Eric氏は別の側面も知っている。新工場の立ち上げ時は台湾のエンジニアに大きく依存する一方、現地に引き継いだ後は、良率や対応スピードにギャップが出るケースが少なくない。「聞こえは“レジリエンスの分散”だが、実際にはリスクが台湾側に集中している」と苦笑し、「値下げ圧力の文化も変わらない。海外案件は発注量こそ大きいが、前工程コストや人件費、材料費を引くと、国内案件ほどの利益率が出ないことが多い」と話す。 (関連記事: 台湾とアメリカの関税協定が間もなく発表?FT:台湾の投資約束は4,000億ドルに達し、輸出区管理の経験を提供、TSMCの工場計画を含む 関連記事をもっと読む

半導体、 晶圓。(柯承惠攝)
半導体サプライチェーンの幹部は「TSMCには拍手が送られる一方で、中小企業はキャッシュを燃やして耐えている」と苦しい胸の内を明かす。写真はイメージ。(写真/柯承惠撮影)

ある決定への異なる見解 技術者の現実の選択:正しく行うことが重要

Alan氏は、TSMCの米国派遣第1陣のエンジニアの一人だ。米国赴任前に会社から意思確認はあったが、「結婚して家庭のある同僚は外派を望まなかった。一方、自分はまだ独身で、表向き“断る理由がない”と見なされた」と振り返る。もし選べるなら台湾に残りたいというのが本音だが、派遣を断った場合に生じるかもしれない結果を背負う自信はない、とも明かす。会社がグローバル化せざるを得ないのと同じく、個人にも事実上「ノーと言いにくい構造」が働いているという認識だ。

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