トップ ニュース 護国神山は空洞化するのか?7》TSMCと正面勝負はしない 日本国家プロジェクトRapidusの「アップルもエヌビディアも狙わない」戦略
護国神山は空洞化するのか?7》TSMCと正面勝負はしない 日本国家プロジェクトRapidusの「アップルもエヌビディアも狙わない」戦略 Rapidusは日本政府の強力な支援を受け、2027年の2ナノメートル量産を目指しており、その目標は業界から「地獄級の挑戦」と評されている。(写真/顏麟宇撮影)
日本の半導体復活の切り札として期待を集めるRapidus(ラピダス)は、政府の全面的な後押しを受けながら、2ナノ世代の試作段階に挑む国内唯一の企業だ。2027年の2ナノ量産を目標に掲げるこの「国家チーム」は、どのような勝ち筋を描いているのか。TSMCの本格的なライバルになり得るのか。それとも、AI時代にふさわしいまったく別種のファウンドリ像を打ち出そうとしているのか。
Rapidusの小池淳義社長は、ことあるごとに「TSMCと正面から競争するつもりはない」と語ってきた。2025年9月に放送されたNHKの番組でもあらためて、「TSMCはあらゆるノウハウを持つ素晴らしい会社だが、我々はまだ何も持っていない」と率直に認めている。
NHKのスペシャル番組『1兆円を託された男 ~ニッポン半導体 復活のシナリオ~ 』では、小池氏は「1兆円の行方を託された男」として描かれた。日本政府によるRapidus支援は、単なる巨額投資にとどまらず、新興企業の立ち上げを超えた「国家戦略/産業再生の長期プロジェクト」として位置づけられている。
番組では、Rapidusが2025年7月に2ナノ級チップの初期試作を完了し、GAA(Gate-All-Around)構造を用いたナノシート型トランジスタで性能確認にこぎつけたことも紹介された。量産に向けた「最初のハードルを越えた」段階に入りつつあることを、映像と社内インタビューを通じて伝えようとしている。
2025年8月26日、Rapidus社長の小池淳義氏が米国で開催された「Hot Chips 2025」で基調講演を行った。(写真/Rapidus公式サイトより)
RUMS:AI時代にファウンドリの新モデルをつくる Rapidusが打ち出した答えは、「スケールではなくスピードと柔軟性で勝つ」というものだ。狙うのは“TSMC型の巨大ファウンドリ”ではない。AI時代に特化したファウンドリを標榜し、RUMS(Rapid Unified Manufacturing Service)と名付けた新しいビジネスモデルを掲げている。
そのターゲット顧客は、アップルやエヌビディアのような世界最大級のプレーヤーではない。ファブレスで自前の開発チームを持たないスタートアップや、産業用途に特化した企業など、「量は大きくないが、高度なチップを必要とする」プレーヤーだ。そうした顧客に対し、「少量多品種」「短納期」「きめ細かい技術支援」をワンパッケージで提供する構想である。
この発想は、TSMCが築いてきた巨大ファウンドリのモデルとは方向性がまったく異なる。Rapidusが目指しているのは、どちらかと言えば「半導体版AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)」に近い。製造だけでなく、設計支援やパッケージング、検証工程まで一体で提供し、「コンセプト段階から量産立ち上げまでを一つの窓口で完結させる」ことを売りにする。
AIスタートアップ、自動車技術ベンチャー、工場の自動化を進める新興企業などにとっては、単なるファウンドリサービス以上の価値を持つプラットフォームになり得る、というのがRapidus側の読みだ。
もっとも、これはロジックも文化も開発スピードも、あらゆる面で従来の日本型半導体ビジネスから大きく踏み出す挑戦でもある。
RapidusはRUMSモデルを掲げ、設計・製造・パッケージングを一体で提供し、最短のトータル製造サイクルを実現することを目指している。(写真/Rapidus公式サイトより)
技術ブレークスルーと米国の視線:Rapidusの「2HP」プロセスが世界の注目を集める Rapidusは、TSMC・サムスン・インテルといった業界トップがひしめく先端領域で2ナノ量産を目指す、日本では稀有なプレーヤーだ。昨年、同社は「2HP」と呼ぶ次世代プロセスを公表。日経の報道によれば、論理密度ではTSMCのN2と肩を並べ、場合によってはIntelの18Aを上回る可能性すらあるという。
最近の『北海道新聞』のインタビューで、小池淳義社長は、IBMやAIチップ設計企業Tenstorrentなど、複数の米国企業がRapidusの次世代プロセスに強い関心を示していると明かした。来年からは顧客チップのプロトタイプ製作(シャトル試作)のテストが始まり、IBMとTenstorrentが最初の協業パートナーになる見通しだ。さらに別の米国テック企業との契約が続く可能性もある。
特にTenstorrentのCEOであるジム・ケラー氏は、業界屈指のアーキテクトとして知られ、IntelやAMDで数々の革新を主導してきた人物だ。現在はRISC-VベースのAIチップ開発を率いており、Rapidusとの連携が実現すれば、同社がAIチップエコシステムに入り込む上で大きな推進力となる。
TenstorrentのCEOジム・ケラー氏(右端)は、2025年9月に台湾で開かれたSEMICONのマスターフォーラムに登壇した。(写真/魏鑫陽撮影)
Rapidusは2026年第1四半期に2HPプロセスのPDK(プロセス設計キット)を顧客へ公開し、2026年末〜2027年初頭の量産開始を計画している。スケジュール次第では、Intelの同等ノードより先行する可能性もある。小池氏は「先駆けになることより、競争力ある製品をつくることが重要」と語るが、外部からは「将来のTSMCの本命競争相手」と見る声も増えている。
ベテランの復帰 夢を実現できるのか Rapidusは政府支援のもと、トヨタ・ソニー・NTTなど国内大企業のリソースを束ね、総額1兆円規模の国家プロジェクトとして走り出している。しかし、2027年に2ナノ量産を達成するという計画は、業界関係者の間で「地獄級」と言われるほどの難度だ。
先端プロセスのフルラインを5年以内に構築し、歩留まり・納期・コストという三つのKPIを揃えることは、新興企業にとって極限の挑戦に等しい。だが、Rapidusは完全なゼロ出発ではない。90年代日本半導体の黄金期を支えた技術者たちを呼び戻し、日立・東芝などで成功を重ねた人材を再結集させ、新世代の技術者とともに開発を進めている。
北海道大学の太田泰彦教授は、この人材の帰還を「人のエネルギー」だと表現する。プロセス調整、設備導入の交渉、最後の“5%の歩留まり”を改善するノウハウを持つ人々が現場に戻ってきたことは、他国メーカーには容易に模倣できない資産だという。太田氏は本誌の取材に「成功確率は60%程度」と比較的高く評価している。
ただし、教授は懸念も口にする。ベテランを呼び戻すだけでは未来はつくれない。若い技術者が長く働きたいと思える職場文化やキャリアの魅力を作らなければ、将来的に人材の断層が発生する恐れがある。「若者が『ここに人生を投じる価値がある』と思える場にできるかが本当の勝負だ」と語った。
Rapidusは昨年、日本で初となるNXE:3800E EUV露光装置の設置記念式典を行い、小池淳義社長(右から4人目)やASML副社長ジム・クーンメン氏ら関係者が出席した。(写真/Rapidus公式サイトより)
最大の壁:量産の歩調と市場の信頼 戦略が明確で、人も集まっている。それでもRapidusには、量産能力と市場の信頼という極めて現実的なハードルが立ちはだかる。量産が遅れれば、顧客は別のファウンドリへ流れ、ビジネスモデルそのものが揺らぐ。
太田教授は、生成AIの普及によりデータセンター向け高性能チップ需要が急増している現状を指摘し、「将来的にはTSMCだけでは世界の需要を満たしきれない」と述べる。「Rapidusが量産に到達できれば、確実に居場所はある」と見ている。
成功の鍵は技術指標そのものではなく、「安定したリズムで製造を続けられるかどうか」。AIスタートアップにとっては、巨大規模よりも迅速な試作とイテレーションの方が重要だ。「初期はスケールが小さくても、反応速度があれば市場はついてくる」というのが太田氏の見立てだ。
RapidusはIBMのGAA(ゲート・オール・アラウンドトランジスタ)技術を導入し、2027年の2ナノメートル量産を目標に先端プロセスの舞台復帰を狙っている。(写真/Rapidus公式サイトより)
地政学は追い風、だが市場は待ってくれない Rapidusを後押ししているのは技術だけではなく、地政学的な文脈も大きい。米中の技術摩擦が長期化し、サプライチェーンが再編される中、日本政府は政局が揺れても半導体政策を変えない姿勢を鮮明にしている。
淡江大学の蔡錫勲教授は『風傳媒』 の取材で、「どれだけ政権が不安定でも半導体政策は変わらない。これは日本の長年の夢であり、最後のチャンスでもある」と語った。
その“夢”が価値を持つのは、チャンスが永遠には待ってくれないからだ。
淡江大学日本政経研究修士課程の蔡錫勲教授。(写真/蔡錫勲提供)
更多新聞請搜尋🔍風傳媒
最新ニュース
統一ライオンズ林安可、ポスティングで海外挑戦へ 西武ライオンズが独占交渉権を獲得 中華職棒・統一ライオンズの外野手、林安可(28)が今季終了後に海外FA(旅外)資格を行使し、球団は17日、日本プロ野球・埼玉西武ライオンズがポスティングによる独占交渉権を得たと発表した。交渉期間は1カ月となる。林は2019年のドラフト1巡目4位で統一ライオンズに入団し、7シーズンで打率.287、112本塁打、399打点の成績を残し、新人王、本塁打王、打点王、......
【独占インタビュー】IRIS MONDO、台湾との絆を語る 言葉と音楽で世界をつなぐ二人 日本のオルタナティブロックデュオ「IRIS MONDO」。ボーカルのKSW(くるみスカイウォーカー)とギターのスーパーさったんの二人は、アジアツアーや台湾公演を経て、“音楽で文化をつなぐ存在”として注目度を高めている。今回のインタビューでは、結成の背景、新作への思い、SNS戦略、そして台湾との深い関係まで、二人が率直に語ってくれた。IRIS MONDOが語る......
中国がレアアースに手を出せない1つの理由!内部事情が露呈、専門家「非常にリスクが高い」と指摘 高市早苗氏が「台湾有事」を「日本有事」とみなすと表明した後、中国政府は旅行警告を全面禁止へと引き上げ、日本の水産物の輸入を全面的に禁止した。さらに、エンターテインメント業界にも影響を及ぼし、日本の芸能人の公演スケジュールが中断された。しかし、この政治的な駆け引きの中で、外界が「切り札」と見なしているレアアースの輸出制限は未だに実施されていない。複数の観察者は......
たまごっち30周年イヤー始動 原宿で公式ストアがリニューアルオープン、記念企画も続々 バンダイの人気玩具「たまごっち」が2026年に発売30周年を迎えるにあたり、周年イヤーの本格展開が始まった。1996年の発売以来、累計販売数は国内外で1億個を突破し、幅広い世代に支持されてきた。この節目を記念し、特別企画や新商品の展開、そして原宿でのオフィシャルストアリニューアルなど、多角的なプロジェクトが発表された。バンダイは「たまごっち」や「こどもっち」......
高市内閣が21兆円の「経済振興策」を発表 減税や補助金を通じて生活改善を図る 政府は21日、臨時の閣議を開き、地方自治体への交付金や電気・ガス料金の補助、減税措置などを盛り込んだ新たな経済政策をまとめた。一般会計の歳出規模は21兆3000億円 にのぼる見通しだ。NHKの報道によると、政府が今回の閣議で決定した経済対策は「物価高騰への対応」「経済力の強化」「防衛力・外交力の強化」の三本柱で構成されている。2025年11月20日、東京浅草......
米国務省が尖閣を名指し「日本防衛のコミットメントは揺るがない」日中緊張に強い牽制 日中関係が急速に緊張するなか、米国務省のトミー・ピゴット副報道官は20日、X(旧Twitter)で異例の発信を行い、「尖閣諸島(釣魚台列嶼)」を名指しで取り上げ、米国の対日防衛コミットメントは「揺るぎない」と強調した。ピゴット氏は投稿で次のように述べた。「米国は日米同盟、および日本が実効支配する尖閣諸島を含む日本の防衛に対するコミットメントを揺るぎなく維持し......
揭仲コラム:中国共産党、台湾海峡で法的戦を静かに強化 中国共産党(中共)が台湾海峡で進める「法的戦」が、段階的にエスカレートしている可能性が浮上している。まず、海峡中線より東側に位置する澎湖周辺の水域で、最近複数回にわたり中国海警局の船舶が中国漁船とともに侵入した。台湾の海巡船が越境操業する中国漁船に対し取り締まりを行おうとすると、海警船がこれを妨害し、逆に澎湖水域で中国漁船への臨検などの「執行行為」を行ってい......
エヌビディアの輸出規制に転機か ジェンスン・ファン氏がトランプ政権を説得、対中販売に光明 Nvidia(エヌビディア)は好調な業績を維持する一方で、CEOのジェンスン・ファン氏(Jensen Huang)を長く悩ませてきた対中チップ輸出規制に、ここへ来て追い風となる動きが伝えられている。米連邦政府が方針転換する可能性が高まっており、事情に詳しい関係者によれば、ホワイトハウスの官僚が議会に対し、中国やその他の対立国へのAIチップ販売を制限する措置に......
AI時代の「新たな石油」は電力 中国が圧倒的優位を確保、米国は追随 台湾は構造的制約に直面 世界的に人工知能(AI)が急拡大するなか、「電力」が国際競争の核心資源として浮上している。一般にはNVIDIA(エヌビディア)のGPU供給不足や巨大モデルの急増、AI応用の爆発といった現象に注目しがちだが、データセンターの電力消費が都市規模に迫るなか、計算能力の拡張を本質的に左右するのはエネルギー供給そのものである。産業専門家で、微驅科技の総経理を務める呉金......
冴羽獠と香の40年をたどる「シティーハンター大原画展」上野で開幕、貴重原画400点以上展示 400点超の直筆原画が集結シティーハンター大原画展東京会場実行委員会は、40周年を迎えた『シティーハンター』を記念して開催される「シティーハンター大原画展~FOREVER, CITY HUNTER!!~」の展示内容を発表した。1985年から「週刊少年ジャンプ」で連載された同作は、累計発行部数5,000万部以上を誇る人気アクションコメディで、超一流の腕を持ちな......
「留学は政治と関係ない」対日関係悪化でも中国の若者が日本留学を選び続ける背景とは 高市早苗首相が「台湾有事」論を公に述べたことを受け、中国政府が強く反発し、日中関係は再び緊張状態に陥った。中国外交部は厳正な立場を示すだけでなく、自国民に「日本への渡航を控えるように」と呼びかけ、さらに日本への留学や遊学の判断についても慎重を求めている。しかし、こうした政治的圧力にもかかわらず、日本留学を目指す中国人学生の意欲は驚くほど揺らいでいない。日本メ......
「台湾有事は日本有事」背景にあるのは災害支援の積み重ね 専門家が語る日台関係の変遷 高市早苗首相が近年、「台湾有事は日本有事だ」と改めて強調したことで、緊張状態にあった日中関係はさらに一段と高まった。同時に、「なぜ日台関係はこれほど友好的なのか」という問いが改めて注目を集めている。時間軸を2011年の東日本大震災(以下、3.11)まで遡ってみると、この言葉の背後にある感情的土壌が見えてくる。政治評論家の黄暐瀚氏はThreadsで、日台関係は......
中国籍疑惑の元フィリピン市長に終身刑 700人超の被害者救出の「詐欺拠点」関与で有罪判決 フィリピンの裁判所はこのほど、国籍を偽造したとされる元市長アリス・グオ(Alice Guo/郭華萍)被告について、詐欺拠点の運営や数百人の被害者に対する強制労働、違法な人身売買への関与を認定し、終身刑を言い渡した。さらに、200万ペソ(約530万円)の罰金支払いも命じられた。グオ被告本人はすべての容疑を否認している。特に、フィリピン国内メディアだけでなく海外......
AI依存で人間の創造力が衰える?専門家「右脳の機能が低下する可能性」 世界的議論が拡大 ChatGPTを代表とする生成AI(Generative AI)や大規模言語モデル(LLMs)の急速な普及を背景に、いま世界では「人間の思考様式」が変わりつつあるのではないかという議論が広がっている。「左脳は論理、右脳は創造性を司る」という有名な分業モデルを耳にしたことがある読者も多いだろう。しかし最新の研究では、AIを頻繁に使用することで、私たちの右脳機能......
高市早苗氏の「台湾有事」発言 岡田克也氏が語る「予想外の真相」 日本の高市早苗首相が「台湾有事」と集団的自衛権(あるいは、集団的自衛権行使を認めるための「存立危機事態」)を事実上結びつけたことが、最近の日中対立の最大の引き金となった。注目すべきは、高市首相が自らこの話題を切り出したのではなく、国会答弁で議員からの質問に答える形で言及した点である。では、質問した立憲民主党前幹事長で衆議院議員の岡田克也氏は、なぜこのテーマを......
日中対立の余波、韓国は「板挟み」 専門家「ソウルは巻き込まれない戦略が必要」 日中関係が高市早苗氏の発言をきっかけに急速に悪化し、文化・観光分野の摩擦は経済・貿易へと広がりつつある。そのはざまに位置する韓国もまた、少なからぬ外交的プレッシャーにさらされている。韓国の専門家の間では、ソウルが今後、日中双方との関係をどうバランスさせ、思わぬ形で巻き込まれたり、「台風の吹き返し」を受けたりしないようにできるのかが大きな課題になるとの見方が出......
高市早苗首相「台湾有事」強硬発言で支持高止まり 矢板明夫氏「この状況なら不信任案は必ず可決」 高市早苗首相が先日、「台湾有事」の際には日本が集団的自衛権を行使するとの考えを公に示し、中国側の強い反発を招いた。中国は日本が台湾海峡問題に介入する姿勢を厳しく批判し、正式に抗議した。これについて、インド太平洋戦略のシンクタンクを率いる矢板明夫氏は、高市早苗氏が少数政権で国内で大きな圧力を抱えているため、就任を支えた保守層に応える形で、従来とは異なる姿勢を示......
Nothing、公式サイトでブラックフライデーセール開催 人気製品が最大40%オフに Nothing Technology Japan株式会社は、11月20日から12月2日まで公式サイトでブラックフライデーセールを実施し、スマートフォン、イヤホン、ヘッドホンなどの人気製品を最大40%オフで販売すると発表した。今年発売されたPhone(3a)やHeadphone(1)、CMF Headphone Proも特別価格で登場し、年間で最もお得に購入で......