台湾で行われた7月26日の大規模リコールに続き、8月23日の第2波リコールも全て否決され、国民党の立法委員は一人も失職しなかった。逆に「反対票」が大きく上回り、結果は「31対0」の全敗。予想通り、頼清徳総統の「敗戦後の談話」もまた、期待を裏切る内容だった。
旧原発再稼働の検討──経営者・童子賢氏への慰めか?
そもそも総統がリコール選挙に深く関与する必要はなかった。にもかかわらず、頼氏は自ら前面に立ち、「国家の団結十講」を打ち出したものの、早々に腰折れとなった。また第三原発(核三)の再稼働国民投票についても「安全は投票で決めるべきではない」と言いながら、わざわざ「反対票を投じる」と表明した。結果は、7人の国民党立委が全員無事に議席を守り、第三原発再稼働も約66万票差で成立条件を満たせなかった。ただし賛成票数は前回の第四原発の再稼働投票を上回り、しかも立地県の屏東でも賛成票が反対票を超えた。台湾社会における「非核」の風向きは明らかに変わりつつある。もし今回の公投が最初のリコールと同時に実施されていれば、可決の可能性もあったとみられる。
頼氏はエネルギー政策について「一定の柔軟性」を示した。国民投票は成立しなかったが、多様なエネルギーへの社会的期待は理解していると語り、五月改正の《核子反応器管制法》を根拠に、まず原子能委員会(核安会)が安全基準を定め、次に台湾電力がその基準に基づいて自主的に安全点検を行う、とした。さらに点検の進捗やリスクを定期的に公表し、基準を満たせば核安会で審議する方針も示した。これは「旧原発機を再稼働させる可能性」を含むシグナルであり、長年「脱原発」を掲げてきた民進党の姿勢にも揺らぎを与えるものだ。台湾の産業界にとっても、電力構造の見直しは避けられない。経営者であり、今回の国民投票で賛成派の代表的存在となった童子賢氏(大手EMS企業・和碩聯合科技の会長)にとって、これは一定の慰めとなったかもしれない。だが実際に政策転換を実行できるかどうかは、最終的に頼氏のリーダーシップにかかっている。
31対0の全敗──頼清徳氏が気にしているのは「百万青鳥」?
リコール敗北の直後から、民進党内部では「脱原発」を政見に掲げていた頼氏が方針を変えるなら、それは次の任期であるべきだ、との指摘が上がった。また、今回の第三原発国民投票を主導した民衆党の黄国昌立委に対し、「11億元(約53億円)の公費を無駄にした茶番だ」と批判する声も出ている。しかしその理屈で言えば、民進党自身が市民団体を盾に進めた大規模リコールこそ、16億~17億元(約77億~82億円)の公費に加え莫大な民間資源を浪費し、結果は「31対0」という大敗。台湾政治における最大の茶番であり悲劇ではないか。
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第三原発再稼働がすぐに実現するものではないのに比べ、大規模リコールの惨敗は現実の政治的打撃として直撃した。にもかかわらず頼氏は「百万人の署名でリコールを求めた国民の声を聞くべきだ」と述べ、まるで反対票を投じた圧倒的多数の民意を軽視するかのような姿勢を示した。総統として「国民を団結させる」と言いながら、実際に向き合ったのは一部の声に過ぎない──ここに頼氏のリーダーシップ不足が透けて見える。