台湾での大規模なリコール戦がついに終結し、民進党は全敗という結果に終わった。しかし、その余波は意外な形で国民党の新世代の権力図に影響を及ぼしている。
2018年の地方選挙では、当時の国民党主席・呉敦義氏が候補者指名を主導。その結果、民進党が支配していた13県市のうち7つを失い、屏東、台南、嘉義、新竹市、桃園、基隆の6つを残すのみとなった。国民党は6から14に議席を増やし、台北・新北・高雄の3大直轄市を制した。特に高雄は緑営(民進党)が20年支配してきた牙城だったが、韓国瑜氏がこれを突破し一躍党の象徴となった。
その布陣の中でも成功例とされたのが「七仙女」と呼ばれた7人の女性首長だ。林姿妙(宜蘭)、徐榛蔚(花蓮)、饒慶鈴(台東)、黄敏惠(嘉義市)、王惠美(彰化)、張麗善(雲林)、盧秀燕(台中)の顔ぶれで、その勢力は東台湾から中台湾にまで広がった。「禿子の韓国瑜、漢子の侯友宜、燕子の盧秀燕」は国民党の象徴的存在となり、それぞれ2020年、2024年、そして2028年の大統領候補に擁立されることになる。

堅実な実力、リコールグループの分裂
2022年の選挙ではこの「七仙女」が全員再選を果たし、加えて新竹市長・高虹安氏、南投県長・許淑華氏といった新たな女性リーダーが台頭した。ただし高氏は汚職問題で失速し、注目は自然と許淑華氏へ集まった。2026年には「七仙女」の任期満了が迫り、南投に拠点を固めた許氏が盧秀燕市長に代わる「中台湾の女王」として期待される構図が鮮明になっている。
南投県は二つの選挙区に分かれる。第1選区(烏渓線)を守るのは国民党の馬文君氏。埔里鎮長や県議を経て、2009年の補欠選挙を含め5回連続で立法委員に当選してきた。父の馬榮吉氏も埔里鎮長や台湾省議員を務めた政治家であり、地元に強固な基盤を築いている。2023年には潜水艦国造計画に関する「機密漏洩」や「外患罪」の疑惑で批判を受けたが、それでも選挙民は馬氏を支持し続け、地元での影響力の強さを示した。
今回のリコール戦は、馬氏にとって比較的安定した情勢だった。地元関係者によれば、彼女自身の強い地盤に加え、リコール推進派が分裂したことが大きな要因だ。民進党寄りの「ALL罷馬」と、街頭運動を重視する「草屯罷馬志工団」が互いに対立し、名義や物資を巡ってSNSで非難を応酬。「ALL罷馬」側は「草屯」との無関係を強調し、名義の不当利用をやめ、物資や志工ベストを返還しなければ法的手段を取るとまで警告していた。
ただし、最大の課題は「投票行動の誤解」にあった。地方の支持者の中には「投票しなければリコール反対の意思表示になる」と誤解する人も多く、馬氏陣営は「反対するなら必ず投票所へ」と呼びかけ、動員を強化してきた。

南投のリコール結果は 許淑華氏の実力と影響力を占う指標
2026年に向けて中部の台中・彰化・南投3県市に注目が集まる。王惠美氏(彰化)、張麗善氏(雲林)、そして「不敗の女王」と呼ばれる盧秀燕氏(台中)は任期満了を迎える予定であり、再選を狙う中部の首長としては、南投の許淑華氏がより大きな役割を担うことになる。特に盧氏は、国民党内で2028年の大統領選に挑む最有力候補と目され、全国的な応援活動に奔走することが確実視される。そのため、彰化・台中・雲林の新たな首長候補が選挙区に専念する一方で、許氏が「中台湾の新女王」として後継の重責を担うことが期待されている。